9 初めての冒険(3)
一神斎は剣の前で止まる。
「どうやって浮いているんだこれ・・・・。」
恐る恐る剣を手に取る。
何も起こらない。
「遺跡の剣GETだぜ!」
まるでバックに音楽が流れているかのように剣を上へ掲げる。
「これはすげぇ・・・・綺麗な剣だ・・・・レイピアっていうのかな?」
持ち手は白金色でその他はエメラルドに輝いている。刀身は遺跡内にあるが嘘のように磨き上げられ光輝いているようにも見える。
「ちゃんと切ることも出来るような刃だな。突き特化というわけではないのか。重さもあまり感じないし、よっと! ・・・・ありゃ?」
一神斎は手に持ったレイピアを振りかぶって切る動作をした。
しかし、レイピアはまるで一神斎を拒絶するかのように手から落ちた。
しばらくの間そのままでいると我に帰った一神斎は落ちた剣を拾い出口へ向かう。
するとマップ上のスケルトン戦士の反応が消える。
「なっ・・・・!?」
マップ上には他の反応がない。
禁書には召喚し続けれる時間に制限ないので時間切れとは考えられない。
理由は一つしかない。
敵が現れたのだ、しかも探知防御ができるほどの者が。
一神斎は慌てて瓦礫の影に隠れ入り口の様子を伺う。
デビルアーマーにも反対側の瓦礫に隠れるように指示をし待機させる。
仮に冒険者だった場合デビルアーマーがいると敵だと思われる可能性があるからだ。
一神斎は息を呑む。
緊張からくる汗が出そうになるが防具の効果<沈静化>により冷静になる。
足音が聞こえる。
一神斎は杖を握り気配を消す魔法をデビルアーマーに掛ける。
そしていつでも魔法を発動させれるように身構える。
入り口からは入ってきたのは一人の人間だった。
銀色の妙な仮面を被り、片から茶色のローブを引っ掛け腰に剣を挿している。
(人間・・・・か?背丈と体つき・・・・ポニーテール・・・・女か?)
一神斎は静かに様子を伺う。
女は先ほどまで剣のあった場所をキョロキョロしている。
(この剣が目的か・・・・なら冒険者といったところか。)
女は肩を落とすような素振り見せている。
一神斎はこのままやり過ごすことに決めた。
関わると面倒だろう、最悪の場合剣の奪い合いが始まる可能性がある。
女は肩を落とした状態で出口へ歩いていく。
(よし! このまま帰れ帰れ・・・・・・ん?)
一神斎の腕に何か違和感がある。
まるで何かがやさしく触ってくるような感覚。
「なんだ・・・・・・うおぁぁぁぁぁ!!!」
一神斎の手には見たこともない大きさの蜘蛛が這っていた。
あまりの気持ち悪さに思わず叫んでしまった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
その声に驚いたのか仮面の女も悲鳴をあげる。
「あっ。」
「えっ!?」
二人は目が合う。
「まず!」
「誰!? まさかモンスター!?」
女は腰にある剣を抜くと剣を構える。
「ちょっ、まったまった! 落ち着け! 俺は人間だ! 敵じゃない!」
「えっ、人!? なんでこんな所に・・・・!? その左手に持っている剣!」
「あっ」
一神斎はしまったという顔する。
左手には先ほど手に入れた剣が高々と掲げられている。
「その剣はどこで!?」
「こ、ここで手にい・・・?」
すると突然目の前の仮面の女がこっちに飛び込んでくる。
「あぶない!!」
「うお! 命だけは勘弁!」
驚く一神斎を仮面の女は何かから助けるように抱きついて倒れこむ。
「なんだなんだ!?」
状況が理解できない一神斎を尻目に仮面の女はすぐに起き上がり一神斎の手を引っ張る。
「早くこっちへ!かなり危険なモンスターがいる!」
手を引っ張られ無理やり起こされた一神斎はよろけながら仮面の女の手の引くほうへ行く。
「モンスター!?でもマップには何の反応もないが・・・」
「あそこにいるのはデビルアーマー! かなり強いモンスターでまだ私の手には負えません!」
「ん? デビルアーマー??」
一神斎は先ほどいた場所にデビルアーマーがいることを確認する。
一神斎が蜘蛛に対して驚きと敵意を抱いたことでデビルアーマーが反応して蜘蛛を駆除していたのだ。
「あぁ~大丈夫だよ。」
「大丈夫って!? デビルアーマーはAランクの冒険者でも手に負えないかもしれないモンスターなのに!?」
たしかにデビルアーマーは中位でも強い方のモンスターだがあれは俺が召喚したものだから大丈夫だよ~。
-と一神斎は言えない。
アンデッドをしかもデビルアーマーを使役している人間なんていないのかもしれない。
まして仮面の女のあの反応だ。
最悪の場合攻撃される可能性だってある。
だがこのまま黙っているのもまずい、こちらを見て指示をまつデビルアーマーにデビルアーマーに対して大丈夫といいながらも沈黙を続ける不審な男・・・・状況は最悪だ。
「あの凶悪なデビルアーマーが沈黙してる・・・・?」
(まずい!こちらとデビルアーマーを交互に見てる・・・・・・こうなったら!)
「安心しろ! 私はアンデッドに対し強力な魔法を有している!」
「え!?」
一神斎はデビルアーマーに対し杖を構える。
「消え去れ、セイントインパクト~ (棒読み)」
一神斎は嘘の魔法を言うとデビルアーマーに帰還せよと思念で命令する。
するとデビルアーマーは紫のひかりに包まれ帰還していく。
「すごい、あのデビルアーマーを一発で・・・」
仮面の女は呆然とし驚きの声をあげている。
(なんとか誤魔化せたようだな。)
一神斎が安堵していると仮面の女が仮面を取り一神斎の手をとり顔を近づけ迫ってくる。
「うわぁ! 今度は何!?」
「わ、私はアルグ・・・・っ、フィリアと申します! あ、あなた様は一体!」
「お、落ち着いて・・・・」
興奮しているフィリアを落ち着かせようと名前を呼ぼうとした時。
二人の横で何か大きな物が落ちた音が響く。
音の方へ目をやるとそこには巨大なゴーレムが立っていた。
「「え?」」
二人同時に疑問の声をあげる。
「グガガガガガ!!」
するとゴーレムは大きな拳を振り下ろそうと構える。
「あぶない!」
再びフィリアにタックルをされる形で助けられる。
間一髪の所でゴーレムの拳から回避するも抉られた地面から勢いよく大小様々な石が重なり倒れている二人に目掛けて飛んでくる。
だが飛んできた石は二人に着弾することなく見えない壁にぶつかりゴーレム目掛け飛んでいく。
「ほぉ、<上位物理反射>の効果か、これはすごいな。」
仰向けに倒れている一神斎は自分に掛けた魔法効果を確認し満足する。
しかし、反射した石はゴーレムに勢いよくぶつかるもゴーレムは平然としている。
そしてもう一度拳を振り上げていた。
「面倒だ。この場所にはもう用はないし<転移>するか。」
一神斎は転移の魔法を発動する。
二人は重なりあった状態で遺跡の入り口前の草原に転移した。
「え?あれ?ここは・・・ゴーレムは?」
フィリアが唖然とした顔で周囲を見渡している。
「あの~そろそろどいてもえる?」
一神斎が呟くとフィリアは慌てて立ち上がり手を差し伸べながら謝罪の言葉をのべた後に疑問を投げかける。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!? そ、それでゴーレムは?」
フィリアの手を取り起き上がると一神斎は淡々と答える。
「あの場所に用はないしゴーレムと無理に戦う必要はないから、ここに転移したんだよ。」
「て、転移の魔法を使用できるのですか!?」
フィリアは思わず声を荒げる。
「え!? はい・・・・使えるけど。何? すごいことなの?」
一神斎が尋ねるとフィリアは興奮気味に説明をする。
「いえ・・・・は、はい! 転移の魔法を使用できる者は私も存じてますがそれはあくまで術者のみの転送で、今あなたが行ったように複数人の転移となるとかなり高度な魔術詠唱者にしかできないと聞いたことがあります。」
フィリアの説明を聞きながら一神斎はしまったと思った。
「それにデビルアーマーを一撃で倒してしまうほどの魔法を有していらっしゃるようですし。」
「いやぁ・・・・あれはたまたま・・・・」
一神斎が何か良い言い訳を考えながら口を開いた瞬間。
遺跡の入り口に先ほどのゴーレムが姿を現したのである。
「「な!?」」