第1話
ここはとある戦場。
アスラ王国とグリンガム帝国の戦争が
行われている。
しかし、既に一方的と言っていいほど
アスラ王国がグリンガム帝国に打ちのめされ
ほぼ勝敗が決定してしまっている。
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荒々しい雄叫びが上がっている。
目前の勝利に酔いしれそうな者達から。
悲鳴にも似た雄叫びが上がっている。
目の前に明確に死がぶら下がっている者達から。
ここに国が滅亡寸前まで追い込まれ
今にも己が命の灯火が消えそうになっている
一人の姫君がいた。
彼女の名はアイリーン。
アイリーン=フォウ=アスラ。
アスラ王国の第二王女であり、将軍でもある。
赤く美しい髪に勝ち気な目をしている。
そして、誰もが振り返る美貌を持っている。
周りからはその武勇から【姫騎士】と
呼ばれている。
「姫様!ここはもう持ちません!
すぐに退却して下さい!!」
「何を言っておる!皆が戦っているのに、
私だけが退却など出来るわけなかろう!」
アイリーンの周りを守っている騎士が
そう進言するが、アイリーンは聞く耳を持たない。
この時、アイリーンの周りにいる騎士は30騎程。
「国王様の安否も分かっておりませぬ!
ここは姫様だけでも何卒無事に
お逃げくださいますように!」
「一人でおめおめと逃げ延びて
どうするというのだ!
最後まで戦い、敵を殺すだけ殺してみせるわ!」
別の騎士の進言にもアイリーンは聞く耳を持たず、
敵大将を討たんとして突撃する始末。
周りの騎士達は無謀だと分かっていたが、
アイリーンに何を言っても聞かないだろうと
覚悟を決め、アイリーンと共に敵大将に向けて
突撃していく。
「死にたくなければ、どけぇー!!!」
「ギャッ!」
「グワッー!!」
既に勝利がほぼ確実になっている敵軍は
無駄死にしたくない者が多く、
アイリーンや騎士達の攻撃を受け倒れる者を
尻目に攻撃を受けなかった者達は、
こんな事で死ぬのは馬鹿らしいと敵大将までの道を
空けるかの様に整然と後方に逃げていく。
アイリーン達は30騎を10騎にまで減らしながら
敵大将まで辿り着いた。
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???視点
兵士達が作戦通り道を空ける様に逃げている。
アスラ王国を滅ぼす策の一つとして、
アイリーンを生け捕る必要がある為だ。
「メンデス様。【姫騎士】がこちらに
向かってくる様です」
そう部下から報告を受けたメンデスは
しばし思案する。
(【姫騎士】か。武勇は優れるが、
頭がイマイチという
ザナドゥの言葉は本当の様だな。さて・・・)
「罠の準備は完了しているか?」
「はっ!滞りなく!」
メンデスの問いかけに、部下が答える。
「【姫騎士】には我が王の野望の為に、
捕虜になってもらううか」
メンデスは淡々とした表情で呟いた。
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アイリーン視点
「姫様!敵大将確認出来ました!
メンデスの様です!」
「メンデス!?」
騎士の報告に、アイリーンは表情を暗くする。
(メンデスといえば、最近、台頭してきた
【氷の騎士】と呼ばれている男。
剣の腕も相当な物という噂。
果たして勝てるか!?しかし、今更引けぬ!)
目の前にメンデスが見えてきた。
青い色の長髪で、切れ長の目をした男。
青いフルプレートメールを装備し、
魔法剣であろう青く輝く長剣を構えている。
「メンデス!その首貰い受ける!!」
アイリーンが剣を構えたまま、突撃する。
あと少しでメンデスに辿り着くというところで、
馬の脚が突然出来た穴に嵌まり倒れる。
その勢いでアイリーンは体勢悪く、
馬から放り出され
更には敵の目の前に落ちてしまった。
その為、あっけなく敵に捕らわれてしまった。
「くっ!離せ!」
アイリーンが叫ぶ。
「姫様!」
「くそっ!姫様を取り戻すぞ!」
騎士達はアイリーンを取り戻す為に、突撃するが、
その前にメンデスが立ちはだかる。
「貴君ら恨みはないが、ここで死んでもらう。」
という言葉と共に一筋の剣閃が走る。
一撃で5人が攻撃する暇もなく殺されるという
事態に残りの5人がメンデスの圧倒的な実力の前に
たじろぐ。その刹那、絶望をもたらす
メンデスの斬撃が残りの5人を
斬り捨ててしまった。
アイリーンはその光景を何も出来ず
見ているだけだった。
メンデスがこちらを向く。
「さて、アイリーン殿。
貴君には捕虜になって頂き、
アスラ王国への降伏の材料とさせていただこうか。
貴君の父君は残念ながら
城に逃げられてしまった様なのでね」
「そんな屈辱受けるものか!」
メンデスの言葉に、アイリーンは言うがいなや
自身の舌を噛んで死のうとした。
「この者にしばしの眠りを、スリープ」
しかし、メンデスの部下の魔法により阻止されて
しまった。
「く、そ、」
「サルー、よくやった。」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「しかし、舌を噛んで死のうとするとはな。
流石は武勇に優れた【姫騎士】と褒めるところか?」
「【姫騎士】等と呼ばれていても
激情に駆られ、戦況も自身の身分も影響も考えず
突撃するという愚行をする者ですから、
舌を噛んで死のうとしたのも
後先を何も考えずやろうとしたのでしょう」
メンデスの独り言の様な言葉にサルーが答える。
「辛口だな(苦笑)」
「我らグリンガム帝国の者に
この様な愚者はいない為、
つい苛立ってしまいました。
申し訳ございません。」
「いや、構わん。
それよりも【姫騎士】を連れて
アスラ王国に降伏勧告をしに行くとするか」
「ははっ!」
アスラ王国滅亡のカウントダウンが刻一刻と
迫っているのであった。
果たして、アスラ王国に救世主は現れるのか?