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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第4章・南西地域の騒動と平穏
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103・魔王様、結論を出す

 あのバカ(使者)を言葉も発せないほどぐるぐる巻きにしてやって若干イライラしながらも戻った執務室。


 こうなっては色々と問題も多くなってきた。

 グルムガンドが面倒なことを引き起こしてくれたせいでもあるけど……もっとこういう事が起こる可能性を視野に入れるべきだった。


 グルムガンドはセントラルでエルフ族と魔人族に迫害を受けた結果、妖精族と共にこの南西地域に逃げてきたっていう歴史がある。

 魔人族である私の国・リーティアスとの同盟に反対する者も多かったはずだ。現にあそこはそういう勢力が力を付けていて影響力も大きいと聞く。


 幸い国民の風潮としてはもはや長い歴史の中での事ということで半々といったところらしいけどね。

 ビアティグなんかはどちらかというと自分にも利があるとわかったら手を組むことをいとわないタイプと言えるだろう。

 もちろん、あの魔王も好きか嫌いかで聞けば嫌いだと答えるだろう。あそこは表立って賛同することが出来ない国だからね。


「お嬢様、お呼びでしょうか」


 私があの国(グルムガンド)について考えていると、相変わらずの丁寧なノックの後、リカルデがいつものように入室してきた。


「ええ、ちょっと貴方に相談したいことがあってね。忙しい所にわざわざ来てもらってごめんなさいね」

「いいえ、お嬢様のご命令こそが私が最優先することでございますので……それで、どのようなご用件でしょうか」

「実は――」


 そこから私はグルムガンドが使者を送ってきたこと。そこから彼が提示してきた同盟の内容。使者のふざけた態度にアシュルがブチ切れしてしまったことを事細かに話した。

 私に対して取った不遜な態度のことを伝えている最中にリカルデが怒りを体中からにじませていたけど、とりあえず話し続け、全部語り終えた時にようやく一息ついた。


 あまりに話しすぎたところからちょっと喉が渇いてきたな……。

 そんなことを考えていたのがリカルデにはわかったのか、私のお気に入りである深紅茶を淹れる為に断りを入れ、部屋から離れていった。


 さすがリカルデ、気が利く。

 いや、私が先にリュリュカ辺りにでも頼んでおけばよかったんだけど……つい忘れてしまった。

 それだけ頭に来てたってことかも知れないけど。


 その後、戻ってきたリカルデの淹れてくれたお茶で喉を潤し、改めて会話を再開させる。


「……ありがとう。それで、これからの予定なんだけど……ちょっと厄介なことになってしまったわね」

「セツキ王の来訪の件、ですね」


 さすがにわかっている。問題はそこだ。

 グルムガンドの使者がああいう態度を取ってきたということは、もう和解は無理。

 どうあがいても一戦交えるしかないだろう。


 だけどそこでネックになってくるのがセツキの存在……というか来訪の時期だ。


「彼は11の月ズーラにやってくると言っていたけど……正直いつになるかは詳しく聞いてないのよね……」

「こちらも宣戦布告のために使者を送らなければなりませんが、それは……」


 そう、それは黙って処刑されに行け……酷い言い方をすれば死にに行けと言っているようなものだ。

 どうしてわざわざそんなバカげたことをしなければいけないのか……かと言って今捕らえたばかりの使者を逃したところであまり意味はないだろう。

 無駄かもしれないが、使者(この男)はフラフ・ウルフェンとの交換に使いたい。


 少なくとも今逃がすよりはよっぽど有用な使い方だ。

 と、なれば残るは……。


「恐らくビアティグ程度、今のアシュルであれば何の問題もなく蹴散らすことが出来るでしょうね。

 だけどグルムガンドの裏に上位魔王が居た場合、万が一フラフ達が盾にされた時にどういう行動を取るか……を考えたらアシュル一人では行かせられない」


 必然的に私が出張る必要があるだろう。

 唐突に魔人族を隷属させよう、排斥しようとする勢力がビアティグを抑えたか取り込んだかで国を掌握。

 私の所に使者を送り、挑発するなんて流れにはならない。いくらなんでもこの展開は急すぎる。

 裏で誰かが糸を引いていると考えたほうが良いだろう。


 私にちょっかい掛けてくるような存在なんてエルフ族か、そいつらの仲間である上位魔王の誰かくらいしかいないだろう。

 尚更私自らが行って事態の収拾を図った方が良いというものだ。


 だけどそうなってくると今度はセツキの方が問題になってくる。


「せめてセツキがいつ来るか聞いておけばよかったわ。あの時はついそのまま何も聞かずにいたけど……」

「どうされますか? 今のところこちらの使者は生きているようですが……」


 そう、グルムガンド側がわざわざフラフ達を処刑すると言ったということは彼女たちは少なくとも無事だということだ。

 まあ、あのお守りのおかげで手が出せないのかもしれないけど。


 どちらにせよ上位魔王が絡んでる可能性を考えれば、そのお守りもそんなに当てには出来ない。

 ビアティグかセントラルの弱い覚醒魔王程度ならまだ問題ないんだけど……さすがに上位魔王を想定してはいないからなぁ……。


「セツキよりもグルムガンドを優先しても良いんだけど、それをしたらまず間違いなく対外的に悪いイメージ与えることになるでしょう。セツキ自身にもあまりいい顔はされないでしょう」


 そうなんだよなぁ……だから悩む。

 あんまり長い間悩んでたってしょうがないんだけどさ。


「こうなったらやれることは一つ。ワイバーンなら恐らく1~2日ぐらいで帰り着くことが出来ると思うのよ」


 南西地域にあるこのリーティアスから南東地域にあるセツオウカまでそんなに日数がかからなかった。

 私の推測では南西地域内であれば、日帰り出来るほどの速度が出るだろう。


 その気になったら一日でグルムガンドに行って、速攻で制圧して戻ってくるってことも可能なのかもしれない。

 だが、少なくとも余裕は見ておいた方がいいだろう。

 それならやはり二日はかかることを想定して動かなければならない。


「ですがその間にセツキ王がいらっしゃるかもしれません」

「なら……ならこうしましょう」


 どのみち私が行かなければ話にならないのだ。

 ビアティグもこんな面倒なことになる前に手を打ってくれればとも思うけど……過ぎてしまったことは仕方ない。

 あの時は私もリーティアスを離れている時期が長かったし、どうしようもない面もあっただろう。


「八日……八日間だけ待ちましょう。それだけ待ってセツキが来なかったらグルムガンドに乗り込むわ。

 その後にセツキが来ても多少言い訳も立つというもの。少なくとも今すぐ出撃して、次の日にセツキが来るという間の悪さは回避できるでしょう」


 一応待ったという事実さえあればセツキも納得するだろう。

 本当は来るまで待ったほうが良いんだけど、フラフやウルフェン……それにフェアシュリー・クルルシェンド側からも人を出している可能性がある以上、見捨てるという選択肢はない。


「……なるほど。ここからフェアシュリーの首都まではラントルオでおおよそ十日程。ワイバーンで最長二日の時を要するのでしたらそれだけの余裕はある……というわけですね」

「その通り。理想はもちろん、明日にでもセツキがやってきて、今の状況を説明出来れば、だけどね」


 ワイバーンはセツキから借り受けているものだし、出来るならばあまり危ない場所には連れて行きたくない。

 万が一死んでしまえば相当の責任問題に発展する。


 本当ならラントルオで行くのがベストなんだろうけど、それじゃあ状況的に今すぐ行かないと間に合わない。

 セツキが来ることを考えれば、使える手はなんでも使わないとこれを打破できないだろう。


「リカルデはいつでも軍を動かせるように準備だけはしておいて。

 ありえないだろうけど、ビアティグ……もしくはグルムガンドを今操ってる者を取り逃がしたら、そのまま軍対軍の戦争に発展するかもしれないから」

「かしこまりました。間に合わないかもしれませんが、出来うる限り急いで準備致します」

「それと、セツキが来なかった時の言い訳もよろしく」

「…………かしこまりました」


 さすがにそれには返答に時間がかかったけど、アシュルに説明させて変に煽られでもしたら困る。

 セツキ自身が介入することはないだろうけど……もしやってきたらそれこそ更に面倒なことになるからね。


 だからリカルデに言い訳させて時間を稼がせる。彼ならそれくらいやってくれるだろう。


「それじゃあお願いね」


 一通り今後の方針についての結論は出たし、早速行動してもらわないといけない。

 そして……私も出来る限り書類整理をこなさなければならない。


 グルムガンドの件が終われば大なり小なりこの執務室にはさらなる山を築き上げられるだろう。

 それに手間取ってしまえば12の月ルスピラに行うドラフィシル漁に参加することは難しくなる。


 それはさすがに許容することは出来ない。

 最近本当に極偶に外食に行くか、お茶の時間を設けるか……それ以外は全て書類を片付ける時間に使っているのだ。

 三ヶ月弱この国を離れていたツケが今になって回ってきており、五日に一回仮眠を取る程度の生活状況に陥ってるくらいだ。

 私のおなじみ回復魔導『リ・バース』がなかったら疲労と仕事量に正常な判断力を失っていたかもしれない。


 本当に私がこの魔導を使えてよかったと思う……本当の使い道ではないんだけどさ。

 最初に『リ・バース』を創り出した時にはまさかこういうことに使うことになるとは思いもしなかった。

 そのおかげで毎回万全の体調に戻るわけだから世の中何がどういう影響を及ぼすかわからない。


 とりあえずお茶の時間を減らして、その分仕事に当てようか……。

 八日以内に終わる保障もないが、セツキがやってきたら少なくとも彼の相手をしなければならないだろう。


 ドラフィシルの件もあるし、彼に聞かなければならないことも多い。

 はぁ……せめて1の月ガネラに来てくれればまだ暇があったんだけど……たしかセツオウカにはガネラにもなにかイベントがあったはずだ。

 12から1に戻る……それは生まれ変わるということを意味しているらしく、新しい月の始まりを祝う行事なのだとか。


 そんな大事な時に席を外すなんて出来ないだろうし、私の都合でセツキのスケジュールを狂わせるわけにはいかないだろう。

 そう思って書類の山に全神経を集中させることにした。


 ――そうして時間が過ぎていった先、私はいよいよその時を迎える。

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