6 冒険の準備
「何をしても駄目か・・・・。」
<連結>を掛けてもホムンクルスでは”至高の47”は使えないようだ。
一神斎は面倒くさがりである。
ゲームの醍醐味の一つであるレベル上げというものが一神斎は大嫌いだったのである。
もちろん初めから最強装備などは望まないがある程度の強さがあり、素材集めなどしなくても強い武器が手に入り最終的には圧倒的な力でねじ伏せるということを好むのである。
そんなゲーム楽しいのかと思えることが一神斎には楽しいのだ。
今回も同じである。
ホムンクルスの身体能力は人間を超越したものにしておりゲームでいえばレベル60くらいの設定だ。
できれば80くらいにしたかったが一神斎が現在用意できる素材ではこのレベルのホムンクルスの作成が限界だった。
そしてそれを自分が手に入れた最強最高の装備で身を固めれば敵なしであり万が一やられても自分は一切傷つかないという申し分ない状態で安全に旅ができる予定だった。
「はぁ・・・・・・仕方がないか。」
正直やる気がなくなりつつある。
この杖を含めた自分が手にした”至高の47神具”うち43個の道具を外界で惜しげもなく使用するつもりだったがそれはできないのだ。
しかし初めからレベル60なのだから普通に冒険を始めるよりは遥かに楽なのは間違いがない。
それに47個の道具が自分以外は使用できないのということを確認できたのは大きい。
もしこの杖でも敵に奪われでもしたらもはや手が付けられない。
他の道具もあるから大丈夫だと思うが全て奪われれば自分はただの人間なのだから。
「装備揃えるしかないか・・・・でもなぁ・・・・・・」
一神斎はホムンクルスの状態でインターネットを起動する。
部屋には電子キーボードの音が響く。
「・・・・・・やっぱりないか。」
外界ではどうかわからないが、こちらの世界で一般人は防具は買えても武器を購入することができないのだ。
防具は身を守るために誰でも購入することができる。といってもほとんどインテリア目的で購入する者が大半だが。
武器はそういうわけにはいかない。
簡単なナイフなどは購入できるが、対モンスター用の武器は購入することができない。
できるのはギルド組合に登録している者だけだ。
そもそも一般人で武器を買う人間などいないだろう。
防具は通販で購入できるが武器は外界で買うしかない・・・しかし。
「普通の剣なんて買ってもなぁ・・・」
金はあるので問題はない。
だが外界とはいえ店で買えるような武器など普通の武器しかないだろう。
それにか外界でも武器が買えるかどうかもわからない。
それにどうせなら伝説の剣! とか魔剣! とかを初めから使いたい。
しかしそれには武器を持たないホムンクルスではなく最強最高の道具を使える自分が行かなければならない。
変にこういうことにこだわってしまう。
しかしこういうものは初めが肝心だ。
これで今後の冒険に対するやる気が変わってくる。
だが一神斎は冒険に出たこともないければ、ダンジョンや遺跡などに行ったこともない。
モニターを眺めながら三十分ほど悩み結論を出す。
「行こう!記念すべき初冒険なんだ初回くらい俺が行こうじゃないか!」
久しぶりにテンションに身を任せてみよう。
そうと決まればネットで検索だ。
信憑性は皆無だが外界の情報はネットにもある。
中には宝が眠っている遺跡等の情報もある。
最近暇つぶしで見ていた冒険者掲示板に宝剣があるという遺跡の情報があったことを思い出す。
「おっ、まだスレッドが残っている。」
そこには外界にある遺跡の一つに宝剣があるというそれはとても美しい剣だといいう。
しかしそこには恐ろしい怪物がおり、この投稿者は逃げ帰ってきたらしい。
「えぇっと・・・・場所は・・・・・・キヌハ村の南方・・・・おっ、地図がある。地図があれば転移の魔法で行けるな。その前に本体に戻るか。」
本体に戻り、本棚のある部屋へ行く。
「え~っと・・・どこに・・・・・・あった!」
一神斎は一冊の本を手に取り天掲げる。
「これであなたも一流冒険者」という題の本だ。
「なんといって準備は必要だ。」
この本には初めて冒険をする人に向けたアドバイスや注意事項などが記載されている。旅行本みたいなものだ。
「ふむふむやはり装備は必要か・・・慣れない重装備は禁物か。」
しかし、よく考えてみれば自分にはもはやここに記載している物は不要である。
自分にはすでに最高のものをもっているのだから。
「とりあえず装備だな。肉弾戦なんて御免だからな、武器は杖でいい。防具はこれだ。」
”至高47”の内の一つ”霓裳婉美”。最高の防具である。
しかし、一神斎の姿は普段の外出時の服装になっただけである。
”霓裳婉美”
~この道具は防具である。ただしこの防具には決まった形はない。一神斎の考えた形になる。それは鎧やローブ、スクール水着や褌などありとあらゆる姿になり下着を含めた全身のコーディネートが可能。この道具には様々な魔法効果や耐性がある。「全魔法無効化」「物理攻撃無効」「状態異常無効」「精神作用無効」・・・etc。正直この防具一つあればダメージを受けない最強最高の防具。ゲームで手にするとやる気がなくなるレベル~
「理解はしているもののこれで本当に大丈夫なのか不安になるな。」
とりあえず今回は杖と防具の2つでいいだろうというか十分にもほどがある性能だ。
準備が整ったので早速遺跡に向かうことにしよう。
PCモニターに映し出されている地図を確認する。
外界でもどこらへんの位置にあるのか全然わからない。
キヌハ村など聞いたこともない。
外界にはネットはないからこちらの世界とはそう遠い場所ではないと思うが外界はとても広い。
こちらの世界でもまだ未開拓の地があると言われているのに外界はこっちとは比較できないほどだという。
「もしかするとやばい場所なのかな・・・」
外界にはネットはないのだからこの情報はこちらの世界で投稿されたものであることは間違いない。
だからこそ大した遺跡ではないと考えていたが、もしかしたらこの投稿者は熟練の冒険者で可能性もある。
「まさかこの投稿者「アートイア」じゃないだろうな・・・」
「アートイア」は有名なトレジャーハンターだ。
ギルド組合には所属しているがチームやギルドには所属していないシングルハンターだ。
性格は非常に明るく陽気な性格であり他の一匹狼と言われている冒険者とは少し異なるがとても人気がある。
結構なおっさんだかテレビにも出演したりしている。
一神斎はこの間見たテレビの中で司会者とアートイアとの会話を思い出す。
「いやぁ、ネットは良いよ! 早く外界にも普及してほしいな。無理だけどね。」
「外界にはネットはありませんからね、しかしそんなにお好きなのに冒険中にネットをやりたくならないのですか?」
「あるよ~、遺跡とかモンスターとかその場で写真を投稿したりしたいけどできないからな!『スケルトンなう!』とか呟きて~よ。あっでも定期的に帰ってきて某大型掲示板に投稿したりしてるから探してみてくれよ~(^^♪」
正直本当にこの人は冒険者なのか疑いたくなるが非常に評価も高く実績もある。
だからもしこの投稿者がアートイアだった場合かなり危険だ。
地図があれば上級魔法の”転移”でその場所にいくことができる。
その他の転移系の魔法では目的地に印をつけたり一度見た場所でなくては転移することはできない。
先ほどの”複数瞬間移動”は後者にあたる。
「とりあえず行ってみて無理っぽいなら帰るとしよう。」
早くもやる気がなくなってしまったためかイスに座ったまま”転移(上級)”の魔法を発動し一神斎の姿は部屋から消えた。