45 呪血の白美
ソファーは少し硬いように感じる。
(外界でソファーを見たのは初めてかもな、でもあまり座り心地はよくない。)
「さて話の続きですが、たしかに本来ならばダルト殿の言う通りサザラントを拠点にしている冒険者に依頼するのが当然のこと。」
「何か理由があるのですね。」
ダドリアンははにかむ。
(少しはにかんだだけでダンディだな~ 俺もこんなおっさんになりたいものだ。)
「話が早くて助かります。ダルト殿は”呪血の白美”をご存じですかな?」
「いえ、知りません。」
「うむ、では”ハビク”という名は?」
「申し訳ありませんが、それも知りません。」
一神斎の答えにダドリアンは安堵の表情を浮かべる。
「それは良かった。」
「どういう意味でしょうか?」
「ダルド殿はティルガ平原の戦争はご存じで?」
「いえ、それも・・・・。」
「気になさらずに、ティルガ平原とはアルメデュカ王国とリブルジュエル国の国境沿いにある平原のことです。」
ダドリアンは机の上に置いてある地図を広げて場所を指さす。
「なるほど、それで戦争というのは国同士でですか?」
「いえ、我がアルメデュカ王国とリブルジュエル国は友好条約を結んで以来良好な関係を築いています。」
(昨日コロが言っていた通りだな。)
「ではどこと?」
「獣人の国とです。」
ダドリアンの表情が少し険しくなる。
「獣人ですか、聞いた話では非常に好戦的で亜人や人間を捕食するとか。」
「一概には言えません。好戦的で凶暴な獣人は"獣人国ガンガバルル"の獣人だけです。」
「獣人国もあるのですか。」
「ええ、獣人至上主義で純血の獣人のみで形成された国です。」
「純血・・・・ですか。」
「えぇ、獣人の中には我々と友好的な者もいますがそれを獣人国では汚れた血と・・・・。」
「汚れた血・・・・。」
「我が国でも獣人の者もいますが、彼らを獣人国では裏切り者とし賞金首にしてしまうほどです。」
「それで攻めてきた獣人国の軍隊を両国で対応したと。」
「ええ、両国被害は出ましたが撃退することに成功しました。」
(獣人国か・・・・思っていた以上に無茶苦茶だな、そのうち闘うこともありそうだ。)
「では今回は獣人国に関する依頼ですか?」
「いえ、ここまでは前置きでここからが本題です。」
ダドリアンは一神斎をまっすぐ見つめる。
「今回の依頼はさきほどダルド殿にお尋ねした”呪血の白美”ことハビクのことなのです。」
ダドリアンは机の上に一枚の紙を置く。
「これに目を通していただけますか?」
一神斎はダドリアンが置いた紙を手に取る、何やら文字が書かれており号外新聞のような感じだ。
文字は外界の文字なのでそのままでは読むことができないがRPRの翻訳機能で読むことができる。
紙には呪血の白美ことハビクがティルガ平原の戦争で行った残虐非常な行動について書かれていた。
内容的には既に息絶えた獣人を何度も剣で突き刺したり、獣人だけではなく仲間であるアルメデュカ王国とリブルジュエル国の兵士の命を見境なく奪ったなど他に色々書かれている。
「なかなか刺激的な内容ですね。」
「ええ、しかしそれは真実ではありません。」
「と言ううと?」
「ハビクはそんなことはしていないということです。」
「ではこの紙はいったい。」
「それは私どもが戦争を終えて帰ってきてすぐのことですー」
ダドリアンは神妙な面持ちで説明をする。
ダドリアンが言うには戦争を終えて帰ってきてすぐにこの紙がアルメデュカ王国内に貼り出されたり配られていたのことだ。
誰が作ったのか、誰が国内にばらまいたのはわかっていないらしい。
王国はすぐに紙の内容は事実無根であると発表したらしいのだが、民の間では既に広まっておりハビクを捕らえるべきという声が日増しに大きくなっていったらしい。
特にここサザラントでは同じような声が日増しに大きくなり、ダドリアンが説明するも焼け石に水だったようだ。
ダドリアンいわくはハビクは若い年齢でありながらその実力はS級、戦争で活躍したのは事実なので何かしらの嫉妬や妬みを買ったのではないかと考えているらしい。
その後も国が動かないとみた国民が冒険者にハビクの捕獲や討伐を依頼する自体になってしまったらしい。
自体を重く見たダドリアンは戦争時に自分の下にいたハビクの身を守るために保護しているらしい。
1年が経った現在、国全体としてはハビクに対する声は小さくなり収まりつつあるらしいのだが、ここサザラントだけはなぜかいまだに根付いているらしい。
他の街などにハビクを移動させようにもどこも受け入れを拒絶しておりヘタをすれば殺されてしまう可能性があるのでダドリアンの屋敷で保護しているらしい。
それにハビク自体もあまり愛想が良くないタイプらしいのでそれも影響している可能性もあるらしい。
それにしてもダドリアンはなぜハビクに目をかけているのかわからない。
「なるほど、事情はわかりました。それで私を探してまで依頼したいこととは?」
「他のでもないハビクのことなのです。」
ダドリアンは机の上に腕を置く。
「ダルト殿にはハビクと共にあるクエストを受けていただきたいのです。」
「ハビクと・・・・ですか。」
「ええ、最近ではハビクのことを捕らえろという者は少なくなってきているのですがハビクを表に出すにはきっかけが必要なのです。」
「それでクエストですか?」
「ええ。」
ダドリアンの答えに一神斎は少し不安にかられる。
(えぇ~、それだけでいけるのかよ~ 無理だろ普通。)
そんな一神斎の不安を感じ取ったのかダドリアンが口を開く。
「不安になるのもわかりますがご安心下さい。」
(超能力者かあんたは。)
「そ、それで安心とは?」
「このたび依頼したいクエストはS級に匹敵するものです。」
「S級クエストに匹敵・・・・。」
(むしろ不安になるんだが。)
「ここ最近近くの森でサザラント近辺では見かけない凶暴なモンスターの目撃情報が相次いでるのです。」
またデジャヴだ。
一神斎はランガ街でのクエストを思い出す。
(あの時は大したことないモンスターだったけど、ランガ街周辺で生息していないモンスターだったな。)
何か嫌な予感がする、それにあの時のモンスターはC級だったが今回はS級クエストに匹敵するというのだから不安要素しかない。
というか俺まだB級なんだけど。
「それを私とハビク・・・・殿で討伐したところでこの街の人が納得するのでしょうか?」
そんなうまい話を鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。
するとダドリアンはもう一枚の資料を手渡してくる。
「これを。」
その紙にはとある冒険者チームの情報が記載されていた。
「これは・・・・。」
ダドリアンの顔が険しくなる。
「それは先日このクエストに出かけた冒険者チームです。」
一神斎はもう一度資料に目をやる。
冒険者チーム”シルバーソード”、ランクA級、メンバーの情報や今までの実績などが記載されており、なかなかの冒険者チームのようだ。
しかし、それ以上に目を引く情報がある。
”死亡を確認”
「御覧の通り、実績もある冒険者チームだったのですが旅立ってから数日が経過した時にこの街に来た他の冒険者の方が発見しました。」
「森のモンスターにやられたとうことですか?」
「恐らくは。」
「A級の冒険者チームがやられたことは瞬く間に街に広がりました、しかしこの国にはS級の冒険者チームはおりませんので手を焼いております。」
その場の空気が少し重くなる。
更新頻度の低下申し訳ありません。
金、土は必ず更新するようにします。あとは不定期です。