26 スウィーツプリンセス(4)
会場はパニック状態だ。
舞台では怪物の方へ向かう2人と別方向に走る1人、そして舞台上で避難をよびかける1人とバタバタしてる多数のスタッフであちらも大変そうだ。
「それにしてもデカいな、外界で見たトカゲより全然デカい。」
周囲の絶叫しながら後ろへ走る観客をよそに一神斎は1人怪物を見つめる。
友人のタクマは先に避難するように促して走らせてある。
一神斎はポケットからスマホを取り出す。
「ん? 起動しない。故障か?」
舞台を見ると残った女の子と警備員らしき人間もスマホを見て首をかしげ、警備員が舞台袖へ走る。
どうやら自分の携帯が故障しているわけではないらしい。
「防衛システムが作動していないようだし・・・・あの怪物が妨害しているのか?」
面倒なことになった。
正直アイドルや周囲の人間はどうでも良いがタクマは別だ。
「タクマを避難させたのは失敗だったな。」
タクマは一神斎の力を知らない、<転移>の魔法を使うわけにはいかないので先に避難させたが早計だったようだ。
「気を失わさせて転移すれば後は何とでもいえたな。」
もうどこにタクマがいるかわからない。
魔法で探すことはできるがそのためには杖を出さなければならないし、目立ってしまう。
「タクマと転移するのも目立つから同じ結果になるか。」
舞台の方を見ると怪物は少し離れた場所にいる。
2人のアイドルが観客とは反対方向に誘導しているようだ。
「うまいことやるなぁ。」
怪物の周りを左右上下に動いて翻弄している。
「ただ、魔法攻撃はあまり効果がないみたいだな、耐性でもあるのか?」
一神斎が2人の動きに感心していると舞台に金髪の子が武器を抱えて戻ってきた。
2人で何か話をし、こちら側を見ると金髪の子は怪物の方へ疾風のごとく走っていく。
「速いな・・・・スキルも使えるのか。」
「み、みなさん早く非難してください! いつ怪物がこちらに来てもおかしくないですから!」
舞台では女の子が怪物の動向を確認しながら避難勧告をだしている。
「「お、俺たちもここに残って応援するぜ!!」」
一部のファンがその場に留まり怪物と戦っているアイドルに声援を送る。
それを見ながら一神斎はイラつきを覚える。
「おいおい、結構遠くとはいえ怪物がこっちに来たらどうすんだよ。お前らは死んでも問題はないけどタクマに被害がでたらどうすんだよ。」
こういう奴らが一番性質が悪い。
お前らに応援されたくらいでどうにかなるならもう終わってるよ。
”金剛神豪”のおかげで遠くにいる怪物と女の子との戦闘がよく見える。
怪物が鈍重なのでどうにかなっているみたいだけど、ダメージは全く与えられていないようだ。
「このままじゃジリ貧だな。」
相変わらずスマホの画面は暗いままだ。
討伐隊に通報もできない。
「おっ、向こうは何か仕掛けるみたいだな。」
遠くで怪物に攻撃を仕掛ける3人が見える。
「うまい! すごいチームワークだ! これは参考になる。」
一神斎は唸りを上げる。
まさにチームワークという言葉がピッタリの息の合った攻撃だった。
だが怪物にダメージはない。
「タフだなぁ。あの体の大きさだ、しょうがないな。」
一神斎はポケットに手を入れる。
ポケットの中で”無限の保管庫”に手を入れる。
周囲の人間に見られないようにするのにポケットの中で”無限の保管庫”を発動できるのは非常にありがたい。
更に”無限の保管庫”の中で一神斎は”至高の47”の1つの”杖”を出す。
これならば周囲の人に杖を見られることなく魔法を使うことができる。
<道端の石ころ>
これで誰も自分に気を留めない。
この魔法は気配を消す魔法だが少し他の魔法とは異なる。
気配を消す魔法ではあるがこれはまさに”道端の石ころ”のようになる魔法だ。
自分が何かしても周囲の人間は気に留めない、まるで道端の石ころが人知れず転がったように人は自分をきにしない。
不良を街中の実験で大声で走らせてみたが誰も気に留めなかったほどだ。
<転移>
一神斎は舞台横の控室の前へ転移する。
「とりあえず服を変えて身元がばれない様にしないとな。」
”霓裳婉美”を自分の思い描いた服装に変更する。
”黒を基調とし銀色のデザインが施された足首近くまである重厚なローブ”
”両肩に黒と銀それぞれ光沢のある肩鎧”
”黒と銀のブーツ”
”手には黒い手袋”
”黒と赤で顔全体を覆っている仮面”
正直かなり奇抜な格好だ。
しかし奇抜さには狙いがある。
普段の一神斎は少しゴツイがごく一般的な服装だ。
ならば自分とは程遠い、内の世界では一般人が見ないような奇抜な服装にすることで一般人ではないという印象を与え自分への疑いを最初からなくす作戦だ。
それに内の世界にもこういった奇抜なヒーローもいるのだからギルド組合の人間やヒーローだと思わせることもできる。
<透明化>などの魔法もあるが魔法を見抜かれる可能性があるいっそのこと別人を演じた方がいい。
これは”人食い あけみ”との一件以来考えに考えた結果だ。
相手が雑魚ならば問題はないだろうが、あまりこちらが消極的にこそこそした闘い方ばかりしていてはいずれ足元をすくわれる。
ならば全力で戦えるようにしたほうがよい、もちろん顔はもちろん声も変えるがな。
着ぐるみでもよかったが・・・・・・そこはカッコイイのが良い!
仮面は”真理の錬金釜”で作った魔法の仮面だ。
余程のことがない限り外れないし、声を変えることもできるうえに視界はまるで仮面をつけていなかのようだ。
漫画やアニメのようにバレバレの変装で登場しても気づかれないなんてことは現実ではありえない。
ましてや声もそのままなんてありえない話だ普通バレルに決まっている。
「さてと行くか。」
手袋の中の両手に嵌めている10個の指輪は全て”魔法の指輪”だ。
今回も”魔法の指輪”で闘う。
杖を見られたくない。
<飛行>
一神斎は怪物の方へ飛んでいく。
「あ、あれは・・・・? みんなの方へ飛んでいく!? わ、私もみんなのほうへ行かなくちゃ!」
みおは警備スタッフにまだ留まっているファンを強制避難させるようにお願いすると自身も飛行の魔法で怪物の元へ向かう。
「お~お~、2人共派手に吹っ飛ばされたな。怪物も近くにいるしここから攻撃するしか間に合わないな。」
怪物は地面にいる2人に巨大な手を振り下ろそうとしている。
一神斎は怪物に向かって片手を突き出し魔法を発動させる。
<突風の大砲>
轟音と共に<|突風の大砲(ゲイル・キャノン>が怪物にヒットする。
怪物は衝撃で吹っ飛び少し離れた場所で地面に叩きつけられる。
「ほほぉぉ! これは気持ちいいな! カッコイイ魔法だ! 」
一神斎は地面に倒れている2人に気づき声をかけることにした。
「お~大丈夫そうだな。」
2人は驚いたようでこちらに振り向き目を見開いている。
同じく一神斎も少し驚く。
2人は美少女だった。
もちろんテレビでも見たし、先ほどまで舞台で歌い踊る2人を見ていたが間近で見るとその本物の可愛いさに驚き思わず口にだしてしまう。
「間近で見るとかなり可愛いな。」
「「は?」」
2人は混乱していた。
あまりにも驚愕のことが起こり過ぎて処理が追いつかない。
まず自分たちが戦っていた怪物が離れた位置でうめき声をあげ四つん這いになっていること。
自分たちの目の前に突如現れた禍々しい格好と雰囲気の者。
そしてその禍々しい者の口から絶対に発せられないであろう言葉に。
2人はまだ目を見開いたまま一神斎を見つめていたが突如飛び起きて武器を構える。
「えっ?」
一神斎は助けたのにも関わらず自分に武器を向けられたことに驚く。