序章
目の前にいるこいつはなぜこんな大笑いしているのだろう。
漫画やアニメでよくあるが、強敵を目の前にして喜んでいるのだろうか。
「やるなぁ!!人間!」
(大声だすなよ・・・・・・)
天気は晴天、気温は・・・やや暑い。ビルのモニターには今を時めく大人気ヒーローが記者会見をしている。
周りの人々がモニターにくぎ付けになっている中、一人の男が立ち尽くしている。その男の手には”黄金の雫”がある。
「こっちの店の方が200円安かった・・・ ・」
ネットで検索してもこれほど安い物は見つからなかったので喜び勇んで購入したものの、更に安い物を見つけてしまった。
黄金の雫30缶入り1460円、缶コーヒーである。
(まぁ、こういうこともあるか)
男は考えることを止めビルのテレビに目をやる。
「おっ、”エルナイト”じゃん。外界から帰ってきたのか、俺より若いのにすごいよな~。」
「私は名誉や栄光に興味はありません。私は幼い頃一人のヒーローに出会いました。無名のヒーローでしたが彼は目の前の宝でなく遠くの人々を助けるヒーローでした。私も助けられた一人です。外界はたしかに魅力的です。しかし私は生まれ育ったこの世界で困っている人を一人でも多く助けていきたいのです!」
街ではエルナイトへの賞賛の声があがっている。
「さすがエルナイトだぜ!」
「かっこいい~エルナイト様~」
「ボクもしょうらいエルナイトになる」
エルナイトフィーバー中の街を他所に男はセルフ式のパンカフェにいた。
「合計で1000円になります」
お気に入りの場所がある。ショッピングセンターの中にあるパンカフェ、窓際のソファに腰掛けパンを二つ食べながらコーヒーを飲むのがこの男の いつものスタイルである。
皿の上のカレーパンを眺めながら男は思った。
(この前もカレーパン食った気がする・・・・ピロシキにすればよかった)
交換してくださいとは言えないのでそのままカレーパンを口に運ぶ。
この後の予定を考える。予定がない・・・職場で飲む缶コーヒーを買うついでにブラブラし服やゲームでも見ようかと考えていたが、めんどくさくなってきたのである。
「これからどうする?」
「あっくんに任せるよぉ?」
近くの席のカップルの会話が耳に入ってくる・・・・・・。
(休みの日に一人でカフェにいる男・・・・もう出るか・・・・)
残ったコーヒーを飲みほし店を出る。
(やることもないし家に帰るか・・・・)
【ブブブ(バイブ音)】
ポケットに入っている携帯が振動している。
(面倒だ・・・休日に会社の人間とは話たくないんだけど誰だ。)
携帯を取り出すと画面には「ショウ」と表示されている。到着した電車には乗らずに離れた場所で電話に出る。
「お掛けになった電話番・・・・」
「なんでやねん。」
「どったの?」
「今日夜暇か?遊ぼうぜ。」
「いいぞ、仕事が終わったら連絡してくれ。」
「あいよ。」
「夜に備えて帰るとするか。」
この日から一神斎の人生はガラリと変わることになる。