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「やっぱ速いなこの6本脚の馬。」
束の間の3日間の休日を終えて外界に戻ってきた。
借りてきた馬車に乗ってサザラント近くの森へ転移してきたのだ。
休日(?)一日目は悠月と出会って、二日目はエラノーアを召喚した。
三日目は普通に1人の休日を満喫した。
もちろん怪しまれないように魔具をいくつか作成してきたしハクアへのお土産もばっちりだ。
サザラントへ入ってダドリアンの屋敷へと向かう。
屋敷の前で執事に出会ったので馬車を返して兜を脱いで屋敷の中に入る。
「ダルト!」
屋敷に入ったところでハクアと会う。
「ただいま、何もなかったか?」
「ああ、そっちも無事に魔具師に会えたのか?」
「おう、ハクアにもお土産買ってきたからな。」
「そ、そんなもんお前が帰ってきてくれたら別にいいんだよ。」
どことなく悠月と被る。
「どうかしたのか?」
ハクアが不思議そうに顔を覗いてくる。
「別になにもないさ。ダドリアンはいるのか?」
「ああ、自室にいる。 そういえば俺たちに話があるとか言ってたぞ。」
「俺たちに?」
「ああ、お前が帰ってきたら話をするって言ってたから俺もまだ聞いてないけどな。」
「そうか、俺も今後のことでダドリアンに話があったんだ。ダドリアンのところへ行こうか。」
「わかった。」
一神斎とハクアはダドリアンの部屋へと向かう。
ダドリアンの部屋をノックする。
「誰かしら?」
相変わらず太い声でオネエ口調だな。
「ダルトだ。今帰ってきた。」
「あら、入ってちょうだい!」
ドアと開けるとそこにはポニーテールのダドリアンが見知らぬ男性と横並びでソファーに座っていた。
「カミングアウトしてから少しずつ変化してんだよ。」
ハクアが一神斎にだけ聞こえるようにつぶやく。
変化って・・・・。
「おかえりなさい、目的の魔具師には会えたの?」
「ああ、問題ない。それよりも・・・・」
一神斎はダドリアンの隣にいる男に顔を向ける。
「ああ、こちらはドーベックの領主のアルフーゴ。私の古い友人よ。」
ダドリアンが紹介するとアルフーゴ立ち上がって挨拶をする。
「初めまして、ドーベックで領主をしていますアルフーゴと申します。」
それを見て一神斎も挨拶をする。
「初めまして、冒険者のダルトと申します。」
「ダルトの仲間のハクアだ・・・・ドーベック? インペーナ帝国の?」
「インペーナ帝国?」
一神斎はハクアの方を見る。
「そうよ、アルフーゴはインペーナ帝国の者よ。ちょうど良かったわ。2人に話があるの。」
ダドリアンはハクアと一神斎に座るように促す。
一神斎とハクアはダドリアンとアルフーゴの向かいに座る。
「単刀直入に言うわ、2人ともドーベックに行ってみない?」
「いきなりだな。」
「仕えている国だから言いづらいのだけど、アルメデュカ国の王都は今あまりお勧めしないの。」
「そういえばそんなことを言っていたな。」
「ええ、だから2人にはリブルジュエル国を薦めようと考えていたのだけれど、今アルフーゴと話をしていたら2人が適役だと思ってね。」
「適役? 何のだ?」
「実はねー」
「ダドリアン、ここからは私が話をしよう。」
アルフーゴが手を胸に当てる。
「ダルト殿にハクア殿は”不死者の王国”をご存じでしょうか?」
「いや、知らないな。」
一神斎はハクアに顔を向けるとハクアが説明をしてくれる。
「”不死者の王国”っていうのは”死皇帝”とかいうやつが支配している誰も見たことがない国のことだ。 噂ばかりで実際誰も信じていないおとぎ話のようなものだよ。」
ハクアが馬鹿らしいといった顔をしているところを見ると、どうやら都市伝説のようなものらしい。
「たしかに、ハクア殿のおっしゃる通りでしたが、最近”不死者の王国”の使者を名乗る者達が現れたのです。」
「使者?」
なんだがキナ臭い話になってきた。
「ええ、全身を黒いローブで身を包んだ者達が各地で騒動を起こしているのです。」
「ただの暴徒なんじゃないのか?」
「私どももそう思うのですが、その者達は黒魔術を使いアンデットを使役しているのでこういった噂があっという間に広がってしまい国民達は不安にかられているのです。」
「ランガ街とサザラントでそんな噂は聞いたことがないが?」
一神斎の問いかけにダドリアンが答える。
「ここアルメデュカ王国ではあまり噂は広がってないのよ、実際に使者だと名乗る輩による被害も出てないしね。」
「現状ではインペーナ帝国を中心に被害が増加しているのです。」
「それで? そいつらを俺とダルトに殲滅させようという話か?」
ハクアがアルフーゴとダドリアンを鋭い目で睨み付ける。
「ま、まさかそんな話ではありません。」
アルフーゴが少し慌てている。
「そんな話を私が通す訳ないでしょう?」
ダドリアンがハクアを宥めるようにアルフーゴを庇う。
このままでは話が進まないな、ここは俺から話を聞くか。
「それではどういった用件なんですか?」
「は、はい。実は先日私が指揮を執ってドーベックの兵士と数組の冒険者で使者のアジトを突き留め、壊滅させたのです。」
なんじゃそりゃ、話を引っ張っておいてそのオチは酷すぎないか?
「さっさと要点を言え、別に俺はお前と雑談するためにここに座っているんじゃない。」
ハクアもイライラしているようだ、正直俺も少しイライラしてきた。
「そ、それで壊滅後のアジトを調べていた時です。 そこに突然ドラゴンゾンビが現れたのです。」
「ドラゴンゾンビですか、そこにはドラゴンの死体でもあったのですか?」
「いえ、本当に突然現れたのです。 私どもは何とか逃げおおせたのですがその場にドラゴンゾンビが居座ってしまい調査も出来なくなってしまいました。」
ゲームなんかでよく出てくる有名なモンスターだな。
スケルトンなどのアンデットは内界でもよく出てくるがドラゴンゾンビ何て出たことがない。
というかスケルトンなどの下級は別としてドラゴンゾンビどのアンデットの中でも上位に位置するゾンビ系は元となる死体が必要なはずだ。
それが当然現れたということは召喚されたと考えていいだろう。
幻の禁書の一つでもドラゴンゾンビは召喚できるが実力はピンキリだが最低でも中位のモンスターで強いものは上位に位置している。
「ドラゴンゾンビがいる場所は大抵毒に侵され腐蝕する、調査は諦めてアジト周辺は浄化の意味でも燃やすべきだな。」
「それが妥当だろうな。」
ハクアの言葉に一神斎も賛同する。
「ええ、私達もそうしようと考えているのですが・・・・そのドラゴンゾンビには炎耐性があるようで周辺を燃やしても本体が残ってしまうのです。」
「聖魔法を使用できる魔術詠唱師はいないのですか?」
「残念ながらドラゴンゾンビを倒せるほどの者はいません、今回のドラゴンゾンビはAランク相当だと考えています。」
だろうな、正直わかっていて質問したんだけど。
「どうかしらダルトちゃんにハクアちゃん。私の中でもドラゴンゾンビを倒せる者なんて2人しかいないのよ。」
お前も倒せそうだとダドリアンを見て一神斎は考えた。
「インペーナ帝国にはS級のギルドチームがいたはずだが? それに皇帝直下の4人もいるだろう。」
ハクアの問いかけにアルフーゴはばつの悪い顔をする。
「現在我が国専属のS級ギルド”碧重不落”と”龍爪三連”は別の任務に就いており、皇帝直下のロイヤルガードは皇帝の命以外では動きません。 それに私の力では・・・・」
他にもA級以上ののギルドチームはいそうなもんだが、アルフーゴにはそこまで人徳がないのだろう。
ここに滞在していればわかるが、アルメデュカ王国においてダドリアンはかなりの権力があり人望もある。
そんなダドリアンの友人であるアルフーゴも同じかと思っていたがただドーベックを任せられているだけのようだ。
「ハクア、俺はこの依頼を受けようと思う。」
「ダルト!?」
ハクアは驚いた表情で一神斎を見る。
「正直リブルジュエル国もインペーナ帝国も俺からすれば一緒だ、それにドラゴンゾンビなんて放っておけないだろう? ここはダドリアンの顔も立てないとな。」
「・・・・ダルトちゃん。」
視界に目をキラキラさせている中年がいるが無視する。
「だからって・・・・。」
ハクアはまだ不服そうだ。
「だが、もちろんそれ相応の報酬はもらう。」
「ありがとうございます!」
アルフーゴは頭を下げる。
「だからって炎耐性のあるドラゴンゾンビだぞ? それに俺に何の相談もなしに・・・・」
ハクアがふて腐れたように呟く。
「ドラゴンゾンビは強敵だが、俺にはハクアがいるからな何も心配してないよ。」
「な、なに言ってんだよ。 誰がお前のことを命がけで守るなんて言ったんだよ!」
(誰もそこまで言ってないけど・・・・。)
少しイジメてみるか。
「そうか、なら俺1人だけで行くとしよう。 ハクアはここで待っていてくれ。 ドーベックまでは遠いから1ヶ月以上は離れ離れになるがしょうがないな。」
「え・・・・。」
「そういう訳でアルフーゴ殿ー」
一神斎がアルフーゴに話かけようとした時、ハクアが腕をつかんできた。
「ん?」
「お、俺を捨てるのか・・・・?」
そこには今にも泣きそうになっているハクアがこちらを見上げていた。
(お、おおう・・・・すごく悪いことしたみたい。)
というかキャラどうなってんだお前。
「う、嘘に決まってるだろ? 俺がハクアの責任とるんだろう? 置いていくわけないじゃないか。」
「で、でもランガ街には連れて行ってくれなかったぞ・・・・?」
「うっ。」
未だかつてない罪悪感に襲われる。
ダドリアンとアルフーゴに助けを求めるように2人を見ると目を逸らして瞬きすらしていない、まるで時が止まってしまったかのようにこちらに干渉してこない。
ハクアは目を潤ませながら上目遣いで見つめてくる。
悠月とは別物だが破壊力は同じくらいある。
「こ、これからは一緒だからな?」
篭手を外してハクアの頭を撫でる。
「・・・・うん、わかった。」
機嫌を直してくれたのかハクアが頷いてくれた。
というかこの空気どうすんだよ。
早く帰ってこれたのでまたもや不意をついて更新。
年が明けても忙しいです。