46 承諾
重くなった空気を脱するためにこちらから話をする。
「事情はわかりました。しかし、なぜ私なのでしょうか? この国にS級冒険者がいないことはわかりましたが私のランクはB級です。私を探していたとのことですが私である必要がどこにあるのでしょうか?」
一神斎の言葉を聞いてダドリアンがニヤリと微笑む。
「ダルト殿、あなたは少し前にランガ街近辺の森でファイアーアイアンリザードを倒してますね? それも1人で。」
(げっ・・・・そういうことか。)
「あのA級ランクのモンスターを1人で討伐したあなたの実力はS級だと考えていいと思っています。それにハビク殿は群れることを嫌う、あなたも1人で今までやってこられた、実力はもちろんですがどこかハビク殿と通ずる所があると私は感じています。」
1人でやっていたのは実はこの体はホムンクルスで私は別の場所で操作して工場の仕事もあるので1人でやらざるのえないのです。
なんてことは言えない。
かといって私はぼっちじゃないなんて負け惜しみは言えないので黙って聞いておくしかない。
「だとしても私でー」
一神斎が言い終わる前にダドリアンが真っすぐ見つめてくる。
「それにあなたはハビク殿に先入観を持っていない。」
(なるほど、そういうことか。)
いくら国が取り繕ったところでハビクの印象は最悪だろう、それは国民だけではなく冒険者の中でも同じでありハビクと共にクエストに行く者などいないだろう。
自分達も殺される可能性もあるし、仮にクエストがうまくいったとしてもS級の強さを誇るハビクが一緒では自分たちの活躍したところで話題は全てハビクのものになるのは明白。
他の冒険者には命を落とすかもしれない、話題や評価を他者に奪われる可能性があるこのクエストを受けるメリットがないのだ。
しかし、それに関してはダルトでも同じことが言えることだろうし、1人で行った方が正直楽だろう。
それはダドリアンもわかっているのだろう、今回のクエストの報酬について語る。
「それで今回のクエストの報酬についてですが、金貨500枚とA級への昇格を約束いたします。更に手付金として銀貨250枚も支払いします。」
ダドリアンは直筆のサインが入ったクエスト依頼書を見せる。
(前金銀貨250枚に金貨500にA級昇格・・・・破格の報酬だな。)
ちなみにこの前のモンスター討伐の報酬は銀貨100枚ほどだった。
いくらS級といえど正式な査定ではないのであくまでダドリアンが独自が算出した報酬なのだろうがそれでも破格だ。
A級チームがやられていることも考慮したとしてもなかなかのものだ。
それを考えるとサザラントの経済力はすごいものだと感じさせられる。
(正直金はどうでもいいが、A級昇格か、これはそそられる。それに・・・・。)
ハビクの実力はS級だと言っていた、それにこの国にはS級はいないとも。
内の世界でのS級の実力は何度か見たことがある。
各ギルドの団長何かはS級だし、認定はされていないが”2英1狂”なんかはS級レベルの実力だろう。
国際政府の8英星なんてどうなんだろうか?
話がそれた、とにかく外界でのS級のレベルというものを見ておきたい。
A級のモンスターは討伐したが、ダルトの実力のほども確認しておきたいのだ。
それにランクを上げるのも正直めんどくさい。
ランクを上げるにはそれなりにクエストをこなしていくしかない。
EランクからBランクへ昇格したのはほとんど偶然のようなものだったのでランクをあげることに関して少し面倒臭いと思っていたのでこれはありがたい。
「わかりました、このクエストを受けましょう。」
「おお、受けてくださいますか! ありがとうございます。」
ダドリアンが感謝の意を述べると扉をノックする音が聞こえる。
「誰だ?」
「お話のところ失礼いたします、シモーヌです。」
「入れ。」
ダドリアンがそういうとシモーヌが扉を開けて部屋に入り、頭を下げる。
「ダドリアン様、商人組合長の方がお見えになっております。」
「そうか、ダルト殿申し訳ないのですが私はここで失礼させていただきます。シモーヌ、ダルト殿をハビク殿の所へお連れしないさい。ダルト殿よろしくお願いします。」
「わかりました。」
ダドリアンはそういうと部屋を出ていく。
「それではダルト様、こちらです。」
ダルトはシモーヌの後をついていく。
一神斎はハビクについて考える。
(若いといっていたな、20歳くらいだろうか・・・・。)
シモーヌと一神斎は屋敷を出て敷地内にあるもう1つの屋敷に入る。
シモーヌは黙ったまま地下へと続く階段を進んでいく。
(地下? それにしても暗いな・・・・奇人変人は勘弁してほしいな。)
一神斎はどんどん不安になっていく。
ダドリアンは保護していると言っていたので屋敷の一室に隔離しているのかと考えていたがここは地下室だ。
それも薄暗くてまるで地下牢といった感じだ。
「まさかな。」
「どうかされましたか?」
一神斎の声にシモーヌが後ろを振り返る。
「いえ、何でもありません。」
「そうですか、暗いので足元にお気を付けください。」
(あぶない、あぶない。)
蝋燭で照らされた階段を下っていくとそこには兵士が立っていた。
シモーヌは見張りと少し話をすると扉を開ける。
(おいおい、まじか・・・・。)
開かれた扉の向こうを見た一神斎に驚愕と落胆が襲ってきた。
そこはまさか地下牢だった。