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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第4章・南西地域の騒動と平穏
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107・青スライム、銀孤を見つけ出す 後

「だからではないかと私は思うのですよ。

 先王様、王妃様の遺体の凄惨さをその目に焼き付けてしまったからこそ、一人で背負おうとしているのではないかと。

 それが例え、覚醒によって失われた記憶だったとしても……心の奥底、記憶の深層に残っているからこそ、あの方は一人で孤独に戦おうとするのだと」


 そう語るリカルデさんの目はどこか遠くを眺めているような……そう、まるで過去を思い出しているようでした。

 私はティファさまがずっと一人で戦っていこうとする気持ちがあまり良くわかっていませんでした。

 クルルシェンド・ドワーフと、今にして思えばセツキ王のときも単なる決闘だから……命を賭ける程ではないから何も言わなかっただけで、もし本当の戦闘だったんなら止められたんじゃないかと、そう思いました。


「愛しい人をただ失うだけでしたらこのようなことはなかったかも知れません。ですが、それがもし筆舌に尽くしがたいほどの無残な姿を見せつけられたのだとしたら? ……私も先代魔王様の遺体はこの目で拝見しました。あのような姿で戻られたのを見れば、そう思うのも無理もありません。

 もし再び、自分の大切な人があのような姿で帰って来てしまったら……」


 私では多分、その気持ちを正確には理解できないのでしょう。

 それはその場に居合わせた人だからこそわかる悲哀の感情だと思うからです。

 ティファさまのご両親を知ってる方でない限り、その辛さは理解できないんだと。


「もちろん、国を守る為というのもあるでしょう。お嬢様はお優しい方です。自分が多少傷つくことぐらいなんとも思わないでしょう。

 ですがそれ以上に、もう誰も失いたくない。いなくなってほしくない……そういう思いが先行しすぎているのではないかと、私にはそう感じてしまいます。そしてそれは私では諌めることが出来ないでしょう」


 若干顔を伏せて、思いつめるような表情をリカルデさんは浮かべていました。

 諦めの感情……そういうものじゃなくて、私やケットシーさん達のように覚醒されたティファさまの事しか知らない人にはわからない……同じ時を過ごしてきたからこそリカルデさんはそう考えているのでしょう。


「アシュル。それはきっと、貴女の役目ですよ。私がお嬢様にお伝えしても、意味はありません。

 私は……そうですね。きっと私もあの御方と似たような考えをしているでしょうから。

 お嬢様の事を一番に考えている貴女の言葉であれば、きっと届くと思います」


 私にしか出来ない。そう言われたリカルデさんの目は、どこまでも真剣で……吸い込まれそうな程にまっすぐな目に、私は思わず頷いてしまいました。


「わ、わかりました。どこまで出来るのか、ティファさまに伝わるかはわかりませんが……精一杯頑張ります!」


 本当に私達の言葉がティファさまに届くのか……それはわかりません。

 ティファさまが魔王になられてから契約した私では、あの方の本当の痛みも苦しみもきっと全部わかることなんて出来ないですから……。


 でも、ティファさまのためなら私はきっと何でも出来ます。

 例えリカルデさんみたいに同じように傷ついたわけではないにしても、今私が抱くこの気持ちは、ティファさまに一人で抱え込んでほしくない。貴女の重荷を一緒に背負っていきたい。出来る限り貴女を理解したい。

 その思いはきっとティファさまにもわからない……私だけの本当の想いですから。






 ――






 ――デリウヘルム・城内――


 ティファさまは現在も一人で戦い続けています。

 それはフラフさんやウルフェンさんが囚われているからというのもあるでしょうが、それでもやっぱり一人で戦うんですね。

 助けなければいけない……それは十分わかっています。それを私に任せてくれたということはそれだけ私のことを信頼してくれている。

 私だから任せられると判断してくれたからだと思っています。


 ですがそれ以上にあの時のリカルデさんの話のせいか……どうしてもティファさまが私を戦場から少しでも遠ざけているようにしか思えなかったのです。

 それがティファさまの本意ではないだろうとわかっていても……。


 それなら、手早くフラフさんとウルフェンたちを救出して、ティファさまと合流しなくては。

 そんな思いに駆られ、ひたすら走っていた私は、とうとう地下牢にたどり着きました。


 最速でここにたどり着けたおかげで、どうやら城内の騒ぎはまだここまで及んでない様子でした。

 さすが『アクアディヴィジョン』です。あれがなかったらもうちょっと苦戦していたかも知れません。

 そのまま魔導を解除した私は、一直線にフラフさん達が囚えられている牢の方に辿り着くと、三人とも一斉に私を見て驚いた様子でした。


「アシュル! なんでここに?」

「詳しい話は後です。『アクアブラキウム』!」


 私は自分のイメージした水の腕で牢の格子をこじ開けるように思いっきり開きました。

 まるでそれが当然であったかのようにスムーズに壊すことに成功した私は、早く外に出るように三人促しました。


「早く、外に!」

「ありがとう」

「済まない」


 フラフさんとウルフェンさんが私が開いたところから外に出ていってくれましたが……なぜか最後に残った赤い髪の狐人族の男性は丁寧に頭を下げてお礼を言ってくれました。


「ありがとうございます。私はクルルシェンドの使者としての任を命ぜられたマヴィンと申します」

「……は、はい。私はアシュルです。よろしくおねがいします」

「こちらこそ、お願い致します」


 こんな状況で相当丁寧に感謝されてしまったせいで思わず一瞬硬直してしまいましたが、なんとか持ち直しました。

 いくら今の城内の事情を知らないと入っても悠長過ぎるような気もしますが……。


「さあ、早くここから逃げましょう」

「ここには、アシュルが、一人できたの?」

「いいえ、ティファさまが今一人で戦っていますよ」


 私がティファさまも一緒に来ている事を伝えると、はにかむように嬉しそうにフラフさんは笑っていました。さすがティファさま。ですが今はそんなふうに和んでる場合じゃありません。

 思わず焦っていると、それに水を差すかのようにマヴィンさんが申し訳なさそうに話しかけてきました。


「ちょっと待ってください。まだフェリアさんが囚えられたままです」

「妖精族の使者、フェリア。あたしたちと、別々になった」


 これは困ったことになりました……。

 どうやらフェアシュリー側の使者はこの三人とは別の部屋に隔離されているとのことです。

 どうしてその方だけ……と考えたのですが、今はそれを深く追及している暇はないと判断しました。


「少なくとも他の牢の中にはいないようですが……」

「フェリア以外牢に入れろとあの獣人族は言っていた。それならフェリアは、来客用の部屋にいる可能性がある」


 そうですね。その方だけ帰すなんて真似をするような人たちには少なくとも見えませんでした。

 時間もそんなになく、この城に詳しくない私達が取れることと言ったら……。


「『アクアディヴィジョン』」


 再び私の分身――といっても柔らかい球体のような姿の私を呼び出しました。

 私の魔導を初めて見た三人は驚いてる様子でしたが、それを尻目に最後の一人であるフェリアという妖精族の女性を探す為に行動を起こさせました。

 名前ぐらいしかわかってないですが……それは私達が探している間に聞けばいいでしょう。


「さ、私達も探しましょう。今は城の兵士たちの注意も逸れていますし、動きやすいはずです」

「だったら、手分け、しよう。その方が早い」


 これで決まりだ! と言わんばかりに自信を持って話していますが、それは得策じゃないでしょう。

 現状戦力と呼べるのは私とウルフェンさんの二人。

 フラフさんと初対面のマヴィンさんが戦っている姿なんて見たこともないですし、今の状況で戦力として数えるには不安があります。


「いえ、私は集団で行動すべきだと思います。他の方はともかく、私自身はほとんど戦えないと言ってもいいですし、あまり得策ではないです」

「そうだな。俺もアシュル同等の戦力と数えられても困る。この国の兵士たちに囲まれたら為す術がない俺達が分かれるより、固まって行動した方がいいだろう」


 自信満々に言ってた割にあっさりと二人に却下され、悲しげな表情になるフラフさん。

 私も二人の方に賛成です。今また人質に取られれば、今度は救出が難しくなるでしょう。


 最悪、手も足も出ない状態に追いやられるかも知れません。少なくとも見えない所で人質になられるより、目の前でなられたほうがずっとマシでしょう。


「今、私が魔導で分身を作りましたから、それと並行して探せば少しは早くなるはずです。ティファさまが戦っておられる場所はそれに探させますから、私達はこの地下から上がってすぐの場所から探しましょう」

「わかった」

「……はい」


 若干落ち込んだ様子のフラフさんはさておき、残りの二人は私の意見に反対はないようですので早速行動しましょう。


「ところで、そのフェリアさんという妖精の人はどんな方なんですか?」

「ピンク色の髪の、いつも笑顔で、ふわふわした女の人」


 ふわふわしたって……ちょっとよくわからない説明だったので、一番真面目そうなマヴィンさんの方に目を向けてみたんですが……。


「そう、ですね。常に柔らかい雰囲気を纏った女性といいますか……笑顔の絶えない方でしたね」


 なんだか微妙に要領を得ないです。

 ……今思い出しましたが、妖精族っていうのは背中に羽のようなものが生えてる種族でしたね。


 それなら、フェアシュリーならともかくこの獣人族の国、グルムガンドだったら逆に目立つでしょう。

 二人に聞く前にもっと早く気付けばよかったです……。


 とりあえず、ピンク色の髪の、羽の生えた女性を探せばその人がそのフェリアさんなんでしょう。

 さすがに間違えるはずもないですし、大丈夫だと思います。


「大体わかりました。ちょっと大変かもしれませんが、出来るだけ私から離れないようにしてくださいね」

「はい、戦いの方はおまかせします」

「よろしく」

「後ろの警戒は任せろ」


 こうして私達は、今度はフェリアさんを探しに向かうのでした。

 早く見つけ出してティファさまに合流しないといけませんね!

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