はじまり
初投稿です。
よろしくお願いいたします。
「おはよー! あっ、いいね! 似合ってる」
私はモーリュのクッキーをもぐもぐと咀嚼しながら玄関を出た。背筋を伸ばしてこっちを見たハナは、朝だと言うのに目をぱっちりと開いている。
この子、一体何時に起きてるんだろう。
とは言え、今日ばかりは私ももう少しきちっとしていた方が良いのかもしれない。高校初日からあんまり舐めた態度を取って上級生に目をつけられたりしたらイヤだ。
半分寝たままそんな事を考えていた私に、ハナが発破をかけてくる。
「いくよ! 入学式から遅刻なんかしたら有名人になっちゃう」
ハナにもそういう認識はあったらしい。抜けているように見えて、この子は結構世渡りが巧い。
……いや、一回だけド派手に大失敗していたっけ。
そんな事を考えているうちに、ハナは自然に近寄ってきて真新しい制服のリボンを整え直してくれていた。
え、なにその女の子スキル。それも世渡り道具? 私に何か後ろ暗い事でもあるの?
私の視線に気づいたハナは、にこっと微笑みを返してくる。
この子は私の事が好きなんじゃないだろうか。
なんだかんだでこの子はいつも私に世話を焼いてくれるのだ。
まだちょっと慣れない下宿先の自宅の門を出ながら、私より少し背の低いハナの顔を流し目に見る。
(可愛いなぁ……)
これはこれで、上級生に目をつけられそうではある。
「どうかした?」
ハナがこっちを向く。ばっちりと目が合う。見てたのがバレた。
「なんでも。ほら急ぐよ」
ケーブルカーが駅に向かっていく。あれに乗り遅れたら本格的にアウトかもしれない。
ハナの手を取って、足早に石畳の階段をくだる。
住宅街を抜けて視界が開ける。
山の斜面に沿って築かれた街が一望のもとに見える。これが私、ホノカ=シアンがこれからの高校生活を送る街、カンタリだ。ソルジア海を取り囲む港街。潮風にほんのりとマホウガイの香りが漂っている。空を見上げると、都市部に働きに出る人を乗せた輸送船、Sakanaが峰と峰の間に分け入っていく。
私はそののどかな風景に、これからの高校生活への期待を寄せてーー。
気合いを入れすぎたらしい。手を引く私について来れなくなったハナが、新品の制服で盛大に素っ転ぶ。
「大丈夫!?」
ハナはイテテ、なんて言いながらお尻をさすっている。膝小僧も擦りむいたようだ。
「ごめん、ハナ。絆創膏持ってる?」
けが人に絆創膏の在処を聞くのはかっこわるいのかもしれないけど、私はそんなの持ち歩いていない。
ハナが鞄をあさっている間にスマホで消毒魔法の公式を検索する。手元にはマインチャームの小瓶しかないが、この程度の式なら生身で組める。
魔法。鉱物由来の精製魔力の揮発液、マインチャームと、同じく生物由来のバイオチャームを空中でプログラムして陣を作る事で得られるエネルギーのこと。
バイオチャームは大体みんな体内で精製している。少し体力は使うけどその方が身軽だからだ。
昔はもっと違う方法でやってたみたいだけど、今はもっぱらこれが主流。
まぁ、要は〇と一の組み合わせ。最近はスマホにマークアップ言語で打ち込めば自動で魔力を取り込んでプログラミングしてくれる。
検索した消毒魔法の式を、エディタにコピー&ペースト。
マインチャームの瓶が少し減って、ハナの傷口が奇麗になる。
しまった、もうちょっと朝ご飯たべてくるんだったかな。
と、辺りに汽笛が響く。見れば、数十メートル先の駅で停車していたケーブルカーの扉が閉じるところだった。
私はその時、無難な高校生活への扉が閉じるのを確かに感じた。




