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36 白金と黒銀(6)

 「あ~、御取込み中申し訳ない。私はそこにいるザキフレっていうのに用があるだけですのでお気になさらず。」

 一神斎が地上に降りて、ザキフレに近づこうとした時目の前に片目が欠けた般若の面を被った者が遮る。

 「何者だ?」

 小太刀を構えるその姿は忍者そのものだ。

 後ろには白衣を着た仮面の女もいる。

 「なんだ、仮面パーティか?」

 「君も仮面をつけているだろうに、黒銀君」

 「・・・・たしかに。 ん? 黒銀??」

 一神斎が白衣の女に問いかけようとした時に忍者風の男が割って入る。

 「悪いが、こいつをお前に渡すつもりはない。」

 「知ったことか。」

 半蔵の言葉を一神斎が一蹴しザキフレに目をやる。

 場は静寂が支配し、一神斎がどの魔法を発動しようか悩んでいると後ろにいるレクスが声をかける。

 「私は政府軍討伐隊の者だ、黒銀の方! 君は味方か敵か!?」

 後ろから声がするが振り返るわけにはいかないので前を向いたまま質問に答えることにする、戦闘ど素人の一神斎だがさすがにそこまで馬鹿ではない。

 「どちらかと言えば味方だが、邪魔をするなら容赦しない。」

 レクスは迷っている。

 正直この状況で相手の仲間であるであろう者を瀕死の状態に追い込んだ者が味方につくのはすごくありがたい。

 しかし、禍々しい見た目と雰囲気。

 先ほどの発言からしても完全にこちらの味方ではない。

 というかやっぱり見た目が怪しすぎる。

 こちら側よりの中立の立場だということになる。

 だが今は互いの利害が一致すれば味方になるということだ。

 「わかった、邪魔はしない。だがこの周囲にー」

 レクスが話終わる前に白衣の女が動く。

 地面に手を付けると2つの魔法陣が描かれ、中から巨大な怪物が2体現れる。

 「なっ!」 

 「ん? この怪物はたしかこの前のライブ会場で。」

 


 「この子達で時間を稼ぐから早くザキフレ君を。」

 「わかった。」

 半蔵がザキフレに手を伸ばそうとした瞬間ー

 2体の怪物の頭が地面に落ちる。

 その場にいる4人から驚きと疑問の声があがる。

 怪物の巨体が地面に沈むとそこには人影があった。

 「そこの討伐隊の方、あなた以外は敵でいいのかな。」

 そこには白金の全身鎧、盾、剣、真っ赤なマントを持った男が立っていた。

 「し、”白金の英雄”。」

 レクスの言葉にその場いる全員が息をのむ。

 「こいつが白金の・・・・。」

 「私の子を一瞬で2体も・・・・。」

 (まじか! 初めて生で見た! 写真お願いしようかな!)

 白金の英雄がレクスの横に飛び降りる。

 「怪人3人に怪物2体・・・・1人は倒されたようですが、多勢無勢、卑劣な。」

 冷静な口調で話すその姿はまさに英雄という言葉が合う風格と威厳があった。

 政府やギルドに属していない正体不明のヒーローの1人。

 月明りに負けない光沢を放つその姿はまさに”白金の英雄”という名に偽りはなかった。

 その姿に2人の怪人は圧倒され動きが取れない。

 「白金の英雄、助太刀感謝する。」

 「困っている人を助けるのは当たり前、それに相手が怪人とあっては至極当然のこと。」

 「ふっ、相変わらずだな。それからあそこの黒銀のローブもこちらの味方だ。今はな。」

 「今は・・・・なるほど、わかりました。」

 (うわぁ~俺のこと見てる? やべ~まじかっけぇ! 握手とかしてもらえないかな・・・・。)

 


 「まずいね。」

 「ああ、双角に白金、それにザキフレをここまで追い詰めた黒銀の3人が相手ではこちらが圧倒的に不利だ。」

 「まだ手持ちの子はいるけど時間稼ぎにすらならないだろうしね。」

 2人にはザキフレのことは頭にはなくどうやってこの場から逃げるかだけを考えていた。

 そんな2人の思考を読み取ったかの如く、白金とレクスが攻撃を仕掛けようとした時。

 横たわっていたザキフレの身体が膨らみ始めた。

 「げひひ、こ、このまま死んでたまるか・・・・お前ら全員道連れだ!!!!」

 ザキフレの体が巨大な風船のように一瞬で膨らむ。

 その眼には狂気的なものが宿っていた。

 「今だ!」

 白衣の女がもう一度地面に手を付けると巨大な虫が現れる。

 それと同時に半蔵も地面に何か投げると白煙が辺りに放出される。

 「まずい! ここは住宅街だ! このままだと」

 「”束縛王の監獄リストリクトキング・オブ・プリズン”」

 膨れ上がったザキフレの体が球体の中に納まる。

 「こ、これは!」

 「大人しくしてろ。」  

 球体の中で膨らんでいたザキフレがしぼんでいく。

 巨大な虫は白金に一刀両断され絶命する。

 「ぐっ、この煙は。」

 どうやら煙には何かしらのものが含まれていたらしくレクスが袖で口を押えて煙を避けるように後退する。

 それを見た白金が身体を目にも止まらぬ速さで回転させ剣を上へ突き上げると小規模の竜巻が起こり煙を巻き上げて上空へ逃がす。

 場には一神斎と白金、レクス、球体に閉じ込められたザキフレだけとなっていた。



レクスが周囲を見渡す。

 「他の奴らは!?」

 「もう逃げたんだろう。」

 「黒銀の方、その道化師はどうするつもりか?」

 白金に話しかけられ一神斎のテンションが上がる。

 (うっは! 白金の英雄に話しかけられたよ! どうする!? 握手だけでもしてもらうか!?)

 しかしここで”霓裳婉美げいしょうえんび”の沈静化の効果が発動されて冷静になっていく。

 沈黙する一神斎にレクスも問いかける。

 「その道化師の身柄を渡してもらえないのだろうか? 今後の怪人調査が進展ためにも。」

 レクスの問いかけから少しの時間が経つ。

 ザキフレは”束縛王の監獄リストリクトキング・オブ・プリズン”の効果により自爆はおろか全ての行動が制限されているのでこのまま政府に渡すこともできるが・・・・。

 「駄目だ。」

 一神斎はそれだけ言ってザキフレの方へ振り返ると指をパチンと鳴らす。

 ”美食姫への貢物トリビュート・グツェリエゴフ

 指の音と共にザキフレを封じた球体がゆっくりと落下し、まるで水の中に沈むように波紋を起こしながら地面の中に消えていく。

 


 「何をしたんだ!?」

 レクスが一神斎に問いただす。

 「悪いが、あいつは俺の平穏な生活の邪魔をした。俺は別に何か大きなことをしようとは思っていない。ただ平穏に暮らしたいだけだ。だがそれを邪魔しようとするものは何者であっても生かしてはおかない。」

 レクスをまっすぐ見る。

 「更にいえば今回の件で政府軍に何か言われる筋合いはない、お前らがあいつらを取り締まっていれば俺や白金が闘うことなどないのだ。それに今回は俺とお前の間で口約束とはいえお互い邪魔をしないといっただろう。お前は俺の問いかけに”わかった”といったはずだ。」

 レクスは言葉が詰まる。

 一神斎の言っていることは正しい。

 自分たちが手間取っているせいで一般人に被害が及び、ギルドだけならまだしも最近では”白金の英雄”や目の前の黒銀のようなどこにも属していない個人戦力が4人も出現している始末。

 それに今回も自分1人では恐らく自分の命はもちろん周囲の住民にも被害が及んでいた可能性が高い。 

 レクスが何も言い返せずにいると白金が言葉を放つ。

 


 「黒銀の方、あなたの言うことも一理ある。だが私達はお互い助け合うことができるはず、ならば私もあなたもこれから平和のための同士にはなれないだろうか?」

 白金の言葉に一神斎は心の中で歓喜の声を上げる。

 (白金の同士・・・・俺も英雄の仲間入り? きゃー!)

 一神斎の頭の中では白金の相棒として世の中を駆け回って人々から賞賛の嵐を受ける光景がうかぶ。

 「どうだろか、黒銀の方。」

 白金の言葉で我に返る。

 (駄目だ駄目だ! 冷静になれ俺! こんなことに巻き込まれるのは嫌だ! 俺は平穏に優雅で少しエッチに暮らしていきたいのだ!)

 「申し訳ないがそれはできない。あんたはもちろん政府とも揉めるつもりは毛頭ないが、俺は平和の使者になるつもりもない。」

 (ごめんね! 本当は横に並びたいけどごめんね!)

「そうか。」

 一神斎はそう言うとその場から立ち去ろうする。

 「ま、待ってくれ!」

 レクスが一神斎を呼び止める。

 (やめて! これ以上勧誘されたら断れなくなっちゃう!)

 「正直君がいなければ被害は相当なものになっていただろう。今日は助かった!」

 レクスは深々と頭を下げる。

 (えぇ~、やだ~、この人すごくカッコいいじゃない!)

 一神斎は肩越しに顔を振り向けるとそのまま<飛行>を発動させて飛ぶ。

 「黒銀の方、今度会う時も味方であることを願う。」

 「お互いにな。」

 白金の問いかけに答えると一神斎は上空へと消え、白金も闇に消えていく。


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