22 トレーニングは闘技場で(2)
とりあえずダルトの大剣を持ってくる。
普通のロングソートや刀でも良かったのだが外界で使用するのは大剣だ。
ならばまずは大剣で訓練するのが良いだろう。
「大剣なのだが、大丈夫か?」
「あっしは問題ありませんよ。あっしの剣も大剣みたいなもんですから。」
「コチラモ問題アリマセン。」
一神斎とゴブリン将軍のグンが対峙する。
それを少し離れたところで地獄の守護隊長アトラノムが二人を見ている。
「先に言っておくが、俺は戦闘はど素人だ。身体能力だけでこれまで戦ってきたからな。」
「へい! あっしも気づいたことは隠さずお伝えします。」
「ココロエテオリマス。」
グンには<物理攻撃無効Ⅴ>などの防御魔法の類を一通り掛けている。
一神斎も”霓裳エンビ”を着ているので問題はない。
”金剛神豪”も装備しているが力加減ができるしお互いの身体能力をほぼ互角にするように魔法も色々かけてある。
それに2人とも大して魔法効果のない武器なのでダメージを与えることはできないだろう。
「いつでもいいですぜ、こういう時は旦那から好きなように責めてくだせぇ。」
グンの顔つきが変わる。
「わかった、いくぞ?」
と言ってみるもののグンの表情が少し怖い。
一神斎は一直線にグン目掛け走り、剣を振りかぶりグンへと振り下ろす。
グンは剣を受けずに横に飛び回避、そしてすぐに斬りこんでくる。
一神斎は剣でガードし、押し返す。
グンは後退するも体制は崩さずに左右へとびフェイトをかけ斬りこむ。
一神斎は何とかガードしもう一度力で押し返すと今度は一神斎から間髪入れずに斬りこむ。
一神斎は連続で斬りこむ。ガードごと壊そうと剣を振り続ける。
だがグンは体制を崩すことなく一神斎の連撃を受け流す。
「・・・・・・・・・・・・」
アトラノムは黙って一神斎の動きを観察する。
2人の剣がぶつかり、金属音が周囲に響くと2人は距離をとり静止する。
「うむ、こんなもんか。」
「ええ、ここいらで一度休憩しますか。」
「ソレガヨロシイカト。」
一神斎とグンはアトラノムの方へ歩く。
「どうだろうか? 率直な意見が欲しい。」
一神斎が2人に問いかける。
「まずあっしが感じたのは、旦那は斬るというより叩くといった感じでした。大剣なので叩き切るというのは当たり前ですが旦那の場合は剣でガードしているその上から体重をかけて押し込んでくることが多かったです。」
グンに続いてアトラノムも口をひらく。
「自分ガ相手ヨリモ体格や体重ガ上ナラバ有効な手デスガ、自分以上ノ者ニハ通用シマセン。」
「なるほど。」
「ソシテ主は相手ノ動キヲ1ツ1ツ全テ目デ確認シテカラ動イテオリマスノデ、通常ヨリモ攻撃ガ半歩遅レマス。」
「だからグンに攻撃を全て防がれたのか。」
「あっしも必死でしたけどね。」
「コレバカリハ経験ヲ積ムシカアリマセンガ、1ツノ箇所デハナク全体をミルヨウニ心ガケテクダサイ。」
なるほど、格闘漫画なんかでよく聞くセリフだ。
なんだっけ? 観の目っていったか?
「そうですね、あっしらゴブリンは複数でせめるのが定石なのでそういった敵の場合は周囲にも気を配りながら戦わなければなりません。」
「目ノ前ノ敵ニ集中シツツ周囲モ警戒スル、命ノ奪イアイニナレバ当然ノコトニナリマス。」
「視野を広く持ち、聴覚などの五感をフルに使えというわけか。」
「ソノ通リデス。」
「まるで漫画だな・・・・言うは易く行うは難しだな。」
「では、お次は旦那とアトラノム殿ですな。」
「えっ?」
まだやるの? と一神斎が思った瞬間。
「主、遠慮ハイリマセン。」
アトラノムが剣を構えていた。
「・・・・・・」
休憩したいとは言い出せない空気になり一神斎もしぶしぶ構える。
「はぁ。」
「う~む」
アトラノムとの稽古が終わった一神斎は不満げだった。
「何もできなかった。」
一人考え込む一神斎に対しアトラノムが口を開く。
「技量ノ差がアルノデスカラ当然ノ結果デス。」
「そうなんだけど・・・・・・」
その通り、技量がまるで違う。
グンと違いアトラノムには何もさせてもらえなかった。
打ち合いができなかった。
一神斎の剣は空を切るか、全て受け流され地面を叩くだけだった。
「こればっかりはあっしもアドバイスできませんね。あっしでも同じ結果になっていたでしょうから。」
グンも苦笑いをしている。
「ここまで差があると闘いようがないな、一朝一夕で身につくものでもないだろうし。」
「難しいでしょうね、あっしも人のことは言えませんが才能の違いもあるでしょうし。」
「鍛錬ノミトハイイマセン、少ナカラズ才能モ必要デス。」
一神斎は意を決して二人に問いかける。
「正直どうだろうか、二人からして俺には剣の才能があるだろうか。」
真剣な顔で2人を見つめる。
「ないと思いますぜ」 「ナイトオ見受ケシマス」
二人同時に答える。
膝から崩れ落ちそうだ。
内心期待していたのだが現実はこんなものだ。
凡人はつらいものだ。
「はぁ・・・・・・わかっていたがつらいな。」
「こればっかりはしょうがありませんぜ、無駄とは言いませんがアトラノム殿の領域には行けそうもありませんぜ。あっしもですが。」
直球すぎるだろう。
ショックを受けている様子の一神斎にアトラノムが声をかける。
「デスガ無駄ニハナラナイト思イマス。」
「ん?どういうことだ、アトラノム。」
「鍛錬ヲスレバアル程度ノ領域ニイケルデショウ。ソレニ剣術ヲ身ニツケレバ剣士ガ相手ノ場合ニ非常ニ役ニ立ツカト。」
たしかに、相手を知るのは重要なことだ。
「そうですぜ、旦那には魔法もあるじゃないですか。無理に不得意な闘い方をする必要はありませんぜ? もしあっしがアトラノム殿のような相手と闘うなら部下と一斉に飛びかかるか、魔法攻撃で徐々に体力を奪いながら闘いますぜ。」
「要は戦法か。」
一神斎の言葉にアトラノムが静かに頷く。
「ソウデス。一対一デ勝テナイノナラバ、一対多デ挑メバヨロシイノデス。」
「う~む、確かに俺は剣士でも騎士でもないからな・・・・」
「あっしらゴブリンにも誇りはありますが、結局は命が一番大事ですからね。双方了承の上での一騎打ちならまだしも、戦闘や戦争に反則はないですから。」
たしかに死んでしまえば誇りもクソもないとわかってはいるが漫画やアニメだと卑怯者呼ばわりされるじゃん。
ーとは言えない。
目の前の二人は漫画なんて読まないだろうし・・・・正直どうでも良くなってきた。
(そうだな、俺剣士じゃねぇし。社会人だし。彼女いないし。)
「2人の言う通りだな、無理に1人で闘う必要はないな。だが護身用に剣を含めた武器の稽古は今後も頼む。」
「へい! わかりやした。」
「オ任セクダサイ。」
今日はこのへんでいいだろう。
明日は仕事だ、”金剛神豪”、”霓裳愕衣”の効果で披露は感じないが気持ちの問題だ。
グンとアトラノムを帰還させると一神斎は”転移”の魔法を使い草原に降り立つ。
「あぁ~腹減った! とりあえず焼肉だ!」
ここは”孤黒の宮殿”の一室だ。
見渡す限りの草原、宮殿の中とは思えない。
ここは一神斎お気に入りの場所の1つ、気候も丁度よく過ごしやすい。
ここではよく1人焼肉をする。
誰の目も気にせずに1人なので自分のペースで好きなように食べれる。
道具や食材は”無限の保管庫”から取り出す。
一神斎が手を伸ばすと何もない空間に手が入る。
他の人が見ると手首から先が消えているように見える。
”至高の47”の1つ、”無限の保管庫”。
読んで字のごとしだ。
しかしただ道具を無限に保管するだけではなく、入れた物をその物にとって最高の状態で保管、保存してくれる便利なものだ。
冷凍品なら冷凍のまま、熱いものならば熱いまま保管することができる。
食材に関してはいえば入れた時に時間が止まるので永久保存ができる。
ただし生き物は入れることができない。
一神斎は”無限の保管庫”から七輪等の焼肉セットを取り出してさっそく焼肉を始める。
「とりあえずタン塩からだよなぁ~、おにぎりは塩にぎりだな。」
周囲に肉が焼ける良い臭いが漂う。
「いただきま~す!」
この日の鍛錬1時間。
焼肉の時間2時間30分。