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馬鹿し合い

エレベーターがコアルームにつくと、アラートが鳴り響いていた。


「侵入者 現在2階層にて交戦中 指揮を マスター」


エレベーターから降りた俺たちに気が付いたのか、電子音声のような感情の無い声でコアが緊急事態を告げる。

……そんなことより2階層? 

リンはさっき俺たちと別れたばかりのはずだ。侵攻速度が速すぎる。

俺のダンジョンが出来立てでいくらそれほど広くはないといっても、そんなことがあり得るのか?


「2階層の入口は 1階層に降りて すぐ見える位置が 初期配置となっておりました」


なんというガバガバ設計。

セキュリティもクソもない。何故俺はもっと色々みておかなかったのか! 俺のばか!


「それだけじゃないみたいっぽいよ」


そう言ったコットンが指差すディスプレイを見て、俺は息をのんだ。

そこには大剣を自在に振るい、信じられない速度と膂力でもってアンデッドたちを木端のように軽々と蹴散らして暴れまわるリーンがいた。


まるで紫の毛並の美しい猛獣だ。あれはどうにもならない。

あれが冒険者の標準なのか、あんなんだから上級冒険者と呼ばれるのか。同じ人間とはとても思えない動きだ。


あんなもの、このダンジョンのスケルトンやゾンビでどうにかなるのか?

……無理だ。見ている限り、とても相手になっているとは思えない。

誘蛾灯さながらにリンに次々ゾンビやグール達が群がっては消し飛ばされていく映像は、嫌でも俺に死を想起させた。


「マスター 指揮を」


コアにそういわれ、俺はバッと大げさな動きでコットンを見ると、彼女はいつの間に用意したのか、小さなティーテーブルにティーセットを広げ、小柄なスケルトンに給仕をさせていた。


「……コットン! お前ならどうにか出来るんじゃないか!?」

「んー? どうにでも出来るよ。モチ、どうもしないケド。とりあえずダーちゃんも座ろ。ほらほら」


ぺちぺちと、コットンは自分の隣に並べられた、白い木製の椅子の背を叩いた。実に暢気な様子だ。

可愛らしさが先に立つが、豪奢な細工がされた椅子は見た感じアンティーク家具に見える。非常にお値段が張りそうだ。

早く早く と催促する声と手に、給仕? の小柄なスケルトンの手も追加されてカタカタと軽い音を鳴らしている。


「はぁ!? どうもしないって、見ろよあれ! リンが物凄い勢いで来てるじゃないか! 無双ゲーみたいになってる!!」

「ムソウゲー? 何言ってるかイミフなんですけど。いいからほら、座んなってば。折角のいい機会なんだから」

「いい機会?」

「そ、ダーちゃんに特別授業。コットンせんせーによる、『ピヨマスでもわかる、簡単ダンジョン講座』の始まり始まり。だよ」


こんな事態が切迫した状況で何言ってるんだ、俺は命がかかってるんだぞ! と叫びだしたい気持ちで、コットンを睨むが、そんな彼女はと言えばニコリと笑顔で返し、給仕のスケルトンにホワイトボードのようなものを引いてこさせてその前に立ち、コホンと一つ咳払いをした。


有無を言わせぬその態度に、何をいってもダメかと嘆息し、仕方なく俺はスケルトンが引いた椅子に腰かけてお茶を口にすると、カモミールのような優しい匂いがして、思わず息をついた。


「少し落ち着いたカナ? そんじゃ、とりま簡単にダンジョンのことを勉強しよっか」

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

「んー、むしろダーちゃんは、何がそんなに心配さん?」


そう問われ、俺は勿論今まさに群がるアンデッドを鎧袖一触蹴散らしながら、その歩みを全く止める気配のないリーンが映ったディスプレイを指差す。


「あんなに強いんだぞ。うわっ。みたかほら、剣を振るたびに色んものが飛び散って……うわぁ……」

「んふふ。やっぱりダーちゃんはヒヨコちゃんですなー。ピヨピヨかわいいですなー」

「どういう意味だよ?」

「……あんな無茶苦茶なペースで大暴れして、人間の体力でどこまで持つと思う?」


言われてみれば確かに、あれだけ周囲一面を覆い尽くすゾンビーズ達をバッタバッタとなぎ倒してはいるが、リーンさんは確かに血の通った人間だった。

まるでゲームのように余りにも常識外に大暴れしていたから考えが及ばなかったが、あんなデカい剣を全力で振り回して、飛び回って、体力が持つとは思えない。

……思えないんだけど、ディスプレイに映ったリンの顔は汗だくだけどなんか薄ら笑ってるし、余裕がありそうにも見えて怖いんだけど……。


「あとは心理的なものもあるカナー。ダーちゃんの中で、ダンジョンってどんなイメージ?」


ダンジョンのイメージ。

そう言われて思い浮かぶものは色々だ。

冒険の途中どうしても必要なアイテムを取りに行かねばならないダンジョン。RPG等によくあるもの。


ラノベなんかだとギルドからの依頼がーとか、魔物の素材がーとか、そういう希少価値を求めて潜るものってイメージもある。


あとは毎度潜るたびに形が変わるダンジョンで、アイテムをとって最深部を目指すとか。ローグダンジョンっていうジャンルだったか。死んだら実入りは0で入り口からやり直しっていうやつ。


そんなあたりの思いついた取り留めの無いことを話すと、コットンはフムフムと頷きを返し、その中の二つ、ラノベで見たという話と、ローグダンジョンをピックアップし、スケルトンがホワイトボードに書き加えていく。……スケルトン自体が小さいので文字の位置が低く、ちょっと見づらい。


「この世界のダンジョンに近いのはこの二つ。結局旨味を求めて人間は来るわけだしね。毎度潜るたびに中の構造が変わるっていうのも、ダンジョンは成長するものだからトーゼン。んで、そのダンジョンの成長には3つの方向性があって、『繁殖』『拡張』『迷宮化』っていう3系統をそれぞれ魔物から出た魔力で伸ばしていく感じなワケ」


さらに突っ込んだ説明によると、『繁殖』とはその名の通り、モンスターが増え蔓延ることをいうらしい。

このダンジョンはアンデッドばかりなわけだが、アンデッドも繁殖する。らしい。

最初こそ死体や遺骨が必要になるが、それはあくまで最初だけ。その後は最初にいたモンスターの器が成長することで、下位の魔物が自動生成されていき、その後はツリー大系のように枝分けされていくんだそうだ。


ちなみにその最初のアンデッドとやらは、実は俺が目覚める前にコットンがこの周辺に弔われていた者を、一切合財アンデッドにして取り込むという無体を働いていたとのことで、それについてはしっかり叱っておいた。

1週間カップ麺抜きでは甘いかもしれないが、絶望に陥った表情をしていたので効果は抜群だと信じたい。


通常のダンジョンでは最初期に配分される最低限のソウルで、好きなモンスターを選んで召喚し、後の幹部モンスターとして大事に育てていくものなんだそうだ。

なんとなくゲームっぽくてそういうのも面白そうだなとつぶやいたら、コットンに凄い目で睨まれてしまった。初期ソウルは大事! らしい。


「『拡張は』文字通り、横と縦に広がっていくってこと。ちな今このダンジョンは7階層まであるよ」

「え、今朝は5階層までじゃなかったか?」

「うん。ぶっちゃけウチも驚いた。っていうかこのダンジョン色々変なんだよね。繁殖と拡張はドンドン進んでるんだけど、『迷宮化』が全く行われてないみたい」

「迷宮化されないと、どうなるんだ?」

「うーん。ただ只管だだっ広い部屋が延々続くというか……。更にモンスターの繁殖速度が異常だし、侵入った冒険者がどうなるかはご覧の有様って感じ?」


なるほど……。

そう言われて改めてリンが映るディスプレイに目をやれば、周囲一帯を相変わらず囲まれて、相変わらず薙ぎ倒している。

しかしこれをいつまで続けられるのか、3階層、4階層に画面を切り替えても、どこもかしこもアンデッドの満員電車のような状態だ。


「そういえば、ダンジョンで死んだら入り口からスタート とかそう言うのはないのか?」


先程のローグダンジョンの話でちょっと思いついた話を振ったが、コットンは何いってんの? みたいな呆れた顔で、スルーされてしまった。

ちょっと悲しい。


「たぶん今頃あの小娘はこう考えてるんじゃないカナ!? 『出来たばかりのダンジョンだ。ダンジョンマスターが慌てて総力を結集して迎撃にきた』って感じ? 超ウケる!!」


そう言ってギシリと口角を吊り上げる彼女の瞳は、真っ黒な底深い洞のような闇に、爛々とした期待が隠しきれていない。見る者に怖気をもたらすそれだった。

……彼女は人間じゃない。だからなんだ。今更ビビるな。これは仕方ないことなんだ。

帰る為には必要なこと。俺は雪子のいる世界に、何をしたって帰るんだ。

だから俺はコットンの手を取ると決めたんじゃないかと、内心自分に発破をかける。


「アハ! 見て! ダーちゃん! もう3階層の入口まで来たけど、あの顔! ボロボロで青ざめててとっても綺麗! あれだけ固い骨を叩いて砕いて切っていたのに刃こぼれもしていない魔剣は流石だけれど、

防具はもうボロボロ、肌を守る守護も切れて乙女の柔肌が所々ザクロのようで興奮しない!?」


ディスプレイの向こうでは、鎧を纏ったスケルトンの群れに襲われ、懸命に打ち払うリーンの姿があった。

コットンが言う通り、顔色は青ざめ、所々傷が痛々しく、剣にも先ほどまでの力が無いのは見て明らかだ。


ついさっき、殺されかけ、足をマッサージして、カップ麺をうまいと食って、恐らく彼女にとっては善意で、俺たちの力になりたいと、多分に彼女自身の都合があったにせよ、そう言ってくれた。

この世界で初めて接した『人間』である彼女が、今目の前で死に瀕している。

……違う、俺が殺そうとしているんだ。


……でも、本当に……彼女を犠牲にしてまで、いやこの先彼女以外にも何人も犠牲にして、俺は自分の世界に帰って、それでいいのか……?

他人の屍を積み上げて帰ったところで、俺は何もなかったように店でいらっしゃいませなんて言うのか? 雪子にただいまっていうのか? 

……どの面下げていけばいいのか、全然想像出来ないじゃないか。


その時、逡巡する俺のポケットで振動がなり、癖になった動作で自然にスマホを取出し、メッセージを確認したとき、俺に電流が走った。


「……コア、確認したいことがある」

「ダーちゃん?」

「何なりと ご質問をどうぞ マスター」

「このダンジョン内の"アンデッド"への指揮命令権の最上位って、俺であってる?」

「当ダンジョン内では マスターが 全てに優先されます」


そうか、と呟く俺に、コットンが訝しい目を向ける。

考えてみれば俺はこの世界に来てから、ずっとコットンと一緒で、コットンのいうことしか殆どこの世界のことを知らないし、全ての行動をコットンに掌握されているんだ。


「……なんか悪いこと考えてない? ダーちゃん?」

「いや、そんなことはないよ。でも、悪い、コットン。もう見ていられない。……ひと思いにやってやろう」

「んんー? 嫌ならベッドで休んでていいよ、ダーちゃんは何もしなくてもいい。言ったっしょ? ダンジョンのことは、みんなウチがやってあげるから……て」


そうだ。彼女は最初に伴侶になる等と言って、俺からサブマスターという権利を得た。

そしてそもそもその前に彼女が既にダンジョンに放っていたというアンデッド達。

更に、彼女は自分で言っていたように、元ダンジョンマスター。

そんなことをすれば俺のダンジョンがアンデッドが蔓延る、人気の無いダンジョンとなることなんて、最初からわかっていたことじゃないか。


何をするにもずっと俺と一緒の行動をする彼女は、俺が勝手な事をしないように俺を監視していたのではないだろうか。

何から何までコットンの掌中にあって、しかも俺自身が、それが良いと疑いもしなかった。


「ああ、だから、―――リンを殺しに行ってくれ」

「はぁ? なんでウチが? 見りゃわかるっしょ。ほっといてもあんなの数で轢殺せるってば。もー、ピヨマスはこれだから」

「いいから行ってくれ。『プルート』、これはマスターからの初めての命令だ」


命令 自然と浮かんだ言葉を口にすると、コットンはビクンと椅子から跳ね上がると、顔を戸惑いと喜色が綯交ぜになったような奇妙な表情でこちらを見る。


「ウチに……命令……!? 人間が……! でも……くっ……これがダンジョンの支配の影響なの……!?」

「あ、ついでに出来るだけ損傷が無く、綺麗に。あ、回復魔法とかあるのかな? できたら傷とかも消してあげてほしい。それで、殺した後はダンジョンの入口まで運んでおいてくれ」

「ヤダ! そんなメンドイこと!? あっ! うくっ……口答えもダメってこと……!? すごい……胸が締め付けられる……っ!?」

「……俺もこんなことをお願いして、悪いと思ってる……。でもコットンなら、これくらい簡単だろ? 俺が頼れるのはコットンだけだからさ……」

「わわああああああわわわ……わかった! まかして!」


ぶるぶる震えたり叫んだりで、色々葛藤があったらしいが、最終的にとてもいい笑顔で承諾してくれたコットンは、ダッシュでエレベーターを召喚し乗り込んでいった。


「……自分で命令しといてなんだけど、なんか凄いリアクションしてたなコットンの奴……」

「ダンジョン モンスターにとって マスターから直接の命令は あらゆる事項に優先され 至上の喜び とされます」


そういうものなのか、思った以上に強制力があるんだな……。使い方は十分に気を付けたほうがよさそうだ。

まぁなにはともあれ、コットンに関してはこれでよし。あとはこっちだ。


「コア、質問がある」

「なんなりとどうぞ マスター」

「このダンジョンで死んだら、人は『どう』なる?」


そう、この疑問がずっと頭に引っかかっていた。

ソウルの説明のときにコットンが言った、ソウルは1人殺せば大体10ポイント。という話。

10ポイント、つまりソウルはポイント制なのだ。


「お答えします ダンジョンでの 死は マスター の 定める デスペナルティ によって 結果が変動します」 

「……それの設定次第では、回収するソウル次第では、完全に殺してしまわないことも可能か?」

「可能です」

「ちなみに今の設定は?」

「現在の デスペナルティ は 100% 完全な死 です」


やっぱりなあんにゃろう……。

コットンはかつて国に呪いをかけて強制的に派兵させて、ソウルを回収していたようなことを言っていた。なんだかんだ彼女の言葉から察するに、どうやら彼女は結構ヤバイ存在らしいのだ。

そしてそんなコットンはといえば、全くそのことを反省している風ではなかった。

つまり、彼女に任せていれば恐らく遠からず、同じことをするだろう。

それだけはダメだ。そんな無差別虐殺ダンジョンで歴史に名を残してたまるか。


思えばさっきの質問を露骨にスルーしやがったのも、俺にデスペナルティをいじられるのを嫌ってのことか。コットンの奴。

カップ麺はしばらくおあずけだな。


さぁ、そうと決まれば急いでこのダンジョンを俺仕様に変更しよう。

モタモタしてるうちにコットンがリンを殺しちゃったらもうどうしようもない。

俺はコンソール画面に指を滑らせ、必要な項目を慌てて変更していくのだった。


明日は23時からまた投稿致します

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