12 ホムンクルスでの冒険(2)
一神斎はクエスト募集の掲示板を見ながら周囲を伺う。
(それにしてもおっさんばっかり・・・・所詮現実はこんなもんか。何か臭いし。)
外界にも消臭剤のような物はあるがここには置いていないのか、効き目が弱いのかもしれない。
それに冒険者なのだから頻繁に風呂には入らないのだろう。
ダンジョンや遺跡に風呂などもないのだから当然だが・・・・。
それでももう少し体臭などには気を使うべきだと思う。
受付の女性は何も思わないのだろうか。
人とすれ違うたびに臭いのだからたまったもんじゃない。
もはやモチベーションは0に近いがそれでも最初はこんなもんだと割り切ろうとクエストの掲示板を見るが、Eランクのクエストは先ほどにもあったように地味なのが多い。
もう組合での仕事は諦めて自由に外界を旅するだけで良いかもしれないとなどと考えていると後ろから声を掛けられる。
「あのぉ・・・・すいません。」
「ん?」
一神斎が後ろを振り返ると一組の男女がいた。
男女共にまだ10代といった感じだ、16~18歳といったところだろう。
男は金髪でショートのストレートヘアー、装備から見て剣士。
女はミルキィブラウン色の髪で少し長めのストレートヘアーだ。装備からみて魔法使い。
一神斎が2人の姿をまじまじと見ていると、女の子が少し緊張した面持ちで話かけてくる。
「は、初めまして私ステラと言います。隣にいるのがクロード」
「はい、は、初めまして・・・・えっと・・・・」
ここで一神斎は肝心なことを忘れていた。
(名前決めてなかった! ていうかさっき登録した時に聞かれなかったから気づかなかった!)
などと考えていると目の前の二人は不安と不思議が混じった表情でこちらを見てくる。
(くっ、ただでさえゲームの名前を決めるのも時間がかかるし俺のネーミングセンスは皆無!)
一神斎は少しネーミングセンスに難がある。
今までつけた名前と言えば「ペンギン丸」「プリン16」「こんにゃく魔人」「ケツケツダンシン」・・・・etc
さすがに現実で「私の名前はこんにゃく魔人です」とは言えない。
ヘタをすれば斬られるかもしない。
「・・・・あのぉ?」
まずい、とりあえず何か言わないといけない。
「は、初めましてダルトと申します。」
ダルトいう名前の由来は「洋ナシのタルト」である。
「ダルトさんですか、すいません急に声をおかけして」
「いえ、私に何か御用ですか?」
ここでもう一人の男、クロードが口を開く。
「突然ですいません、もしよろしければ俺達と一緒にクエストに行きませんか?」
本当に突然だ。学生時代一緒に昼食でも食べないかと尋ねられたことはあるがクエストへの誘いは初めてだ。
「本当に突然ですね。」
驚きを隠すように少し微笑みながら返答える。
すると慌てた様子でステラが話に割って入る。
「ほ、ほら困ってるじゃない。すみません、実はあるクエストを受けようとしたのですが3人じゃないと受注できないんです。それで掲示板の前で悩んでおられたので声をお掛けしたのです。」
「なるほど、そういうことですか。」
クエストを受注するにはクエストに対するランクも必要だがその他にも参加人数や職業、組合からの推薦状などが必要なものもある。
(人数合わせのためか・・・・しかし。)
「なぜ私を? 連れ合いのいない冒険者は他にもいるはずですが。」
当然の疑問を2人にぶつけるとステラがこちらの顔色を窺うような目で答える。
「実はさきほどダルトさんが登録受付の方と話し方がすごく丁寧ででしたので、それに私たちもまだ組合登録して間もない冒険者ですのでご一緒にどうかと思いまして。」
そういうステラを見るとEランク冒険者の証である銅板プレートがある。
同様にクロードにも同じものがある。
「ふむ、なるほど。」
正直オンラインゲームならこの申し出は適当な理由をつけて断る。とりあえず自分一人で操作やシステムを確認したいからだ。
だが、今この申し出は願ってもないものだ。
登録したばかりということもあり地味な仕事しかなく、団体で行うクエストというのもこれから先受注できるかわからないからここで経験できるのはありがたい。
それに目の前にいるのはステラは魔法使い、クロードは戦士のようだ。
Eランクとはいえこの世界の冒険者の実力を知りたいのだ。
先日の遺跡ではほとんど自分で解決したので自分(本体)のもつ力がどの当たりになるのか調べる必要がある。
それに聞きたいこともたくさんある。
「こちらとしても大変ありがたい話ですね。色々とご教授願いたいですし。」
「そ、そんな、先ほども申しましたが私たちもまだまだですのでご教授なんて・・・・」
「そ、そうですよ、それにダルトさんの方が俺たちより強そうですし!」
謙遜してるのだろうか?自分と比べると冒険者という感じがすごい出ている。
「いえいえ、謙遜されることはありませんよ。現に私は登録したばかりですし・・・とこれでは話が進みませんね。私としてはご一緒させていただことに異存はありません。それでクエストというのはどういったものを?」
今まであたふたしていた二人が我に返る。ステラが真剣な顔でクエストの説明をする。
「はい、今回のクエストは採取クエストです。」
当然か・・・・ステラとクロードも自分と同じEランクなので採取クエストがメインだからな。それに一人でやるよりはまだいいなどと一神斎は考える。
「Eランクなので当然ですね。」
「はい、でもこのクエストと他のものとは少しちがうんです。」
「ほう、ちがうとは?」
「採取する物や場所はこの村から少し行った森の中にある川付近なのですが、最近このあたりではよくモンスターが出現するらしいのです。」
「モンスター討伐も含まれているのですか?」
Eランクのクエストにはモンスター討伐はあまりない。
だが組合からでる報奨金やランクをあげるために率先してモンスター狩りにいく冒険者も多い。
町の人間からしても危険なモンスターを討伐してくれるのだからありがたい話だ。それに金は組合が出すのだからなおさらだ。
「いえ、モンスター討伐は含まれていませんが・・・・恐らく戦闘にはなるでしょうがここらへんのモンスターは比較的弱いので大丈夫かと・・・・油断は禁物ですが。」
「なるほど。そうですね、油断大敵ともいいますの気を引き締めていきましょう。」
いきなり強いモンスターというのは勘弁してほしい。
「だけど最近ここらへんじゃ考えられないモンスターが目撃されているらしいですよ?」
クロードが神妙な面持ちで話しをする。
「何でも大きくて奇妙な姿で人間を襲うとか・・・」
「もうクロード!あんまりそういうこというと本当に出くわしちゃうんだから止めよね!」
「ははは、悪い悪い。」
「よろしいでしょうか?ダルトさん。」
「ええ、よろしくお願いします。」
こうしてステラとクロードの二人とクエストに行くことになったダルトは3人でクエスト受注するために受付へと向かった。