1 「トイレ」
暇な時、みなさんは何をして過ごしますか?
一人ではなく、友達・・・親友と遊ぶ時はどこで、どんな遊びをしますか?
「まじか?」
「あぁ、清楚な先輩だと思ったんだけどな世の中わからんものだな。」
「女子がいるだけいいじゃねぇか、俺のとこなんて男しかいないんだぜ?」
「たしかに、女子の匂いで男臭さはかき消されるわな。」
「男でも香水はつけるぜ!汗臭い昨日のあなたにさようならってやつだ。」
「消臭剤の間違いだろ?」
「トイレとでも言いたいのか!」
「あははは、俺の家のトイレの方が良い臭いだがな。」
「くそったれぇ!」
などとくだらない話をしているのは中学時代からの親友の「ショウ」だ。
そしてここは自宅から車で10分程のところにあるショッピングモールだ。
「しかし、俺らも24歳になったというのに明るい話がないな。」
「また金か?ゲームの買いすぎだ。」
「ちげーよ!彼女だよ!か・の・じょ!」
「彼氏の間違いだろ?」
「なんでやねん!」
「男職場だし。」
「やめろ!考えたくない!」
「ショウ君、ボク・・・君のことが・・・」
「ぐあぁ!やめてくれ~!!」
「ははははは。」
平日の夜、週に3~4回。晩御飯を食べた後に集まり、車でショッピングモールに向かい店内をウロウロする・・・ただそれだけ。何をするわけでもなく、何か買うわけでもない。ウロウロし、ただ馬鹿話をするだけである。
これを遊びと言っていいのかわからない、だがこれが俺たちの遊びだった。
「最近何か面白いゲームない?」
ショウが話題を変える。
「・・・あれは?ブルンブリンファンタジックⅩは?」
「あぁ・・・いまいちだった。」
「そうなの?今すごい話題になってんじゃん。」
「疲れるんだよ・・・・・・」
「あぁ・・・仮想現実型ゲームはしょうがないよな。」
「それにオンラインだからコミュニケーションがめんどい。」
「それにプレイルームがゴミだらけでたいへ・・・」
「それはお前が原因だ。」
すごい時代になったものだ。この時代のゲームは一畳程のプレイルームに入り、専用のヘルメットを装着し実際に体を動かす。まるで現実にいるようなクオリティの映像でプレイできる。値段も手頃でプレイルーム一台で約一万円だ。
「実働モードでプレイするのをやめればいいじゃん。」
「それだと楽しくないじゃん☆」
もちろんコントローラでプレイすることも可能である。
「でももうゲームも出尽くした感があるよな。」
「あぁ、実際にモンスターがいるからな。まだ見たことはないが。」
「でもこの前近くのコンビニの前に現れたんだろ?最下級のスケルトンだけど。」
「あぁ、でも俺らじゃ敵わないけどな。」
「だよな、絶対に出合いたくないな。」
「でもすぐにどこぞのギルドの戦士が倒したらしいけどな。しかも立ち読みしてたエロ本を持ちながらな。」
「ぶはっ、マジかよ!」
「たまたまコンビニで立ち読みしてたらしいぜ。でもスケルトンも防衛システムで身動きが取れない状態だったらしいがな。」
「防衛システムもすげぇよな。去年なんて魔科学先進国でモンスターによる死者が二人しか出なかったらしいしな。」
魔科学とは魔法と科学がを合わせた学問である。魔科学先進国とはそのままの意味である。魔法と科学を合わせ最も国として経済発展した国のことである。
今の時代、基本的に魔科学を用いている国は五万とある。しかし、国よっては非魔法的な国、非科学的な国もある。
「あぁ、その二人も素人のくせに遊び半分でモンスターに闘いを挑んだ一般人だったしな。」
「能力を持たない・・・覚醒しない・・・魔法が使えない一般人はつらいねぇ~。」
「国際政府」が出来たのは約600年前、当時モンスターの出現率は現在より低かった。
しかし、モンスターに襲われ命を落とす者が後を断たなかった。理由は簡単、現在のような防衛システムやギルドが確立されていなかったのである。
「俺らもそうだろうが。」
「だね~。」
「だけどまぁ・・・」
「ん?」
一神斎が面倒くさいそうな顔でつぶやく。
「能力や魔法があったとしても俺は闘いたくない。」
そう、モンスターと戦闘なんて御免だ。もちろん俺も漫画やアニメ、現実のギルドのヒーローなどに憧れたこともある。
「でも中学時代に見た「グランドゼルガのガナド・バーグ」はカッコ良かったじゃん!なれるもんなら・・・」
「あれも化物みたいなもん・・・」
今までは人目を気にせずに話をしていたショウが周囲を気にしながら小声で忠告のように一神斎に言う。
「おいおい、誰かに聞かれたらまずいって・・・」
「おぉ、悪い口が滑った。」
別に悪口を言ったということで逮捕されるわけではない。
芸能人のゴシップネタをどうこう言うのと同じ程度のことだ。
しかし、それが有名ギルドの有名人。それも英雄級の者ならば話は別だ。
有名ギルドともなるとファンクラブはもちろん信者までいるものだ。それに自分達は税金という形で間接的に報酬を支払っているとはいえ命がけ(?)で助け貰っている立場だ。
特に能力や力を持たない人間からすれば憧れの存在だ。自分が憧れているギルドの話になり白熱・・・ひどい時は暴力沙汰になってしまう時もある。自分達の通っている学園でもそういう喧嘩が起こることもある。
それらを踏まえ先ほどの一神斎の発言は少々危険な発言だった。周りに信者でもいようものなら暴力沙汰までいかなくとも詰め寄られる可能性があったからだ。
「はぁ・・・、ネットでも毎日・・・いや毎分毎秒のように論争が起きてるからな。そんなやつがこの場にいたらまずかったな。」
「そうなの?俺あんまりネットしないからわかんないけど。」
「あぁ、どこのギルドのどこの誰が最強だとか誰が一番美人とかな。」
「へぇ~おもしろそうだな!ここじゃなんだから俺の家でそれ見ようぜ!」
「たしかにここにいてももうやることないしな。」
「おう!じゃぁ俺の家行こうぜ!」
「待て!ショウ!」
意気揚々と先陣を切って駐車場へ向かうショウに対し一神斎が先ほどとは違う雰囲気で呼び止める。
「まさか・・・」
一神斎の声は普通ではない・・・何か非常事態を告げるような、警告をするような声だ。
(まさか・・・・・・グランドゼルガの信者が・・・)
ショウはゆっくりと一神斎の方へ振り返る。
そこには一神斎が一人で神妙な面もちでこちらを見ている。
「ど、どうしたんだ?」
「ショウ・・・」
ショウの首筋に汗が一滴流れた。
「・・・・・・」
「ゴクリっ」
ショウの喉がなる・・・・・・
「・・・ウンコだ。」
「早く行けバカ!」
トイレ・・・そこは全ての者に平等な場所。そこには癒しを感じる者、苦痛を感じる者もいうだろう。しかしそこにいる白き天使は全てを受け止めてくれる。
「・・・ふぅ。」
(あぶなかった・・・後5秒遅かったら・・・)
消臭剤のフローラルな香り、心を落ち着かせながらも便意を促すクラッシック音楽に包まれながら一神斎は安堵する。
しかし、ずっとここにいても仕方がない。友人をいつまでも待たせる訳にもいかない。店の閉店時間を告げるナウンスも聞こえてくる。
服装を整え、ドアを開けた瞬間・・・・・・。
そこに手洗い場はなかった。
いや、そこはさっきまでいたトイレではなかった。
「・・・・・・・・・んん?」
トイレは白を基調とした清潔感あふれる手洗い場と壁と床、トイレのドアは木目調でどこか心が落ち着くデザインだった・・・。
しかし、一神斎の目に映っているものは前記のものとは異なる景色だった。
見上げるような高い天井、そこにダイヤモンドのような輝きを放ちがらも決してまぶしくない巨大で高級感のあるシャンデリアが一定間隔で並でいる。
床も先ほどまでとは異なり、磨き上げられた大理石。通路は広大で端から端まで歩くのも少し時間が掛るだろう。さらに見る者を魅了するであろう装飾品や調度品が等間隔に飾ってある。
「・・・清掃中だったのか」
振り返り個室へ戻ろうとする・・・が振り返るとそこにも先ほど見た光景がある。
「・・・手を・・・洗いたい。」
魔法による新しいサービスなのだろう。しかし、トイレくらい普通にさせてほしいものだ。というか手を洗うタイミングでこれではただの嫌がらせである。
「・・・お?奥に扉があるな。」
広大な廊下をキョロキョロしていると奥の方に扉が見える。このままここで立ち止まっていても仕方がない。せっかくだしこの新サービスを満喫するのも悪くないだろう。
「しかし遠いな・・・お~いショウ?どこだ~?」
静かなだけあって声がよく響く。流れていた音楽も聞こえない。ここで一神斎は初めて自分の置かれている異常な状況に気付く。
仮にこれが魔法による新感覚のサービスだとしよう。しかし、それをトイレでやるだろうか?やったとしても便器や個室がないのはおかしい。それにこの広大な通路。魔法が使えない一神斎では断言できないがこれほどの魔法を使ってまでやるサービスではないだろう。たしかにすごい光景だがこれを維持するための魔力は相当なものでないだろうかと一神斎は考えた。
ならばこれは魔法による幻術などではなく、どこかに飛ばされたのではないだろうか。
一神斎の頬を一滴の汗が流れ落ちる。
これはかなり危険な状況だ。
どこかに転送されたのならばそれは店ではなく第三者、もしくはモンスターの仕業である可能性が高いからだ。ショウは魔法が使えない。それに転送魔法など認可を受けていない者が一般人に行うのは犯罪行為だ。それを店が・・・一企業が行ったとなれば大問題だ。ヘタをすれば倒産だってありえる。
そうなればもう明らかに自分を対象としイタズラや危害を加えるつもりでここに転送したと考えるのが妥当なのである。現に神隠しのような事件は何度もニュースで見たことがある。
(まさかあの場にグランドゼルガ信者がいたのか?それともモンスターの仕業!?)
一神斎は身構え周囲を改めて確認する。とても静かだ、ドクンドクンと自分の心臓が激しく動いているのがわかる。自分の心音がこれほど大きいものだったのかと疑問に思うほどだ。
身構えたまま1分ほど時間が経った。何も起きない。物音一つしない。しかし先ほどよりは気持ちは少し落ち着いた。
「・・・・・・・・・・・・行くしかないか・・・。」
一神斎は勇敢なタイプではない。どちらかと言えば臆病な方だ。石橋を叩いて渡るどころか石橋を叩いて渡らないこともある。なのに性格は大雑把である。神経質なところもあるのに大体のことは雑である。それはたまに周囲の人を驚かせるほど。
このままここで佇んでいてもしょうがない。後ろは先が見えないほど距離、携帯電話も圏外。ならば前にある扉を目指すことにした。というかもう考えるのが面倒くさくなったのだ。
「・・・しかしまぁ。」
落ち着いて見るとすごい場所だ。まるで宮殿のようだ。それもかなり大規模な。
(ここは廊下なんだろうけど・・・)
先ほどいたショッピングモールなど話にならないほどの広大な建物なのだろうと思う。現在自分が歩いている廊下が既に広大だ、いや広大すぎる。
さきほどまで不安はどこにいったのだろうか。自分の歩く音しかしない。だがここは映画や漫画で見たような場所だ。まるで自分が一国一城の主にでもなったかのよう気分だ。これで後ろにお供で連れていればさぞ気持ちのいいことだろう。
だがそれも扉の前に到着すると先ほどの不安がまた顔を出す。
「・・・こえ~」
両開きの扉を見つめる。片方は重厚で光沢のある黒い扉。片方は神々しい白の扉。廊下に並べてある調度品もそうだが、扉も一般人である一神斎が今まで見たこともないほど美しいものだ。高級品などどいう言葉では効かないほどのものだと一神斎でもわかる。
「魔王でも出てくるんじゃないだろうな・・・」
一神斎は恐る恐る扉を開けようと手を伸ばしたその時、扉が一人で開く。
「なっ!」
一神斎は突然のことに身構える。一神斎に武の心得ない。それなのに拳を握り半身に構えたのは漫画を見ていたためだろう。意味がないとしても身構えずにいられなかった。
扉が半分ほど開いた時、一神斎の身体が引き込まる。
「うぉ!」
すぐに踏ん張ろうとするが今まで味わったことのない力で引き寄せられ、一神斎は扉の中に吸い込まれていった。
今回は少し長めです。
次は少し短いかも。