5 ホムンクルスとRPR(リアルプレイルーム)
「冷たいけど・・・・人間の感触だ。」
目の前にあるホムンクルスを指でツンツンする。
材料を考えればありえないことだが素晴らしい出来だ。
「しかし、ホムンクルスとはいえ作って良かったのか?」
こんな時代とはいえホムンクルスの作成に対する法律はない。
もちろん何の意味もなく作った訳ではない。
意味があるから作っていいというものでもないと思うが・・・・・・。
一神斎は床に転がっているホムンクルスに向けて魔法を掛ける。
<複数瞬間移動>
一神斎とホムンクルスの姿がリビングから消え、自宅の一室に移る。
「これは便利!」
一神斎は思わず歓喜の声を出す。
<瞬間移動>は一神斎が憧れていた魔法の一つだ。
理由は簡単、便利この上ない。
これさえあれば長距離移動も楽であり疲れない。
「でも何で<瞬間移動>と<複数瞬間移動>になっているのだろう・・・テレポートもテレポーテーションも同じ意味なのに・・・効果が単体と複数で分けられている。」
ちなみに同じ効果なのに<転移> <転送>もある。
全ての魔法が使えるが中には名称が違うだけで同じ効果のものがある。
「ってこんなことは考えてる場合じゃない。」
一神斎達がいる部屋は一神斎がゲームやインターネットする時に利用する部屋で最新の据置体験型ゲーム機RPRがある。
RPRは人が一人入るほどのカプセルに入りゲームをプレイするものである。
直立状態でフルフェイスの電子ヘルメットをかぶり、自らの身体を動かすことでゲームの世界を現実の世界のように動き遊ぶことのできるゲーム機である。
しかし、一神斎の部屋にあるRPRは先ほどの物とは異なる。
通常の立型カプセルのものではなく、長方形型の扉の着いた小屋型のものだ。
これは通常のものとは違い、自らの身体を動かしてプレイするだけはなく専用のイス (出し入れ可) もありそこに座ってテレビゲームのようにプレイすることもでき、そのスペースにパソコンや冷蔵庫なども設置できるように少々広めに作られている。
もちろん身体を動かしてのゲームプレイも可能。
通常のものが1万円とリーズナブルな中でこの小屋型のものは15万7千円と値が張るのである。
金があるから買ったというのもあるが、一神斎はゲームをするのに身体を動かす意味がわからないので小屋型を注文したのである。
だが一神斎は別にホムンクルスとゲームをするためにここに来た訳ではない。
一神斎はホムンクルスを魔法で浮かばせるとRPRの中に入り自身はイスに座る。
そして一神斎はホムンクルスとRPRに対して魔法を掛ける。
<連結>
そして一神斎はソフトの入っていない、オンラインゲームに繋げていないRPRを起動しヘルメットを被る。
するとホムンクルスが立ち上がり声を上げる。
「よし成功だ!」
現在ホムンクルスの中のには一神斎の意志が入っている。
一神斎はRPRとホムンクルスをリンクされることでRPRを通じてホムンクルスを動かすことにしたのである。
もちろん魔法の中には対象を強制操作するもの、意のままに操るもの、自ら対象に憑依するものなど多数あるが一神斎はあえてRPRという方法を選んだ。
理由としては三つ。
一つは効果範囲。
操作系の魔法には自らが対象を操るものと命令を与えて操るものがある。
しかし、これらには効果範囲というものがあり通常は狭い範囲でしか操ることができない。
もちろん一神斎には操作範囲が広大な魔法が使えるが、もし何らかの理由で魔法効果が消えた時再度魔法をかけることが困難なのである。
二つ目は経験。
操作系は前記の通り命令を与えたり、人形ように操れるものがあるが自分自身が動く訳ではないので経験を積むことができないのである。
これに比べ憑依は操作系と異なり他人の身体とはいえ自分が動くので五感が効く。
しかし憑依系には憑依した生物が傷つくと自身も同じ傷がつき、もし死んでしまったとしたら自分も死ぬことになるのだ。
これは非常に大きなデメリットである。
特に一神斎には戦闘経験がないので自分の身体は安全なところにあっても憑依したものが死んでしまえば死んでしまう憑依の力は大変危険度が高い。
三つ目は安全。
このRPRをしようしたホムンクルスの操作は大変安全なのだ。
RPRの最大の特徴は「ゲーム機」ということ。
ゲームの世界で自分の操るキャラが死んでも自分が死ぬことはない。
RPRを使いホムンクルスを操作することは自分自身でホムンクルスを動かし経験を得ることができる憑依のメリットと操作系のように自分自身が傷つくことがないというメリットがありこれは前記のようなデメリットがなくなったといってもいい。
「成功したのはうれしいけど、出来すぎだ。」
なぜこのように自分に都合がいいようにできたのかはわからないが、うまくいったのだからこれを使わない手をない。
「とりあえず色々試してみよう。」
それは何とも不思議な感覚だった。
ゲームの時とは違い、本当にホムンクルスの体に自分が入ったのかどうか疑うほど普段と変わらない。
だが目の前に本体である自分がイスに座っているのだから間違いはないのだろう。
本体に戻る時もそうだ、念じると目の前が真っ暗になる。
RPRのヘルメットを被っているので目の前が暗い。 ゲームをシャットダウンした時と同じだ。
ヘルメットを取り横を見るとホムンクルスが横たわっている。
再びホムンクルスの体に入るとRPRを出て、服を着たり、飲み物を飲んだりする。
味もあるし冷たさも感じる。
排泄等は・・・まぁ今はいい。
「これなら外界に行けるな!」
一神斎は力を得たとしても闘いなどはしたくないし外界に行く気もしなかったが、興味がないわけではない。
だが自分の命は惜しい。
ケガをするのも御免だ。
しかし、このホムンクルスの身体を使えば自分は傷つかないし万が一命を落としても自分は死なないのだから気兼ねなく冒険ができる。
「よし、さっそく外界にでも行くか・・・・・・あれ?」
力を持たない一般人は自由に外界には行けない。
旅行会社を通してのツアーでしか行くことができない。
それも安全なこちらの世界と交流のある国だけで国から外にも行くことができないのだが一神斎には外界に行く方法がある。
さきほどRPRのある部屋に行くときに使用した転移魔法だ。
これならば誰にも気づかれることなく外界にいける。
しかし、一神斎はその外界に行くために必要なものがないことに気付く。
そう杖がないのだ。
手に持たない時はいつも隣で浮遊していた杖が今はない。
「まさか・・・・・・」
一神斎は杖を出した時のように心の中で念じる・・・・反応がない。
「ホムンクルスの身体だからか・・・」
杖や釜は一神斎にしか使用できない。
これはこの力を得た時の莫大な情報の中にあったが、魂・・・・といっていいのか中身が自分ならばホムンクルスの身体でも使うことができると思っていたがどうやら駄目らしい。
「なんてこった・・・・・・」
ここで早くも一神斎の計画が狂う。