28 スウィーツプリンセス(6)
化け物には大したダメージはないらしくうめき声は上げているがすぐに立ち上がろうとする。
「近くで見るとすごくキモい。」
一神斎は化け物の上空に移動し頭目掛けて<炎の矢>を放つ。
4本の<炎の矢>は化け物の頭に着弾し炎上する。
一神斎は袖から手のひらサイズのクリスタルを取り出す。
炎が消える前に化け物は上空の一神斎に対して咆哮をあげる。
「ちっ・・・・うるせぇな。それに清浄化されても臭いは残すようにしてあるから臭いなぁ。」
そう呟くと一神斎は持っているクリスタルを発動させるとそのまま化け物の口に投げ込む。
”金剛神豪”を装備しているので全力で投げると貫通するので加減して投げる。
それでもクリスタルはものすごい速度で化け物の口の中に入る。
すると化け物の中でクリスタルは発動したようで口の中から光が漏れる。
化け物が叫び声ともとれる雄たけびをあげた瞬間、胸の辺りから緑色の液体が吹き出し化け物の体が溶けていく。
「うわぁ、結構グロイわ。」
辺りには悪臭が一気に漂う。
”霓裳婉美”の効果で刺激臭などの害があるものはすぐに清浄化されるが五感を利かすために臭いだけは残すようにしている。
一神斎が投げたものは”封魔のクリスタル”だ。
外界で一度森の一部を荒野に変えたものと同じだが中の魔法が違う。
今回の魔法は”極悪非道な酸”という魔法。
”極悪非道な酸”は敵が多く固まっている時に有効な魔法で、発動すると大きな球体が飛んでいき任意のタイミングで破裂させることができて破裂後は広範囲に飛散する。
飛んでいく方向や破裂のタイミングをコントロールできるのでまさに極悪非道な魔法だ。
更に粘度が高く物体の付着しやすいので耐性のあるものでもじわじわ溶かしていく。
クリスタルに籠めたものの外界での1件以来処分に困っていたのだ。
周辺に悪臭をまき散らすという被害はでたが化け物を倒したのだから帳消しだろう。
「少々オーバーキルだったかな、未だに魔法の序列がよくわからんな。っといつまでもここにいるわけにはいかない。」
一神斎は遠くにいる2人には見えないように”無限の保管庫”に手を入れてその中で”杖”を使用し痕跡を残さないように魔法で後始末をした。
一神斎は4人の元へ向かう。
「こちらは平気かな?」
「は、はい! 私達2人は平気ですけどぉ・・・・。」
みおときららが倒れている2人を見つめる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい空気が流れる。
「ごほんっ! では私は帰らせてもらう。用は済んだ。」
一神斎は浮かび上がる。
「もう行くの~? ばいば~い。助けてくれてありがとう~。」
きららが手をフワフワとした感じで振る。
「えっ、あ、ありがとうございました。」
美緒がお辞儀をする。
一神斎は舞台の方向へ飛んでいく。
「い、行っちゃいましたね。」
「そうだね~、とりあえずこの2人に治癒魔法かけよ~。」
「そうですね。」
美緒は2人に治癒魔法を掛ける。
「おぉ~ここにいたのかタクマ。」
「一神! どこにいたんだよ! 探したぞ。」
「悪い悪い、俺も探してたんだよ。」
周囲はもうパニック状態ではなく落ち着いている。
さきほど舞台上からスウィーツプリンセスの4人が化け物を倒したと発表したのだ。
内容としては防衛システムが遅れて作動し討伐隊や防衛隊が駆けつけて協力して倒したという内容だ。
留まっていたファンもスタッフに強引に避難させられたようなので誰も事の次第を見ていないのでこういう内容になったのだろう。
(4人で倒したとは言わないのか・・・・まぁあの化け物が相手だと無理があるか。)
「とりあえず今日はこのまま解散らしいぜ。」
タクマが残念そうに言う。
「そりゃそうだろう? またあんなのに出てこられたらたまらん。とりあえず何か食べに行こうぜ。」
「そうだな。ゲッティでも食いに行くか。」
「何百年前の言葉を使うんだお前は。」
一神斎とタクマは主催側が用意したリムジンバスに乗り込み会場を後にした。
「ー以上が今回の事件の概要です。ユーリ様何かご質問はございますでしょうか。」
スーツ姿の女性が話し終える。
答えを待つように見ていた資料から顔を上げ相手からの答えをまつ。
目線の先には大きな机挟んだ先の椅子に座った1人の女性が目を閉じている。
一重で切れ目の涼しげの美人。
左目に泣きホクロがり銀髪のロングヘヤーのクール美人という言葉がぴったりの女性が座っている。
「怪物の残骸からの情報は期待できそうにありませんね。」
ユーリが部下である女性に問いかける。
「はい、現在本部で調べておりますが飛散した肉片もほとんど溶けた状態でしたので期待はできないかと。」
「そうですか。」
ユーリは紅茶を一口飲む。
「それで、彼女達は大丈夫なのですか?」
「はい、検査の結果全員体に異常はありません。」
ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します。ユーリ様、スウィーツプリンセスの方々がお見えになりました。」
「通してください。」
「失礼します。」
ドアが開き4人の女の子がユーリの机の前に一列に並ぶ。
すると今までいたスーツの女性がユーリに一礼すると部屋を退室する。
「忙しいところご苦労様です。」
緊張しているためかユーリが声をかけても3人は背筋を伸ばして顔が強張っている。
1人を除いては・・・・・・。
「いやぁ~ユーリ様程じゃないですよぉ~。」
きららは手をフワフワ振りながら軽く答える。
「きらら!」「きららさん!!」「き、きららさん!」
他の3人が慌ててきららを咎めるようにきららに詰め寄る。
「かまいませんよ。知らない中でもありませんし、みなさんもそんなに畏まらないでください。」
ユーリの言葉に3人は安堵の表情を浮かべるとお辞儀をする。
「早速ですが、先日の件を聞かせてもらえますか。」
「はい。」
ユーリの言葉にさやが答える。
「私達のライブ中に突如巨大な怪物が現れました。しかし、その時防衛システムは作動せず、携帯電話などの外部との通信手段も妨害されており通報等ができずに私達で怪物と戦闘になりました。」
他の3人も黙ってうなずく。
「世間にはその後に駆けつけた討伐隊と合同で怪物を討伐したことになっていますが・・・・事実は異なります。」
ユーリはここで話を止めると4人を一人ひとり見つめる。
すると今度はエリナが口を開く。
「はい、本当は討伐隊が来た時には怪物はすで討伐した後です。正確には謎の人物に討伐された後ということですわ。」
エリナとさやの顔が少し曇る。
「気を落とすことはありません。それで、その謎の人物に心当たりはありますか?」
「「いえ、ありません。」」
エリナとさやが同時に答える。
ユーリは2人を見つめうなずくと、他の2人に顔を向ける。
「あなた達はどうですか?」
「あ、ありません。」
「ありませ~ん。」
「その謎の人物・・・・Xとしましょう。Xは魔道師だと報告に上がっています。そこに間違いはありませんか?」
「「「「はい。」」」」
4人は同時に返事をする。
「どうでしょうか? Xの魔道師の実力をあなた達はどの程度に感じましたか?」
「かなりの使い手だとおもいますよぉ~? 見たことない魔法で怪物を吹っ飛ばしてましたし~。」
きららに続き美緒も答える。
「わ、私もそう思います。<飛行>の速度も私では全然追いつけないほどでした。」
「なるほど、2人がそう言うのですから相当な魔道師だということですか。」
「ん~、それに・・・・。」
少し難しい顔するきららをユーリは見逃さなかった。
「それに? 何か引っかかることがあるのですか?」
ユーリの質問にきららが悩みながら答える。
「いやぁ~なんとなくなんですけど~Xさんは実験をしているみたいな感じがしました。」
「わ、私は実験かどうかはわかりませんが、Xさんには余裕がありました。恐らくまだ力を隠している可能性があると思います。」
きららとみおにエリナが少し慌てた様子で質問する。
「あ、あれほどの魔法を使って、なおかつまだ力を隠しているとなるとX自体もとんでもない怪物だということですの!?」
「ん~、はっきりとはわからないけど・・・・”個人戦艦”とかと同じくらいじゃないかなぁ~」
きららの発言にエリナは驚きを隠せない。
「あの”個人戦艦”と同じ!? それは少々飛躍しすぎではありませんこと?」
他の2人も驚いた表情できららを見つめる。
そんな4人とは逆にユーリは相変わらず落ち着いている。
「”個人戦艦”と同等ということは他の2人にも匹敵する力を持っているということですか。」
「ユーリ様、たしかにXは強いと思いますがあの3人に匹敵するというのは少し・・・・。」
さやがユーリを恐る恐る見つめながら言う。
「たしかに情報が少ないなかで判断するのは早すぎるとも思います。しかしきららは実際に”個人戦艦”の闘いを見たことがあります。それにこういう時のきらら直観には私も一目置いています。思い過ごしならばそれで良いですが、もしそれほどの力を有しているのならば大変危険な相手です。」
「む~、「こういう時の」っていういのは少し気になるけど~・・・・今回はちょっと自信があるよぉ。」
「私は信じていますよ、きらら。」
ユーリの言葉にきららの頬が緩む。
「この件は他言無用でお願いします。今日はもう帰っていいでしょう。みなさんも十分に休息を取ってください。無理は禁物ですから。」
「ユーリ様、少しお願いがあります。」
先ほどまでとは違い、さやが強い眼差しでユーリを見つめる。
さやだけではない、他の3人の目にも強い決意のようなものが感じとれる。
きららでさい先ほどのフワフワした感じがしない。
「なんでしょう?」
さやは深呼吸をする。
「私達に稽古をしてはいただけないでしょうか!」
「稽古ですか・・・・、なぜです?」
ユーリの問いかけにエリナとみおも答える。
「私達は今回の戦闘で自分たちの非力さを痛感いたしましたわ。」
「こ、このままだと大切なファンのみなさんやスタッフの方たちを守れないです。」
「だからぁ~ユーリ様に特訓してもらえないかなぁ~って」
4人は強くユーリを見つめる。
「・・・・・・」
時間にすれば数秒だが4人にとってはとても長い時間に感じる沈黙が続いた。
「いいでしょう。」
ユーリの顔が少し微笑んだように見えた。
「やった~!!!!」っと4人が飛び跳ねようとした時ー
「ただし、これまでと同じようにアイドル業も続けることが条件です。」
「「「「はい! ありがとうございます!」」」」
4人は同時に頭を下げる。
ユーリは少し肩を力をぬく。
「さて、私はまだやることがあるので今日はこれで終わりにしましょう。みなさんも明日にはテレビ出演等があるので明日に備えてください。」
「わかりました、これで失礼します。」
4人が帰り、部屋にはユーリ1人だけになる。
ユーリは机の上にある電話に手をのばし電話をかけた。
「もしもし、私です。えぇ・・・・私はこれから本部へ向かいます。そして”8英星”のみなさんを召集しておいて下さい。私の名前を出してもかまいません。」
電話を切るとユーリは立ち上がり部屋を後にする。