本編7 別視点
お昼ご飯食べに出ようかなーとドアを開けたら、ゴンッという音と衝撃。
あれ?なんかにぶつかった?いつもはすんなり開くはずのドアに疑問が浮かぶ。
「…ごん?」
「ん?」
戸をあけて視線を下げれば、そこにはつやっとした黒髪。
うん、黒髪…。
おでこを抑えて見上げてきたその人は
確実に女神様でした。
うーんと、確かこの目の前にいる人は、異界の者で、隊長が魔力をためる泉に飛び込んで助けたんだよね。めっちゃかっこよかったなー、隊長。小さな異変も逃さないってさすがっす。
で?そんな異界の者が目の前にいる。なんならおでこを抑えてる。
え、あれもしかして俺あの異界の者で超絶美女と言われている女神のおでこに扉ぶつけました?
女神様の綺麗な黒い目がこっちをじっと見ています。うわぁ吸い込まれそう!俺が写ってる!
待って、穴があきそう。まじまじと見られてるけど!
もしかしてすんごく怒らせた!?どうしよう!た…隊長!!
「すみませんでしたぁぁぁぁあああ」
いたたまれなくなって、ダッシュでその場を後にする。
そうだ!隊長のところにいこう!
猛ダッシュで隊長の元に走る。中庭に!いるはず!さっきまで!訓練だったから!!
バァンッと開けた扉の先に目的の人!
「隊長!たいちょーーーーーー!!」
「うっさいぞ、ムン。なんだ。」
「おれ!おれ!」
「なんだ落ち着け」
「女神様のおでこに扉ぶつけてしまいましたぁぁぁあああ!!!」
そんな精いっぱいの俺のシャウトに、なんだと!?と結構距離があったはずなのに気がついたら目の前に隊長がいた。はええ。こええ。
周りにいた仲間も、え!?はや!みたいな反応をしているぐらいに。瞬間移動したのかな?隊長。
夕月はどこだ!?と部屋に続く扉を開けると、少しむぅっとした表情の女神様と背を背けている野郎ども。
「夕月!?」
隊長の声に反応して、声のほうを向いた女神様はへにゃりと笑顔を浮かべる。
時が止まった。
これは…悩殺される!!美人すぎる!!美人の安心しきった笑顔は凶器でしかねぇ!!
あ、俺みんなが目を背けてる理由がわかったかも。うん。俺も今全力で目をそむけたわ。
「大丈夫か!?頭をぶつけたと聞いたが!?あぁ赤くなっているじゃないか!!」
「いや、扉の前にいた私も悪かっ」
「おい!濡れたタオル!」
あの隊長がテンパってる。
いやでもさっきの破壊的な笑顔に勝ててるあたり強いっすわ。まじで。
それもだけど、普通に怯えるでもなく隊長の手当てを受け入れてるし、本当に女神かもしれない。
動悸がおさまって、ちらっと様子を見ようとしたら、中庭に続く戸が閉じられた瞬間だった。
中庭に隊長と女神様がいる。
みたい。あの女神と隊長が何を話しているのかも気になるし、なにより女神はまじ女神。
みたい。けど絶対ばれるしそのあとの午後の訓練が恐怖でしかない。
そんな葛藤にみんなが苦しんでいる間に、お昼休みが終わってしまった。
隊長はしれっと午後の訓練を始めた。
機嫌もいつもと変わらないし、隊長は普通。
みんな葛藤と戦っている。
聞きたい。葛藤を続けてもやもやとしている間に、訓練も終わってしまった。
隊長の解散!という声に、誰も動けない。
「なんだお前ら、解散だ。帰っていいぞ」
「た、たいちょう!!」
裏返った声で比較的新人のやつが手を挙げている。
お?なにやらジャンケンで負けたらしい。でかした。
「なんだ?」
みんなが固唾を飲んで見守っている。
何かあっても手厚く埋葬はしてやろう。新人。
「あの!女神様と!なにを話されていたのです、か!?」
「あぁ、いや昼飯を作ってきてくれたからそれを一緒に食べていた。」
「昼飯、ですか?」
「あぁ、夕月は料理がうまいからな。…かなりうまかったぞ。」
ニヤリと笑った顔!こわい!俺たちの昼休みからの葛藤をわかってた!
でも尊敬!すごい!
ていうか女神様料理するの!?うらやましい…。
いやまて、それじゃない。俺たち、獣人だよ?
「隊長…」
「ムン、言いたいことはわかる。俺たちは獣人だということだろう。だが、夕月は気にしないと言って聞かないのだ。罵倒される覚悟はあったのだがな。」
「でも…。」
「陰でよくないことを言われているのも自覚しているさ。この間も家に石が投げ込まれたからな。でも、夕月はお前がぶつけたというおでこは私の不注意だから!と怒らないでと帰って行った。」
「そうですか…」
「浮かれてはいけないが、守るためでもある。俺は誇らしく思っている」
隊長も女神様と過ごすことが多いから、普通の人間とかに嫌がらせをされているらしい。
詳しくは知らなかったけど、職場で寝泊まりしているから気にはなってた。
でも隊長は誇らしげな顔をしているし、夕月さんも幸せそうな顔をしていた。
嫌われ者の俺たち獣人にそこまで優しいとか女神以外の何者でもない。
そのために、隊長みたいにしっかり誇りを持って守れるようになろう、と。
俺はあの女神様がしあわせに生きてくれたらいいなと心から思ったのだ。
女神様はしあわせになれるよね?神様。