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18 現実は甘くない(3)

 間違いなく聞いたことがある音だ。

 一神斎の足が止まる。

 気のせいかもしれない、耳を澄ましてみる。

 学校の駐車場から音が聞こえる。

 その時一神斎は昼間テレビで流れていたニュース速報を思い出す。


 ~昨晩の変死体は怪人の仕業である可能性が政府により発表されました。近隣住民に夜間の外出を控えるように警告・・・~

 


 一神斎が思い出している間にも先ほどの音が微かに聞こえてくる。

 (まずいな、この音は外界で聞いたことがある、冒険者がモンスターに襲われ、食われていた時と同じ音)

 音の正体はわからないがこういう時は関わらないほうがいい。

 自分はヒーローでも防衛隊でもないんだ、自宅に帰って通報したほうがいい。

 一神斎は足音を立てないようにこの場を離れようとする。


 「いっちゃん! 助けて!」

 一神斎は驚き振り返る。

 「あ、あけみ・・・・。」

 そこには昼間会った同級生が血まみれになり地を這っている。

 「た、助けて急に変な人が襲ってきて! 彼が私を庇ってまだ奥に!」

 「わかった、あけみはこのことを通報してここから離れていろ。俺が様子を見てくる。」

 「う、うん。気を付けてね!」

 


 一神斎は駐車場へ行く。

 普段の一神斎ならこんな行動はしない。

 危険なことや面倒なことは避けて生きてきた。

 他人が危険な目にあっていたとしても自分にも危険が及びそうなことには絶対に関わらない。

 目の前で助けを求められたとしてもそこに何かしらの危険があるなら平然と無視をする。

 そんな一神斎が今回はなぜ危険であることが明白であることに首を突っ込んだのはなぜか。

 


 最強の武器や防具があるから?

 同級生だった女子の姿を見て助けを懇願されたから?

 外界でモンスター討伐をし自信があるから?

 テレビやネットで見るヒーローに憧れたから?

 違う。

 どれも違う。



 一神斎は周囲に注意を払うことなく歩いて行く。

 すると前方に地面に横たわっている人影が目に入ると同時に血の臭いがする。

 「ほぉ~。」

 そこには昼間あけみと一緒にいたの男の死体があった。

 顔は残っているが上半身はほとんどと残っていない。

 こんなショッキングなものを見ても冷静でいられるのは外界での経験が活きているからだろう。

 「鮎なんかは顔もうまいが、人間はまずいのか。それともお楽しみは最後に残しておく方なのか?」

 ちなみに俺は楽しみは最後に食べるタイプだ。

 嫌いな物は最初に食べても残すようなことはしない。

 作ってもらった人に失礼だからだ。

 だがこの場合は顔を残しているのは感謝しないといけない、顔がなければどこの誰だがわからないし家族の方にも・・・・・・やめておこう。

 


 「で? どっちなんだ?」

 「へぇ~、いっちゃん気づいてたんだぁ~。」

 一神斎が振り返るとそこには不気味な笑みを浮かべたあけみが立っていた。

 「クチャクチャ音たてやがって、あんな音してるのに女一人が現れたたら不自然だろ。それに血はついているが服が全く乱れてない。怪しすぎる。」

 あけみをまっすぐ見つめる。

 外界のモンスターでも比較にならないほど不気味な笑みだ。

 世の中で一番怖いのは人間だという人がいるが、今ならわかる気がする。

 いや、人間の姿形をしたものが怖いということか。

 一神斎がそんなことを考えていると嘲笑気味の声が聞えてくる。



 「どうしたのぉ? もしかして、いっちゃんビビっちゃったの? あはははは! 怖がらなくてもいいよぉ? 同級生のよしみで苦しまずに殺してから食べてあ・げ・る。それに駐車場の防衛システムはもう切ってあるから時間は気にしなくていいしねぇ~。」

 こいつは何回舌なめずりをするんだ? と一神斎は思いながらも質問をする。

 「お前・・・・・・偽物なのか? それともずっと普通の人間を装って生きてきたのか?」

 一神斎が質問に対して歪んだ笑顔であけみは答える。

 「両方間違いかな~、この力に目覚めたのは最近だよ? それから私の人生は開けたの!」

 天を仰ぎ、両手を広げながらクルクル回っている。

 「今まで何をしてもおもしろくなかった、でもこの力に目覚めてからはとても幸せ!幸福感で満たされるの! 特に食べている時は・・・・。」

 その時あけみの身体に衝撃が走り、前に倒れそうになる。 

 


 「・・・・・・え?」

 あけみは自分の身体に刺さっている物を理解するのに少し時間がかかった。

 「敵に背を向けてんじゃねえよ。馬鹿だろお前。」

 あけみの身体には大きな氷柱が二本、先が貫通した状態で突き刺さっていた。そして一神斎はこちらに手を広げて片手を突き出している。

 「がはぁ!」

 あけみが血を吐きながら崩れ落ちる。 

 「なん・・・・え・・・・・・?」

 あけみはまだ状況が理解できないでいた。

 そんなあけみに対し、一神斎は顔色を変えずに手のひらをあけみに向ける。

 「”氷の棘アイス・ニードル”」

 一神斎の手のひらに小さな魔法陣が現れ氷柱が発射される。

 


 「かっ!!!」

 氷柱はあけみの頭に突き刺さり血しぶきをあげる。

 「ふむ、”魔法の指輪マジック・リング”の発動に問題はないな。これからダルトでも魔法は使えるようになるな。」

 一神斎は自分の各指にはめてある指輪を見る。

 一神斎のはめている指輪は”魔法の指輪マジック・リング”というアイテムだ。

 「これは使えるな、”巻物スクロール”や”短杖ワンド”のように取り出す必要もないし、嵩張らない。ただ、籠手をつけても使用できるか試してみないとな・・・・っと、それどころじゃないな。」

 あけみは動く気配がない。

 一神斎は男の死体を見ると転がっている腕にあるものを発見する。

 「このワッペン・・・・・・討伐隊のものか?」

 

 討伐隊

 ~防衛隊と同じく政府直轄の軍隊。防衛隊のように守りに特化した部隊ではなく、その名の通り討伐専門の部隊である。街にモンスター等が出現した場合、防衛隊は市民の避難や守護を主に動くが討伐隊はモンスターの排除に動く攻撃部隊であり、討伐隊は私服で街中をパトロールすることもある。~



 (まさかあけみに目を付けていて返り討ちに・・・・・・いやちがうな、昼間に俺とあけみが話をしている時の雰囲気は少し嫉妬めいたものがあった。)

 討伐隊の人間が付き合っていたものが化け物でそれに食われるなんて女の見る目がなかったのだろうが、皮肉なもんだな。



 「・・・・・・・・・・・・」

 (ぐぅ・・・くっ・・・・・・・まだ動ける・・・)

変な気候が続きますね~。

 

仕事が忙しく更新が遅れることがあるかもしれませんが、できる限り毎日更新していきたいと考えております。


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