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じごく

作者: 怠惰な人

彼は、冴えない少年だった。運動も得意でもなければ、容姿もこれというほどではない。しがない人生観だった。

そんな彼にとっての一大イベントは成績表の受け渡しである。隣同士友達同士で成績表をみせあうのが慣例となっているのだがそのなかで彼がクラスの中で一番Aの数が多いのである。このAの多さはまさに彼にとっての勲章だったのである。その時は、誰もが彼に一目置く。友達からあまり話さない人、話したくても話せない人までこの日だけは大きな壁を自由に行き来することができる。彼は空っぽの自分がみたされていくのを感じ、勝利の美酒に酔いしれた。この麻薬のような強烈な体験はこれかの人生に大きな影響をあたえる。


彼はあの美酒の庵治が忘れられず、素直で従順な生徒として育っていた。遅刻はしない、授業中におしゃべりや居眠りをしない、宿題もしっかりやってくる。夏休みの宿題もきちんとやってきた。授業中には率先しててをあげたし、体育も諦めずに必死に取り組んだ。自分は多くのAをとれる人間だという自信がそうさせたのだ。しかしながらその自信の背景には常に陰りがあった。その陰りはまだ、彼の目の前には現れなかったが…


彼は成績優秀で推薦され合格をした。入学が決まった時点で学校の授業はどうでもよくなる。全てAをとる意味もこの段階に入ってしまえばどこそこに受かっただのといって進路の報告こそが彼にとっての成績表の受け渡しになった。彼は比べるまでもなく一等いいところに進んだ。学級一から学年一へとなった彼にとって勉強ができないしない人はまさに愚民であるとの評価を彼のなかで下していた。友達と遊ぶときも常に遊んでいる暇があるなら勉強しろよ、と思ってしまうのである。彼は傲慢と化していた。


彼がその傲慢さに気づかされたのは一等の学校に入った時であった。彼は昔の学校では一等だったが、この学校では三等なのである。授業が進むにつれついていけなくなる。しかし、彼の動力源であるAをとることが難しくなっていく。まるで薬物常習者が薬物から抜け出すときに現れる禁断症状のように。


彼の勉強への動機付けは周囲に認められることであったのだが、その裏には自身の自信のなさに起因する。彼には常に肯定してくれる周囲の人間が必要だったのだ。しかし、新しい学校にはそのようなものはない。あるのは身を削り骨を削る世界であった。

これはまさに地獄であろう

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― 新着の感想 ―
[一言] これはたしかに地獄ですね。 小学校や中学校で1位を取れても高校や大学ではそうは行きませんものね。
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