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「おうネエちゃん! この剣がそんなやっすいわけねぇだろ!? なめとんのか!? おおん!?」


顔も声も喧しい暑苦しい冒険者の男が商品の査定にいちゃもんをつけている。

応対しているのはふわりと空気を含んだような柔らかウェーブの、腰まである菫色の髪の毛が特徴的な、目鼻立ちの整った女性だ。


年の頃は10代後半だが、女性的なラインにもバランス良く筋肉が乗った美しい彫刻のようなその身体が、カウンターを叩かれ一瞬ビクリと揺れる。


カウンターを叩いた粗野な男は、自分の持ってきた剣の査定結果を銀貨3枚と言われたことが余程気に入らないのか、そんな安物を持ってきたとカウンターの美女に鼻で笑われて恥をかかされたとでも思ったのか。

どういった理由かは知ったことではないが、金額の説明をしたカウンターの女性に対して声を荒げて交渉している。

その勢いは交渉というより恫喝の類にしか見えやしないのだが。


「……と、仰られても困ります。それではお客様のご理解が得られませんでしたので、こちらのお品物はお返しさせて頂きます」

「そ、そんな売らねえなんて俺は一言も言ってねえだろ! ただ安すぎるって……」

「金額は当店の担当者が、公平に査定させて頂いた評価額です。ご納得いただけないのであればお引き取り下さい」


そこまで言い切ると冒険者は顔を真っ赤にし、腰のものをスラリと引き抜いた。


「て、てめぇ大人しくしてやってりゃ調子にのりやがって! 俺は客だぞ!」


男が鞘から引き抜いた貧相な直剣を見て、女性はといえば、ふぅとため息を一つつくと、勢い良く空気を吸い込み、鬼もかくやと言った表情で強く男を睨みつける。

ヤバイと感じた俺が、ちょっと待て と言う早く、カウンターの女性、リン・クリューソスは豪拳一閃、見事な右ストレートを男の顔面に叩き込んだ。


「売買も成立しねえ奴は客じゃねえんだよ! 一昨日着やがれ莫迦野郎!」

「お帰りはこちらデス」


女性の細腕から繰り出されたとはとても思えぬ一撃を浴び、激しく吹っ飛んだ彼が、あわや店の正面玄関に衝突するかというタイミングで瀟洒にドアを開けて、メイド服の小さな少女、アコが彼を見送った。


「またのお越し……はいらないデスね。二度とくるなよチン○ス野郎、デス」


そう唾を吐き捨てて音もなく華麗にドアを閉める黒髪黒目のツインテメイド。

少女というよりも幼女というほうが見た目年齢的には正しいかもしれない。

店内は一瞬騒然としたものの、まぁいつものことかと常連客達も既に普通に店内を物色したり、査定待ちに戻ったりと平然としたものだ。


「……お客様をぶっ飛ばしちゃダメだよリン……」

「あ、わるい。また手が出ちまった。まぁでもアイツが悪いぜ。お前の査定が間違ってるなんて抜かしやがって」


俺も人間だからね。そもそも剣の査定なんて門外漢、しがない中古リサイクルショップ店の店長だからね俺。専門はスマホとPC。あとは少々の家電といったところだろうか。

どっちかっていうとさっきぶっ飛ばされた彼の方が俺よか専門かもしれない。


「そうですよリン。短慮は貴方の欠点です。すぐに暴力に訴えるのも頂けない」

「だーから悪かったって、すぐ手が出ちまうのは反省してるって、ファン」


スラリと伸びた長身、異常に整ったその顔立ちと少しだけ尖った耳のエルフであるファンと呼ばれた彼女は、自らの相棒であるリンをいつものように窘め、やんわりと叱りつけるように横から口を挟む。


「叩いて、捻じリ潰して、手足の1本でも焼切ってから身柄をギルドに差し出せば、彼の冒険者生命の終焉と、迷惑料として幾許かの賠償金を得られる所を、あなたはみすみす損をしたのだと自覚しなさい」


違う、そうじゃない。

確かに厄介なお客様もいる。理不尽なお客様もいるんだけど、殴っちゃダメだし捻じり潰したり焼切ってもだめだよ!

クレームの対処法っていうのはそういうのじゃなくて! 

ああでもこの世界では俺の常識が通用しないんだっけ! もどかしい!!


「何面白い顔してんの? ヘン顔?」

「この顔は生まれつきだよ、コットン」


頭を抱える俺の肩をツンツンとつついているのはコットン・アイアンウィンド・シルフェイン。

見事に雪のような銀色の髪と、紫色の瞳が怪しく光る、16歳くらいの見た目の美少女、そう、見た目だけは本当に美少女だ。


「あ、そ。あーそうそう。ダンジョンそろそろアンデッド溢れそうだったん。スタンピード直前って感じ?」

「またかよ……。こないだ間引きして潰したばっかりだぞ……」

「やっぱウチの影響かも? ごめーんダーちゃん」


そう言ってちっとも申し訳ないことなんて無さそうにテヘペロしている少女は、この建物の裏にあるダンジョンのサブマスター。

色々詳細は割愛するが、齢5000年を生きる『プルート』と言われるアンデッドの最高峰で、なんでか、本当になんでかわからないが、俺の嫁。という事になっている。


「仕方ないか。そっちのお勤めもしなきゃな……」

「そうこなくっちゃねー。今のまんまだとー、冒険者もなかなか入りづらいからね。ま、お勤め頑張って、マスター♪」


全くやれやれ、めんどくさい事だと思いつつ、店の面々に一声かけてから裏口を出る俺に、アコとコットンが追従する。

俺の名は志波龍太郎(シバリュウタロウ)

中古リサイクルショップ 『せかんどはんず異世界店 店長』と、店の真裏にあるダンジョンのダンジョンマスターを兼任する男だ。

……ほんと、どうしてこんなことになったんだろうか。

話の始まりは3か月ほど前まで遡る。


―――これは俺の初めての独立の物語だ。



初めての投稿です。

出来るだけ更新はマメに行いたいと思います。

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