出会い。スミン視点。
いつもと変わらない巡回の時間、魔力をためる泉から気泡が上がった。
滅多なことで変化を見せないその泉に違和感を感じて少し立ち止まる。
「どうしたんすか?」
部下が不審そうに様子を伺ってくるが、なんとも言えない胸騒ぎが襲ってくる。
「もぐるぞ!」
「え!?たいちょ!」
バッと泉の淵に足をかけた瞬間、何かが沈んでいくのが見えた。
人か!?慌てて飛び込んで沈んでいくソレを追いかける。
口からはもう空気も出ていないその人は、まるで女神のような美しさだった。
浮上して抱えていたその人を芝生にそっと置く。
「め、女神さま?」
部下が顔を赤くするの理由はよくわかる。
しかしうろたえている暇はない。
「たいちょ!?」
息をしていないことを確認して、人工呼吸をする。
部下は赤かった顔から真っ青になっている。
それもそうだ。こんな絶世の美人に獣人が人工呼吸したとなれば、この人は気を取り戻したとき狂ってしまうかもしれない。
しかし誰かを待っている時間はないのだ。
「ぐ、げっほ、ごほ」
「しっかりしろ!」
息を吹き返した瞬間に盛大にむせている。どれだけの水を飲んだのか、吐き出されていく水。
黒髪、黒目のその人がこちらをちらりと見た気がしたが、そのまま気を失ってしまった。
「医者のところにいくぞ!先に伝えに行け!」
部下を医者のところに走らせ、自分もこの人を抱えて走る。
肌寒くなってきた季節にしては薄着なので、自分の制服のジャケットで包んで、なるべく揺らさないように意識しながら医者の元へ急いだ。
「ふむ、魔力をためる泉からのう」
医者は一通り何かを調べた後、ナースにその人を着替えさせるように伝えカーテンを閉めた。
そのままあらゆる本を開いて何かを調べている。
「うむ、スミン隊長、お主この異界の者をた助ける気はあるか」
異界の者。その言葉に空気が張り詰める。
それは一千年前にも現れたと言われる、あの異界の者だろうか。
確かに黒髪黒目のその女性は、この世界の人間ではないということを示している。
「毎日口づければ目覚めるはずなのじゃ」
そしてその助ける方法に空気が凍った。
「医者、俺は獣人だ」
「わかっておる」
「ならその方法は他のやつに」
「でもお主、人工呼吸したんじゃろ?」
「ぐ…」
「そもそも異界の者なのじゃ。あまりむやみに触れて何かが起きても困る。その点お前はすでに接触しておるしのう。念のためこれ以上何かが起きて被害を防ぐのは騎士団の仕事だろう」
それはわかるが、この人を大層哀れに思ってしまった。
きっと目覚めてから本当に狂うかもしれない。
俺は確実に罵倒されるだろう。
しかし医者の言うこともごもっともなのだ。
「わかった。」
そのあと医者はあらゆることを手配するために指示をしている。
そして領主はやはり極度の獣人嫌いということで、俺はしばらく別宅にいると使用人共々出て行ってしまったのだ。
それでも城の維持のため最低限の人を置いていってはいるが。
職場からも遠くない城で、毎日異界の者に口づけをすることになってしまった。
獣人の俺のキスで目覚めるのか?神様。
気長に書きまーす。