17 現実は甘くない(2)
それにダルトの顔は一神斎の顔に似せてあるので隠すことにしたのだ。
逆に目立つ気もしたがそこは気分転換も兼ねて思い切って購入。
そして購入したフルプレート”真理の錬金釜”に入れ自分好みのデザインに変更した。
恐らく内の世界の一般人が見たらこう言うだろう。
「中二病」
黒を基調とし、ところどころに紫の模様があり、ヘルムにはこめかみの辺りから斜めに伸びた赤色の角が二本。
初めてみた時は興奮したが装備してみると少し冷静になり恥ずかしくなる。
小一時間悩んだあげく装備した状態で外界に行った結果、周囲の反応は普通だった。
外界にも派手なやつはいるらしくあまり珍しがられなかった。
ランクもEからBへ一気に昇格し、”黒き両断の戦士”という異名までつけられていた。
正直不満だ・・・・もっと良い異名はなかったのかと思った。
そしてめちゃくちゃ恥ずかしい。
街を歩いていると、「く、黒き両断の戦士様ダルト様ですか?」と声を掛けられることがあるのだ。
「はい、そうです。」が恥ずかしくてたまらない。
その昔オンラインゲームで一神斎が運営していたギルド”ほのぼのパラダイス”という農業や牧場経営、拠点のデザインなどの戦闘以外を楽しむためのギルドが一神斎不在の時に”バンデッド”と呼ばれる強奪ギルドの襲撃を受け拠点が荒らされたことがあった。
その有様を見た一神斎は激怒し自身の持つ全てを使用し”バンデッド”の拠点を単身で襲撃、瀕死になりながらも全てを滅ぼし破壊した。
このことはすぐにゲーム内で広がり、一神斎のキャラクター”プリン16”は一躍有名になり”狂気の暴走スイーツ破壊神”という長く変な異名がつけられた。
そのときの気持ちと同じ気持ちになった。
漫画やアニメのようにカッコイイ異名はつかないものだ。
ともあれ、めでたくB級になったダルトは今まで以上のクエストが受注できるようになったのだ。
そこから一神斎はクエストをこなし、また魔具の実験も再開した。
週3日は普段の製造業の仕事をする。休日の3~4日はダルトとして外界でクエストをこなす日々を続けた。
しかし、それも長くは続かなかったのだ。
ある日一神斎は気づいた。
「これって週七日労働してるんじゃね?」
いつか書いたこともあったが冒険者というものは夢がない職業だということを一神斎は思い出した。
外界での冒険者のほとんどはモンスター狩を主な仕事としている。
これは国からしても自軍の兵を使わずに済むので大変ありがたいものなのだ。
もちろんダンジョンや遺跡を探索するトレジャーハンターのような者もいるが、大半はそのようなことはせずに組合から斡旋された仕事をこなして酒を飲んで寝るという生活をしているものがほとんどだ。
一神斎はその日暮らしだと感じた。
金を稼ぐ手段としては悪くはないが、一神斎は別段金に困っていないのでクエストを日々こなす必要はない。
しかも一神斎には最強の武器や防具、魔具等をすでに持っているのでトレジャーハントする理由もあまりないのだ。
そうするとわざわざ休日に労働などしなくてもいいのではと思い始めたのだ。
外界での活動時間は段々減少し、現在はもう外界にすら行っていない。
ホムンクルスもRPRの中で放置しっぱなしだ。
「ん?」
テレビにニュース速報のテロップが表示される。
~昨晩の変死体は怪人の仕業である可能性が政府により発表されました。近隣住民に夜間の外出を控えるように警告・・・・・・・・~
「結構近くだな・・・・また怪人か・・・・モンスターより最近は怪人が多くなったな。」
最近内の世界では”怪人”なる者が出現している。
モンスターと異なり人間から変異したものや能力による殺人等の犯罪を犯す者の総称である。
内の世界に出現するモンスターは正直大したことはない。
外界とちがい防衛システムや防衛隊の存在があるからだ。
だが怪人には防衛システムがあまり有効ではない。
モンスターが出現する場合は周囲になにかしらの波動や瘴気のようなものが発生し感知される。
だが怪人の出現は感知されないため厄介な存在だ。
そのために防衛隊やギルドのヒーロー達はパトロールをしている。
「あまり夜遅くまで出歩くのはよして早めに帰宅することにするか。日用品も買いに行かないといけないし。」
正直いえば一神斎が所有する武器等があれば怪人などどうとでもなるだろうが、戦闘は避けるに越したことはない。
一神斎はいつも通りの服装で出かけることにした。
歩いて3分で着く駅前の大型ショッピングモールまで車で行く。
もちろん買い物をするので荷物がある・・・・のと歩いて行くのが面倒臭い。
(とりあえず洗濯用洗剤と柔軟剤・・・ティッシュが安い!)
食品を買いに来たのについ日用雑貨類も買ってしまう。
「車で来て正解だな。」
両手いっぱいの荷物を見ながら車で来たことを自分で褒める。
「お~い、いっちゃ~ん」
「ん?」
振り返ると一人の女性がこちらに手を振りながら歩いてくる。
「久しぶり~買い物?」
「あさみか、久しぶり」
なんてこった・・・こんな所で同級生の・・・しかも女子と会うなんて。
「えらく買い込んでるね、おつかい?」
「いや一人暮らししてるから買い出しだな。」
「そうかそうか」
か、帰りたい・・・・・・両手にはビニール袋、そしてティッシュまで持ってるのでものすごい恥ずかしい。
「そ、そっちは?デート中?」
横にいる男性に目をやる。
「うん、映画を見に来たんだ~。」
デート中なのに話かけてんじゃねぇよ!
一神斎は心の中で叫ぶ。
(彼氏からものすごい微妙な空気流れてんじゃん!違うよ!?元カレじゃないからね!)
「そ、そうか、仲が良さそうで羨ましいよ。俺は他にも買い物があるからもう行くよ、二人の邪魔したらまずいしね。」
「あ、そうなの?ごめんね、呼び止めたりして。それじゃぁバイバイ!」
「お、おう。」
二人と別れは足早に駐車場へと向かう。
「女子のああいうとこわからんわ。」
ボヤキながら一人寂しく家に帰る。
「もうこんな時間か。」
あの後家に帰り夕飯まで時間があったので録画していたバラエティ番組を見ていたら時間はもう夜の8時を過ぎていた。
「晩飯でも作るか。」
今日のメニューは豚の生姜焼きだ。
米は冷凍があるし、インスタントだがシジミ汁もある。
しかし、ここで重要な物が足りないことに気付く。
「生姜がない・・・」
チューブのものまで切らしている。
「生姜焼きは諦めるか・・・野菜炒め・・・いや・・・」
今日の気分は生姜焼きだ。
「しょうがない、近くのコンビニまで買いに行くか。」
「まじかよ。」
ショッピングモールとは逆方面にあるコンビニがある。
そこも歩いて2分くらいのところだ。
だが、ここのコンビニには生姜チューブが置いてなかった。
「しょうがない、ドッグストアに行くか。」
ショッピングモールも近いが駅を超えなければいけないので面倒だ。
コンビニから歩いて5分もしないところにあるドラッグストアに行くことにする。
「ありがとうございました。」
さすがにドラッグストアには生姜チューブはあった。普通の生姜もあったが他に使うこともないのでチューブにした。トイレットペーパーも安かったのでついでに購入。
「あぁ~、腹へった~。だがこれで豚の生姜焼きができる♪」
トレットペーパーが安かったのでドラッグストアまで来たのは正解だった。
コンビニがある方とは異なる道で帰ることにする。
「また同級生と会うのは御免だ。」
昼間にショッピングモールで会った同級生はこの周辺に住んでいる、ここで会うのは恥ずかしい・・・・トイレットペーパーもあるし。
少し歩くと小学校がある。
「夜の学校って不気味だよなぁ・・・・。」
外界の遺跡や草原でアンデッドやモンスターと幾度も戦ったがそれとは全くことなる恐怖感がある。
歴史の本で見た建物ではなく、最近の学校はオフィスビルのような外見をしている。
中には有名デザイナーが考案した奇抜なものもあるが。
大人なっても夜の学校は怖いものだと考えていると、何かを貪るような不快な咀嚼音が耳に入ってくる。
その音に反応し一神斎の足が止まる。