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30 大きなワンちゃん

 例外の7体なのだからとんでもないものがでてくると想像していたし、召喚を念じた時にはドラゴンという情報も入ってきたの身構えた。

 しかし、現れたのは自分が想像していたドラゴンとは異なり、更には威圧的どころかまるで親戚のお姉さんのような温かい雰囲気をもつものなのだから戸惑ってしまうのも無理はない。

 


 「私の顔に何かついてますか?」

 また一神斎は我に返る。

 「い、いえ何かこう~想像とはちがってたので。」

 「想像? 私に用があるから呼び出したのではないのですか?」

 「あ~、その、用という用はないんだけど、顔を見てみたいと思って・・・・迷惑でした?」

 一神斎の言葉に不思議そうに首をかしげる白竜。

 「迷惑ではないのですが、私を無条件で呼び出すほどの方なので一体どのような用なのかしらと。」

 そりゃそうだと一神斎は思う。

 普通に考えれば召喚獣とはいえ生き物だ、何か用があるから呼び出されたと考えるのは当然であり自分のようにただ確認ために呼ぶなんてことするやつはいない。

 とりあえず説明してみるとしよう。

 一神斎は”幻の禁書の一つグリモワーズ・サモンブック”を白竜に見るように掲げて説明する。

 「実はこの本には俺が召喚できるものが記載されているのですけど、あなたを含めて7体のものの情報は何も記載されていないので一度召喚して見ておいたほうがいいかと思いまして・・・・。」

 すると白竜の穏やかな雰囲気が少し変わる。

 「その本はどこで入手したのですか? いえ、本だけではなくあなたの身に付けている服に指輪、その杖も。」

 まっすぐに一神斎を見つめる雰囲気はドラゴンそのものだった。

 だがここで怖気づいてしまうと相手に舐められ、ヘタをすれば殺される可能性もあると考え一神斎は胸を張って堂々と答える。

 「詳しい事情はいえないが、これらは俺の物だ。それにこれらは俺にしか使用できない。それにこの場所も俺が所有しているものだ。」

 

 

 一神斎の言葉を受け、白竜が周囲を伺う。

 「たしかにここは私が知っている場所ではありませんね、いえ知らない世界といったほうがいいでしょう。」

 俺も知らない世界だけどな! とは口が裂けてもいえない。

 「それで、私を呼び出した本当の理由はなんなのでしょうか? それほどの力を有しているあなたの願いを私が叶えられるとは思いませんが。」

 「いや、理由はさっき言った通りだ。」

 「え?」

 一神斎の答えに場の空気が軽くなる。

 白竜は少し戸惑いながら一神斎に問いかける。

 「本当にそれだけなのですか? 顔を見たいだけ? た、例えば世界を征服するから手伝えとか、世界を滅ぼすとか。」

 「え~、俺そんな野蛮人に見えるの?」

 「そ、そんなことはありませんがかなりの力をお持ちのようですし、それに神龍である私を呼び出すなど今までなかったことですので・・・・。」

 「あ~なるほど、それは驚くよ・・・・・・し、神龍!?」

 一神斎の大声に白竜も驚く。

 一神斎は”幻の禁書の一つグリモワーズ・サモンブック”の例外ページを開くとそこには白竜の情報が記載されていた。

 そこには名前も記載されていた名は「シルクェーナス」、そしてそこにはハッキリと「神龍」と書かれている。

 (ま、まじかよ! ここに記載されていることが合ってるなら神の一種じゃん!)

 本とシルクェーナスを交互に見る。



 「だ、大丈夫ですか?」

 シルクェーナスの問いかけに一神斎は何も答えない。

 ”思考停止”を発動していたのだ。

 しばらく沈黙が続きシルクェーナスがもう一度話しかけようとした時だった。

 「ナデナデしてもいいですか?」

 「え?」

 突然の問いかけにシルクェーナスも混乱する。

 今までこんなことを言われたことがなかった。

 「無言はOKととりますので、ナデナデします。頭を下に。」

 「え? は、はい。」

 シルクェーナスは訳が分からず頭を一神斎の手が届く位置まで下げる。

 一神斎の手がシルクェーナスの頭に乗り、左右に優しく動く。

 (これは神龍じゃない、犬だ。犬なんだ。優しい犬なんだ! ワンちゃんなんだ! 少し体が大きいワンちゃんなんだ!)

 そして一神斎は無心で頭を撫で続けて下顎にも手を伸ばし撫でる。

 「ひ、ひゃっ!」

 シルクェーナスが驚いて少し悲鳴を上げるが一神斎には聞えない。

 (ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃん、ワンちゃんだ!!!)

 

 

 この瞬間無意識に一神斎は悟りを開いた。

 そして少し錯乱状態で冷静になった。 

 シルクェーナスはまだ混乱しているようでどうしたらいいのかわからないでいた。

 (ど、どうしたらいいのかしら。)

 「眠いので寝ます。背中を貸してください。」

 「え?」

 「あなたの背中で寝るの背中を貸して下さい。」

 「し、少々お待ちを。」

 シルクェーナスは浮かび上がる無数の疑問を全て一蹴する術を身に付けた。

 するとシルクェーナスの体が小さくなっていき、馬のサイズになる。

 「これだと少し小さくない?」

 「え、あ、お、お乗せした後でまた大きくなるので大丈夫です。」

 「なるほど。」

 一神斎はシルクェーナスの背中に乗るとしがみつく。

 「ひ、ひゃっ!」

 シルクェーナスの悲鳴は一神斎には聞えない。

 シルクェーナスは先ほどの大きさになるとその場で前足を沈ませると体を丸くし一神斎を見えるような体制になる。

 「こ、これで大丈夫でしょうか?」

 「うん、悪いけど2時間くらいしたら起こして。」

 「はい。」

 


 今までにない感触だ。

 こんな柔らかい感触は初めてだ。

 それに温かくて良い匂いだ。

 これなら何時間でも寝ていられる。

 さっきまでは錯乱していたが今では冷静だ。

 とりあえずこのまま昼寝でもしよう(錯乱状態)。

 後のことは起きてから考えることにしよう。

 


 「・・・・・・」

 自分の背中で寝ている人間を見てみる。

 寝ている。

 とても気持ちよさそうに。

 しっかりと自分の毛をを掴んで時折頬ずりをしながら。

 自分が少し威圧した時は物怖じせずに堂々としていた。

 それどころか神龍である自分の頭と顎を撫でまわし、背中で昼寝までしている。

 今まで自分の背中に乗った者がいるだろうか、いやそれどころか自分に触れたことがある者ですらいないだろう。

 普通ならば嫌悪感があるがそれはない。

 それも今はなぜかわかる。

 自分のことをこんなにも褒めてくれた者がいただろうか。

 言葉はなくとも背中で寝ている姿をみればわかる。

 撫でている時もそうだった、今も掴んでいるとはいえ痛くはない。

 とても優しく、温かい。

 「ふふふ、気持ちよさそう。」

 「・・・・う~ん。」

 「あらあら。」

 寝返りをうつ時に落ちないように尾で優しく包む。

 またその尾を抱き枕のように抱きしめてくる。

 こんな穏やかな気持ちになったのは何十年ぶりだろう。

 シルクェーナスの目に温かい感情が浮かんでいた。



 「・・・・う~ん、あれ?」

 目が覚めると目の前にはモフモフの白いものがある。

 突くとユラユラ動く。

 撫でるてみるととても気持ち良い。

 顔を埋めるととても良い匂いがする。

 「ふふ、2時間経ちましたよ?」

 「ん!?」

 声がする方を見るとシルクェーナスがこちらに顔近づいて見つめている。

 「うわ!」

 驚いて落ちそうになる。

 「あらあら。」

 シルクェーナスが尾で優しく拾い上げくれ、ゆっくりと地面に近づけてくれる。

 「あ、ありがとう。」

 「どういたしまして。」

 一神斎は全て思い出したようで急いでシルクェーナスの顔を見る。

 穏やかに微笑むシルクェーナスを見て安堵する。

 「はぁ~、ごめんね、急に変なことお願いしちゃって。」

 「いえいえ、私も久しぶりに心が安らぎましたので。」

 「あっ、敬語じゃなくていいよ? 俺も普通に話すから。」

 「はい、了解したわ。え~と・・・・。」

 「一神斎と言います。シルクェーナスでいいかな?」

 「ええ、シルクェーナスで構わないわ。ご主人様。」

 「ご、ご主人様?」

 「ええ、呼び出された身ですからね。他の者にも示しをつけないといけませんから。」

 「そういうもんか。」

 「えぇ、そういうものです。」

 


 とりあえずシルクェーナスに詳しく説明する。

 これまでのことと、自分の力のことを。

 先ほどまでは警戒していたが、もはやその必要もないだろう。

 「なるほど、理解しました。」 

 「助かるよ、他にこんなこと言える人いなくてさ。」

 人に悩みが言えないのはとてもストレスがかかる。

 「それにしても不思議な本ですね、とてつもない力が宿っているのはわかるのだけど私には全て白紙に見える。」

 ”幻の禁書の一つグリモワーズ・サモンブック”をシルクェーナスに見てもらったのだが全て白紙に見えるらしい。

 他の例外の6体について何かわかるかもしれないと考えて見てもらったがどうやら無駄だったようだ。

 シルクェーナスのように呼び出してみるしかないようだな。

 


 そんな一神斎の考えを読んだのかシルクェーナスから提案が出される。

 「もし他の6体を呼び出す気があるのなら、その時は私を先に呼びだしてもらえますか?」

 「え? 別に構わないけどどうして?」

 「念のためです。他の6体が私のように友好的とは限りませんから万が一の時に他に対処できるものがいた方がいいかと、こう見えて私結構強いですから。」

 「そうか、そうだね。それじゃ頼むよ。とはいってもそんな近日中には呼び出さないとおもうけど。」 

 「ええ、その時はお構いなく呼んでください。それから、身に付けているアイテムは勿論、その他のものもあまり人前で使用は控えたほうがいいと思います。」

 シルクェーナスが真剣な表情になる。

 「何か気がかりでも?」

 「ええ、恐らくご主人様がお持ちの物は”秘宝”や”神器”等の類だと思います。それらは様々な者達に狙われているものが多く、私達の秘宝も狙われたことがあります。」

 「なるほど、あまり人前で使用すれば俺の”至高の47”も狙われる可能性があるということか。」

 「それだけならまだいいですけど、命を狙われる可能性もあります。それほどの力をもつアイテムですので奪おうとする者は必ず現れるでしょう。そうなれば戦闘は必至です。」

 「それは面倒だけど、秘宝か・・・・興味はあるな。」

 ”至高の47”のようなものが世界のどこかにあっても不思議ではない。

 ならばそれらを自分が集めれば自分を脅かす者はいないだろう。

 仮に”至高の47”に匹敵するほどのアイテムを持つものがいたとしよう。

 今は自分のことに気付いていなくてもいずれは自分にたどり着く可能性もあるだろう。

 そうなればこちらに戦闘の意志はなくても向こうから攻撃してくる可能性が十分ある。

 秘宝等の回収は無理でも場所や所有者を確認するだけでもするべきだろう。


 

 一先ず今日は解散するとしよう。

 「今日はありがとう、他の6体を召喚する時はお願いするよ。」

 「ええ、いつでも呼んでくださいね。」

 シルクェーナスが光に包まれて帰っていく。

 一神斎は大きく体を伸ばすと首を捻りながら杖を握る。

 「今日はとりあえず寿司でも食いに行くか。」


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