7 初めての冒険(1)
外界の7割は手つかずの自然である。
しかしその自然は内の世界の人間が認識している自然とは生態系もスケールも異なる。
動植物はもちろんだがモンスターの数も多く生息し中には高水準の集団生活をしているモンスターもいる。
人間の生活も内の世界とは随分異なる。
自然の中での生活なので科学などがあまり発展しておらず魔法や個性などを利用した農業や漁を中心とした生活である。
その生活はまるでファンタジーのような、ゲームの世界のような生活である。
国際政府などの機関はなく、数ある国がそれぞれの領土にある村や都市を支配し大なり小なり小競り合いをしている。
また国を統治しているのは人間だけではなく、森妖精や土小人のような妖精族。
リザードマンやゴブリン、オークやケンタウロスなどの亜人や獣人族。
海底にに住む人魚や魚人。
種としては最強と言われているドラゴンや竜人といった龍属など種多様な種族が国家や村を作るり生活をしているのである。
内の世界には人間以外の知的生物はいないので世界は人間が中心だと言っていいだろう。
しかし、外界での人間の位置は最も力の弱い立場となっている。
ただ数が多いのである程度は自分達の領土というものを勝ち取っているといえる。
そしてモンスターと他種族との違いは自分達に襲い掛かってくるかどうかで判断されるため、アンデットだけではなくゴブリンなどの種族もモンスターだと言われることがある。
噂程度ではあるが人間とモンスターが共存している村が外界にはあると言われている。
そして外界には過去に滅んだ国の跡地や遺跡も数多く存在している。
それらには多くの財宝やレアアイテムが眠っており、それを求める冒険者は多い。
だがその反面モンスターやトラップ等で命を落とすものも多い。
そんななかこれまで内の世界で冒険とは全く無縁であり登山などもしたこともない一人の男が少々荒れた草原にある遺跡に挑もうと遺跡の前に現れた。
「おぉ~<転移>できた!<場所確認>でもここがネットで見た遺跡で間違いないな。」
男の名は一神斎、つい数時間前まで一般人だったが突然最強の力を手に入れたこと、これからの始めようとしている計画のために冒険に思い切った男である。
「これが遺跡かデカいな、それにしても周りに何にもないな。」
周囲は遺跡を除けば建造物は何もない。ただただ広大だが少々荒れた草原が広がっている。
一神斎はおもむろに深呼吸をする。
「ぶはぁ~、ん~・・・空気がうまいかどうか分からんな。装備している”霓裳婉美”の効果でどんな空気も清浄化されるからな。」
一神斎が身に着けているのは”霓裳婉美”の一つの多数ある効果の一つである”綺麗な空気”により一神斎が吸い込む空気は全て清浄化され、たとえ空気中に猛毒が含まれていても一神斎には何も影響はでない。
なのでこの遺跡周辺の空気が綺麗でも汚れていても関係はなく視覚的なもので空気が澄んでいると思っているだけなのである。
周囲に人やモンスターがいないことを確認すると再び一神斎は遺跡を眺める。
「ある程度想像していたがボロボロだな、崩れたりしないよな?」
一神斎は不安の籠った言葉を呟くと持っている杖を少し持ち上げて魔法を唱える。
<透視と千里の眼>
すると一神斎の頭の中に遺跡のマップが現れる。
それはまるでゲームのマップ機能のようにモンスターの数や位置、宝箱の有無などが表示されている。
<透視と千里の眼>は対象とされた建造物や洞窟の内部を頭の中に表示、もしくは見ることができる魔法である。
モンスターや宝箱、トラップの場所などを確認することができる魔法でモンスターのレベルは色によって分けられるが種族などの細かい情報までは表示されない。
一神斉は頭の中に浮かぶ遺跡のマップの確認する。
「強いモンスターはいないようだが・・・お! 地下への隠し階段がある! それに最深部には強い道具反応がある。」
事前にネットで確認した情報では強いモンスターがいるという情報があったが強いモンスターはおらず、逆に信憑性のなかった「美しい剣」というものがあるのは間違いないようだ。
一神斎のテンションが一気にあがる。
「絶対に手に入れてみせるぞ!」
勢いをそのままに遺跡に向かおうとしたその時、一神斎は興奮していた気持ちが急に沈静化していく感じがした。
これも一神斎の装備している防具の効果の一つ”感情の抑制”である。
これは感情が一定以上の状態になると自動で発動され沈静化されるものである。
特に戦闘時に対して不利に働く興奮や憤怒や動揺などはより沈静化される。
「なるほどこれはありがたいな。興奮しすぎて危険を冒すところだった。」
一神斎は冷静になったところで魔法を多数唱える。
<上位魔法反射><上位物理反射><不可視の魔法障壁><夜目><危険感知><上位自動回復><幸運の女神の笑顔><無限体力><五感の極み(センシング・エクストリミティ)>・・・・・・etc
過剰ともいえる防御魔法、感知魔法を唱え終えると一神斎は一息つく。
魔力を持たず、杖による魔法の無限使用があるので魔力的な疲労はないが膨大な数の慣れない魔法を頭の中から選び出して唱えるだけでも少し疲れる。
「これだけ付与すれば大丈夫だろう。」
発動した魔法には装備している防具の効果と被るものが多数あるがそれでも念のために自分に掛けたのには理由がある。
一神斎は杖の力は確認しておりある程度信頼している。
しかし防具に関しては確認しておらず頭ではどれほどすごいものか理解しているがまだ半信半疑なので保険として魔法を掛けたのである。
一神斎には魔法知識もなく世界中の魔法使いがどの程度の魔法を使用できるのかわからないので自分に掛けた魔法の程を知る由もないが現時点で一神斎の防御力は全世界で並ぶものはいない状態になったといっても過言ではない。
「さて防御面では問題ないだろう、後は。」
そういうと一神斎の左手に一冊の本が出現した。