60 悠月(4)
(手に持っているのは・・・・工具?)
カーキ色のフードの手にはロックピックハンマーとモンキーレンチがそれぞれの手に握られていた。
爆発に巻き込まれた防衛隊を踏みながら近づいてくると不意にフードの者が腰を落として殺気を放つ。
(何という殺気、これほどの方を見たのは初めてですね。)
それに対して悠月は目を細めて殺気を受け流していく。
「ザクリット、それくらいにしておけ。」
美術展の方から大柄で筋骨隆々な男が出てくる。
体長は2mはゆうに超えており、鼻にはリングのピアスがついている。
「邪魔をするならバイスお前も殺す。」
フードの者が大柄な男に言い放つ。
(この声・・・・断定はできませんが女性のようですね。 それに名はザクリット。連れ合いはバイス。)
悠月は2人の出方を伺いながら情報収集と分析をする。
「我らの目的は達成した、ここに長居する理由はない。それにー」
大柄な男が悠月を見る。
「この者と闘えばお前も無事ではすまない。」
「馬鹿に・・・・するな。」
「落ち着け! 我らの目的は殺戮ではない! それに援軍が来られては厄介だ!」
(ザクリットという者を焚きつければこちらに向かってくるはず・・・・しかしここには一般の方が多く被害が大きなる可能性がある・・・・それに一神斎さんもまだいるかもしない。)
「駄目だ、こいつは殺す。」
ザクリットが再び腰を落として悠月に殺気を向ける。
「くっ、殺人狂め。」
(来る!)
ザクリットが飛び出した時ー
「ぬわっはぁぁぁぁぁぁ!」
ザクリット目掛けて上から何かが落ちてくる。
ザクリットはそれを後方へ飛んで回避する。
「大丈夫か!? お嬢ちゃん!」
そこにはバイスと同じくらいの体格の老人がいた。
「あなたはたしか・・・・」
「ワシはグランドゼルガのラドンガだ!」
まるで拡声器を使用しているかのような大声。
「ちっ、グランドゼルガの”三重器”の1人”万打”ラドンガか!? これ以上は本当にまずい! ここは引くぞ!」
「関係ない・・・・殺すだけだ。」
「クソ! 勝手にしろ!」
逃げようとするバイスの行く手をラドンガが遮る。
「こんなことしでかしておいて逃げれると思うなよ!」
「しょうがない! 手加減はできんぞ!」
バイスが叫ぶと体が二回りほど大きくなって頭からは角が生える。
手には巨大な棍棒が現れてラドンガ目掛けて振り下ろされる。
「甘いわ!」
ラドンガも叫ぶと手には巨大なハンマーが現れて体が銅色の鎧に包まれる。
バイスの棍棒とラドンガの棍棒が激突すると周囲に衝撃波が走る。
「ぬう! しまった! 辺りにはケガをした一般人がおったんじゃった!」
ラドンガがバイスと距離をとって周囲を見渡すと倒れていた人たちがいなくなっていた。
「はぁ~、なんとか間に合った。」
ラドンガ達が声をする方を見るとそこには制服姿の女子高生がいた。
そして女子高生の周囲には倒れた人たちが集められており、バリアーが張られている。
「ぬぅ、誰じゃお前は?」
「私は”天使の微笑み”の里英! ていうかお礼くらい言ってほしんだけど!?」
「うむ! 助かったぞ小娘!」
「小娘!? 私は17歳だよ!」
「小娘ではないか?」
「なにぃ~!!!」
「ラドンガさんに里英さんもその辺で。」
2人の間に悠月が下りてくる。
「ぬぅ、嬢ちゃんも平気だったか!」
「はい、ですが私は男です。」
悠月の言葉に里英が震えだす。
「えぇ! そんなに綺麗なのに男!? メ、メイクだよね・・・・?」
「私は化粧なんてしませんが・・・・?」
「ス、スススススッピン・・・・だと? がはぁ!」
里英は血を吐きながら膝から崩れる。
「あ、あんなに綺麗なのにスッピン? 私なんて毎朝2時間メイクしてるのに!?」
「里英さんどうされたのでしょう?」
「うぬ・・・・バリアを張るのに無理をしているのかもしれないな。」
そう言うとラドンガと悠月はバイスとザクリットの方を見る。
「ここで”天使の微笑み”まで登場か、ますます分が悪い! ザクリット平気か?」
バイスの横に立つザクリットの肩の服が切られてから血が出ている。
「あいつかなり強い・・・・。」
「ああ、あいつは”武幻流”の悠月だ。間違いない。こっちが圧倒的に不利だ。正直あいつらは我らの手に負えない。」
「どうする?」
「仕方がない使いたくはなかったが。」
バイスが懐に手を入れた瞬間。
「させません!」
一瞬で間合いをつめた悠月が斬りこむ。
それをザクリットが受け止める。
「お前の相手は俺だ・・・・。」
「ぬぅ! 嬢ちゃん! 後方へ飛べ!」
バイスの手にもったクリスタルを地面に投げつけるとクリスタルから光がもれる。
「くっ!」
悠月は後方へ飛ぶ。
「いくぞザクリット!」
バイスが壁を突き破って外へと飛び出す。
「お前は俺が必ず殺す!」
それに続いてザクリットも飛び出す。
「まてぃ!」
ラドンガが追いかけようとした時ー
「ちょっと! 早くバリアの中に入って!」
「ええい! しょうがない!」
悠月に続いてラドンガも里英のバリアーの中へ入る。
「小娘! ワシらは平気でもあれが爆発すればこの施設は崩落するんじゃないのか!?」
「防護シェルターへ避難している人は大丈夫でしょうが、まだ避難できていない人達があぶない!?」
悠月がバリアーを出ようとするのを里英が止める。
「もう間に合わないわ!」
「ですが!」
「なんとかならんのか小娘!」
「私もこれ以上バリアーは張れないの! それに外に投げても街に被害が出る! 被害を最小限にするにはここで爆発させるしかないの!」
「そんな・・・・」
「ぬぅ! 爆発するぞ! 伏せろ!」
ラドンガは里英と悠月の前に立って叫ぶ。
クリスタルの輝きが最高潮になった時ー
「ゲロン!」
体調が2mはあるピンク色のカエルが現れてクリスタルを飲み込む。
「ぬぅ!?」
カエルがクリスタルを飲み込んだ瞬間、爆発音と共にカエルの腹が膨らんで鼻と口から煙が出てくるもカエルは平然としている。
「な、なんなのこのカエル。」
「味方でしょうか?」
「わからんが爆発は回避できたみたいだの。」
3人がカエルを凝視していると上から人影が落ちてくる。
「大丈夫か?」
そこには黒と銀のローブを羽織った禍々しい男がいた。
「ぬぅ・・・・こやつはたしか。」
「あなたは?」
「見るからに怪しい! 新手の敵!?」
里英が杖を構える。
「安心しろ、こいつは爆弾岩を食すカエルというカエルで私の僕だ。害はない。」
一神斎はカエルの説明をしながら3人に近づく。
そんな一神斎に里英は杖を向ける。
「カエルじゃないわよ! 怪しいのはあんたよ!」
(えぇ~助けたのにまたこの仕打ち?)
一神斎が困惑しているとラドンガが前に出る。
「ぬし・・・・”黒銀の梟雄”じゃな?」
ラドンガの言葉に一神斎は言葉を失う。
(誰それ・・・・俺か!? えぇ! 何その中二病でも逃げだしそうな二つ名は・・・・。)
「ラドンガさん、その”黒銀の梟雄”とは何なのですか?」
「ちょっと! ”黒銀の梟雄”って最近”2英1狂”に加えられた危険分子じゃないの!」
(え!? 俺が”2英1狂”に加えられたの!? マジで! なら”3英1狂”ってことか!)
「そうじゃ、最近”2英1狂”に加えられて”2英2狂”になった危険人物じゃ。」
ラドンガの言葉にその場にいる3人が驚く。
「この方があの”2英2狂”の・・・・」
「ヤバイじゃないの! あの3人と肩を並べる奴なんでしょ!」
「えぇ! 俺って”狂”のほうなの!? ”英”の方じゃないの!?」
「どこからどう見ても”狂”じゃないの!」
「ひ、人見かけで判断するのはよくないんだぞ!」
「どう見ても敵しか見えん。」
「・・・・」
いじけて座り込んだ一神斎を爆弾岩を食すカエルが慰めている。
「ゲロゲロゲロロ!!」
爆弾岩を食すカエル(ボムロックフロッグ)が悠月達3人を叱りつけるように鳴く。
「何で私たちがカエルに怒られてるのよぉ・・・・。」
「助けていただいたのにあれではしょうがありませんよ。」
「うむぅ、同じ”2狂”でも”純白の戦乙女”とは全然ちがうのぉ。」
心が癒えたのか一神斎は立ち上がって爆弾岩を食すカエル(ボムロックフロッグ)を撫でる。
「ありがとよ爆弾岩を食すカエル(ボムロックフロッグ)・・・・お前を召喚して良かった。」
一神斎が撫でると爆弾岩を食すカエル(ボムロックフロッグ)は目を細めて気持ちよさそうにする。
「ゲロ~♪」
「さて、敵はもういないようなので私は帰らせてもらう。」
「今さらカッコつけられてもねぇ~。」
「・・・・」
「あの黒銀の方、助けていただいてありがとうございました。」
悠月は頭を下げる。
(悠月は本当に良い子だな、これだけでもここに来て正解だった。)
「気にしなくていい、ケガがなくて良かった。」
一神斎は悠月に仮面の下で微笑みかける。
(この方どこかで会ったような気が・・・・。)
その時美術展の方から黒い粒子が漂う。
「「「!?」」」
一神斎以外の3人が身構える。
その時、黒い霧状のものが悠月に向かって飛んでくる。
「あぶない!」
一神斎は悠月を抱きかかえて黒い霧を避ける。
「大丈夫か?」
「は、はい。」
黒い霧は空中で留まっており、4人とも空中のそれを見つめている。
『ふははは! ついに解放されたぞ! 我はついに蘇ったのだ!!』
黒い霧はそのままバイス達が突き破った壁を飛び出していった。
「逃がすか!」
一神斎は悠月を離して黒い霧に続いて爆弾岩を食すカエルと共に外へ飛び出していった。
早い時間に帰宅できたので不意をついて更新!