4 錬金術の釜
朝のニュースを見ながら朝食を食べる。
~本日の朝食~
・ベーコンエッグ(タマゴ2個、ベーコン4枚)
・トースト2枚(バター&イチゴジャム)
・野菜ジュース(市販の物)
・コーンスープ(インスタント)
食器を自動洗浄機にかけ食後のコーヒーを飲みながら窓の外を眺める。
ちなみにコーヒーは濃くて苦いのが好きだ。
いい天気だ。
そして世の中は何て平和なのだろう。
本当にモンスターなどいるのだろうかと思えるほどだ。
隣ではまだ杖がフワフワと浮いている。
「平和だ。」←”思考停止”発動。
「・・・・・・・・・・・・」
と”思考停止”ばかり発動しても仕方がない。
それに朝食を食べたことで落ち着いてきた。
要は使用法さえ間違えなければ良いわけで難しいことではない。
使用しなければいいだけだ。
その点自分はすぐ保身に走るが常識がない訳ではないから大丈夫だろう。
それに策はある。
それにせっかく魔法が使えるのだから使わないなんてもったいない。
一神斎は杖を手に取り、頭に浮かぶ無数の魔法から二つを唱える。
<魔法の隠蔽>
<硬化>
<魔法の隠蔽>を唱えると家の中の雰囲気が変わる。
これは自分が魔法行使したこと隠す魔法だ。
2つ目に唱えた魔法は別に防衛システムに引っかかるほどのものではないが念のためだ。
そして<硬化>の対象にしたものは一枚の食パンだ。
「おぉ~!食パンが鉄みたいになってる!」
魔法を掛けられた食パンはまるで鉄のように固くなっている。
フライパンで叩くと金属同士がぶつかる音がした。
「成功だ! 本当に魔法が使える。これならば他のアイテムも本物だろう。」
目覚めた直後の考えはどこかに消え、一神斎は自分の得た力を試したくなる。
「どうする! 空も飛べるし変身だってできるぞ!」
その時テレビから一神斎に釘を刺すようなニュースが映しだされていた。
「昨日攻撃魔法の無許可使用により逮捕され・・・・・・」
それは口論のすえ一般人に攻撃魔法を使用し、重症を負わせた魔法使いが逮捕されたというニュースだった。
もちろん一神斎は人や動物に向けて魔法を使用するつもりはないが少し早計だったと考え、落ち着くには十分なニュースだった。
(落ち着け、万が一誰かに見られたら面倒ごとに巻き込まれる可能性がある。それに人に見られない、魔法を使っても問題にならない場所は外界しかないが・・・・)
外界ではこちらのように法律等はない。もちろん外界にも国はあるので中には魔法を禁ずる法律を定めている国もあるだろうが魔法には寛容だ。
外界へは一般人でも渡航できるし今は魔法があるので外界には一瞬でいける。
しかし、外界は危険だ。
モンスターの出現率は桁違いでありもしかしたら人間以外の種族に攻撃される可能性もある。
それに自分の得た力がもしかしたら通じないかもしれない。
無知のまま急にそんな所に行くなど自殺行為だ。
正直な所、一神斎がもっている杖だけでも今すぐにでも「生ける伝説」になれることができる。
だが一神斎にはまだ自分の得たものをそこまで信用していない。
隣に浮いている杖を含め自分の頭の中にそれらの情報は細かく入っている。
それでも確かめてみないことには信用することはできない。
「う~ん・・・・でもちょっとなぁ・・・・・・」
”至高の47”のいくつかはこの場で使っても問題はないが、逆にいくつかは問題があり使うのが恐ろしいものまである。
そんななかで一つ今の状況にうってつけのものがあることに気付く。
「これなら・・・・いけるぞ!」
一神斎はさっそく一つの力を使用する。
すると目の前には四足の大きな釜が現れた。
四本の湾曲した足に支えられた黒色の釜で真ん中にはエメラルド・サファイア・ルビーのような大きな宝石がはめ込まれている。
”真理の錬金釜”
この釜はその錬金術を行使できる道具である。
その効果は何か適当に物を入れる、作れる物を念じるとそれができる。
通常の錬金術では必要な素材、手順や経験、レシピ等が必要となるがこの釜はそれらを無視して錬金術を行使できる。
もはや錬金ではなく便利釜だ。
ただしその品質は入れた物の価値や品質が影響する。
例えば道端の雑草を入れた場合にできるのは低レベルのポーション。
豪華な花束などを入れた場合は高レベルのポーションができるといった具合だ。
金で言えば石をいれるより鉄をいれたほうが良い質の金が錬成される。
外界には錬金術師というのもちゃんと存在しており、錬金術師の国があるらしい。
一度行ってみたいものだ。
一神斎は釜の中に「クマのぬいぐるみ」「銀のナイフとフォーク (引き出物)」「高級なサングラス (周りから総批判)」「アニメキャラのフィギュア」を釜へ放り込む。
これらを選んだのは適当だ。
自分の中では理解できているが初めて使用するのもあり思わず隣で浮いている杖を握りしめ不測の事態に備える。
モコモコと動く粘土はやがて人型になり、一神斎の目の前には裸の男性が現れ床に力なく転がる。顔は少し一神斎に似ている (やや上方修正ぎみ)。
「おぉ~成功だ!すげぇ!思い描いた通りの姿だ!」
錬成したものはホムンクルス、人造人間という訳である。
しかし、これは器だけである。
いわゆる魂というものがなく見た目は人間だが人形のようなものだ。
人形といっても血はでるし内臓もある・・・・たぶん。
正直なところ完璧なホムンクルス、意志を持ち人間と何も変わらないものを作ることもできるが、さすがにそれは駄目な気がする。
これはこれですでにアウトな気もするが・・・・・・。
「・・・・・・平気だ・・・・・・よな。」
自分に言い聞かせるように一神斎は呟いた。