2 「クリスタル」
「・・・・・・痛ぅ・・・・くっそぉ・・・・」
吸い込まれて勢いのまま床に叩きつけたられたため苦痛の声が漏れる。
だがそれどころではない、一神斎は痛みを堪え身体を起こし周囲を確認する。
「なんだこりゃ・・・・」
広大な部屋、床は漆塗りのような黒色で所々キラキラと光っている部分がある。壁は銀色で今までみたことない模様が一面に描かれている。照明のようなものはないが部屋は暗くない、後ろ以外に扉もなく人やモンスターがいないようようだ。
だが、この部屋には様々な色に輝くクリスタルがいくつかある。むしろクリスタルがあるだけで何もない。
(モンスター等はいないようだが・・・クリスタルは怪しすぎるだろう。)
一神斎はクリスタルには目をくれずに後ろにある扉に手をかける。
しかし、どれほど力強く押しても引いても扉が開く気配はない。
仕方なく一神斎はクリスタルがある方へ歩き出す。
「クリスタル浮いてるじゃん、どうなってんだ?この光景だけ見れば幻想的でとても綺麗な部屋なんだが・・・」
とりあえず数あるクリスタルはスルーする。触れて何か起こるかわからないものには触らない。触らぬ神に祟りなしだ。
どれくらいの時間がたったのだろう。先ほどの廊下ほどではないが広い部屋だ。なかなか大変だった。しかしこの部屋には何もなかった。正確には扉や窓などこの部屋から出る手段がない。
(困った、入ってきた扉は開かないし他に扉や窓もない。あるのは得体の知れないクリスタルがあるだけだ・・・しかも結構多い。)
だが一神斎に焦りや不安はない。この部屋に吸い込まれ時は驚いたがこの部屋に入った時はなぜか安心感がある。それにどこかワクワクしている自分がいる。
「よし!クリスタルしかないよな!」
誰かいるわけでもないのに一神斎は周りに聞こえるような声を出す。
クリスタルからも嫌な感じがしない。逆に温かい感じがする。それに懐かしい感じもする。まるで子供頃に武器のおもちゃを見た時のような感覚だ。
近くにあった七色に輝くクリスタルに触れようと手を伸ばす。
(ここから出る手段はないし思いつかないんだ。こうなったらもうどうにでもなれってやつだ。)
一神斎が七色のクリスタルに触れた瞬間クリスタルは眩い光を放つと粒子状になって消えていき一神斎の手には杖が握られる。
「これは・・・・・・っ!?」
手に握られている杖を認識した瞬間、一神斎の頭の中で杖に関する情報が流れ込んでくる。それは一神斎にとって驚愕の内容であり、頭の中になぜこの杖の情報が流れ込んでくるのかなどという疑問が出ないほどだった。
「こんな物が・・・なぜ・・・っ!?」
一神斎が呟いた瞬間、周りにあるクリスタルが一斉に粒子状になりそのクリスタルの色の球体状の発光物が一神斎目掛けて飛んでくる。
「なんだ!?なにが起こっ・・・うおぉぉぉ!」
飛んできた物は吸い込まれるように一神斎の胸に入っていく。
その瞬間、目の前には白い便器が現れた。
「・・・・・・え?」
そこはトイレだった。一神斎は急いで個室のドアを開き周囲を確認する。そこは大理石の床の広大な廊下でも、クリスタルの部屋でもなかった。
「夢ではない・・・か。」
トイレを出るとそこにはベンチに座っているショウがいた。
「いいタイミングだな。もう閉店の時間だし行こうぜ。」
「そ、そうだな。」
「ん?どうした?腹の調子悪いのか?」
「え?いや・・・・・・そうだなあんまり良くないわ。」
「そうか、なら今日はもう帰るか。」
「あぁ・・・悪いな。」
「気にすんなって急に体調が悪くなることもあるさ。」
二人は車に乗って帰宅した。
一神斎は自宅に帰りシャワーを浴びて早々に寝ることにした。
「疲れてるのかもな・・・今日のことは忘れて寝るか。」
掛け布団を掛け目を閉じる。
「念のため・・・」
一神斎が念じると手の中に先ほどの杖が現れた。
「やっぱ俺は疲れてるんだ・・・もう考えるのを止めて寝よう。」
一神斎はすぐに眠りについた、現れた杖を握ったまま・・・。
前回話の切りどころが悪かった結果、今回は短くなってしまいました。
次からはもう少しバランスよくします。
朝晩冷え込んできましたが暑がりの私にはとても過ごしやすいです。