双子姉妹とお風呂、後編
「さて……」
少しだけ、晶は考えた。何を考えたのか。
妹の扱いについて考えた。
場所はお風呂。
眼前には、素肌をさらす美貌の双子の妹たち。
身体を洗ってあげると言ったはいいが、こちらは一人、あちらは二人。どちらかを洗えばどちらかが手持無沙汰になる。というか、湯船に浸からず素っ裸で待つのも寒いだけだろう。
「今日は綾香を洗うから沙夜香は自分で洗ってくれないかな?」
「あらら。仕方ないですね」
兄の意図をすぐに理解したのだろう。双子の妹をちらりと見て、沙夜香は言った。
彼らがこの世界に来てからの数か月間、綾香は晶とじゃれあうことがなかったのだ。今日くらい優先してサービスしてあげてもいいだろう。そう晶は考えて、沙夜香もその意図を察した。
「さやちゃん、いいの?」
晶に触られることへの期待と、自分と同じく晶のことが大好きな双子の姉への気づかいとで、尋ねる綾香の表情は喜びながらもかげりを帯びるという非常に複雑なものとなっていた。
「ん。でも明日は私の番ですからね」
「はーい。そっか、明日もにいさまと一緒にお風呂に入れるんだ」
綾香が心底からうれしそうに言う。
「いいなー。さやちゃん、毎日こうだったのか。いいなー」
(可愛いなあ)
などと、晶は思いつつ。
微笑して、妹たちの頭を撫でた。
「にゃー」
「ふにゅぅ」
心地よさげに目を細めて、うにゃうにゃと鳴く双子の姉妹。実に無邪気。
ともあれ、裸である。
柔らかそうな大きい胸の、頂にある桜色の蕾まで見えてしまっている。しかも、隠そうとしていない。恥ずかしいことは恥ずかしいのだが、それ以上に晶に見られることがうれしいとのことらしい。これは後から聞いた。
気を取り直し、綾香と向き合う。
「兄様に身体を洗ってもらうの久しぶりです」
少しはにかみつつ、綾香は言った。
「小学校以来か」
十歳になったくらいだったか。あの頃の綾香は前髪を切りそろえ、後ろ髪は肩につく程度しかなかった。目元がぱっちりと大きく、柔和そうで整った顔立ちと相まって、外見は京人形のような印象。
とはいえ口を開けば甘えたがりで、晶に遊んでほしいとせがむところは昔とほとんど変わらない。変わったといえば、二人が成長して少しずつ大人になったところだろう。
膨らみかけだった胸は、Fカップのたわわさにまで実り。
素肌を見られることへの羞恥心と、性的なことへの期待に心は揺れている。
ほかの誰でもない、相手が大好きな晶だからだ。綾香はずっと、物心ついたときにはずっと、彼のことを異性として認識していた。
晶にいやらしい事をされる夢を、何度も見てきた。
「ん……」
スポンジに泡をつけて、綾香の首元につける。小さく声をたてる綾香。
ぴくりと、身体がすくむ。
「くすぐったいか?」
「大丈夫です。続けてどうぞ」
普段とは少し言葉づかいが違うのは、緊張か、それとも興奮のためか。
少女の頬が赤いのは、湯気で火照ったためだろうか。
そんな兄と、双子の妹をばっちりと見つつ、沙夜香は自分の身体を洗う。少女が考えるのは、次に自分が洗ってもらう際はどうされたいか。それに、可愛い妹が晶にどう可愛がられるか、兄の視線がどこを向き、妹のどこに劣情をもよおすのか……。
「はぁ……」
綾香が一つ、息を吐く。
二の腕をスポンジに這わされ、わきの下までごしごしとこすられる。
気持ちいい。
「兄様……」
甘えるような声。実際に甘えている。
スポンジが、胸の側面のあたりにあたる。綾香の胸はまだ十四歳のくせにたわわに実っていて、側面や上部や下乳やらがはっきりとわかる。ただ、晶は積極的に触ろうとはしない。これは身体を洗う行為なのだ。
「ん?」
「好き」
「僕もだよ」
何のてらいもなく、晶が答える。ごしごし。晶の手が動き、少女の身体を洗ってゆく。
「にいさま、こちらに蚊帳の外に置かれた女性が一人います」
少しうらめしげな声。妹と兄とのやりとりを凝視しつつ、沙夜香が言う。
うらやましい。と、顔に書いてあった。
「沙夜香の事も好きだよ」
「当然ですよね。私も大好きです」
「でも今日くらいはちょっと我慢しようね。綾香は何か月かぶりに会ったんだし」
「はーい」
「んふー。今日はわたしの日―。兄様、大好き」
むぎゅっと、綾香が晶に抱き着く。泡を塗り広げられた胸が晶のたくましい胸板にあたり、Fカップの大きな胸がふにゅんと潰れた。
「ちょ、綾香。いろんなところが危ないからやめようそれは」
「兄様、欲情してる?」
くすくすと、歳に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべながら綾香は言う。
兄に向けられた流し目が、明らかに誘っている。
はぁ、と、少女の吐息が晶の胸板をくすぐった。
「兄様が相手ならいつでもいいのに」
「綾香」
少女の声が、風呂場に凛として響いた。沙夜香だ。
「そういうことなら私も混ざります」
「いやそっちかよ!?」
晶が突っ込んだ。ちなみの彼の股間の紳士は妹たちの魅力に参ってしまってこれ以上ないほどに大きくなってしまっている。それを理性でなんとか抑え込んでいるのだ。いいお兄さんであろうとする自分の努力もわかってもらいたい。
もらいたいのだが。
「だってにいさま、の、が、苦しそうだもの」
微妙に言いよどみつつ沙夜香。
「そうだよ。我慢は身体に毒だと思います」
けしかける綾香。
晶はわざとらしくため息をついた。裸の二人を前に、やはり股間を大きくしたまま。
「はいはい、泡を流すからね。まったく」
セリフに説得力がない。
「むぅ。兄様、釣った魚には餌を与えないといつか死んじゃいますよう」
「そうですよ、にいさま。兎は構ってもらえなくなると死んじゃうのです」
綾香が言い、沙夜香もたしなめるどころかかぶせてくる。王族として育てられた嗜みはどこへ行ったのか。それとも相手が大好きな晶で、ここがお風呂で、大好きな男の前に素肌を露出して身体を洗ってもらっているというシチュエーションに興奮しているからか。
「はいはい目を閉じて」
「はーい」
湯がかけられる。
泡が洗い流され、水が一路の流れとなって妹の肌にまとわりつく。
綾香の身体は、いつも綺麗だ。綾香だけではない。双子の姉の沙夜香も同じく美しい。
こうして並べて裸体を見ながら、晶は改めて感嘆する。
そういえば、昔に三人一緒にお風呂に入ったのは何年前だろう。
男として女としてお互い成長して、周りの目をはばかるようになって、一緒に寝ることも一緒に風呂に入ることもなくなっていた。
もう二度と……そう、思っていたのだが。
隣で、沙夜香が自分の身体を洗い終えた。
湯船に三人で入る。
「ふー」
「はふぅ」
「あはぁ」
晶の左手側には沙夜香が、右手側には綾香が座り。
彼にもたれかかるようにして、晶の腕をそっと抱きしめる。
歳のわりに大きく育った胸を左右に感じ、晶はくらくらしそうになる。
「兄様、すごくたくましくなってる」
「ああ。ここに来てから少しは鍛えたから」
「少しじゃなくとってもですよね。何十キロも走らされたりとか、土嚢を背負って山を往復したりとか、木刀を使った稽古でぽかぽか殴られたりとか」
少し怒った口調で沙夜香が補足し。
「そんなこともあったなあ。まあ、今も定期訓練はやってるけど」
晶が笑いながら言う。
「え。無理しすぎじゃ」
綾香が驚いて言った。
「慣れたらわりとそうでもないよ。元の世界の自衛隊の人の訓練に比べたら大したことはないだろうし。いや、よくわかんないけどさ。でも、きつくはあるけど辛くはないんだ。なんというか、生きてるって感じがする」
「生きてる?」
「うん。生きてる。ここの世界に来るまでは、お兄ちゃんは誰かに生かされているって感じていた。言われたとおりに学校へ行って塾へ行って勉強して習い事をして礼儀作法を覚えて、社交界で役に立つ人脈を作って……。でも今はいろんなことが楽しい。サフィーリアさんから仕事を斡旋してもらって、自分の意志で身体を鍛えて、働いて、稼いで、家には沙夜香がいて美味しいご飯を作ってくれて、今は綾香もいる。それで誰の目もはばかることなく一緒にこうしてる。今の僕はすごく幸せだよ。これ以上を望んだら罰があたると思うくらい」
キラキラとした瞳で言う晶。
「……」
ぼうっとした顔を向ける綾香。
「綾香、どうした?」
「……あの、惚れ直しまてました」
うつむき、ごにょごにょという。顔が赤いのは、湯にあてられただけではなかった。
「でもにいさま、無理は駄目しないでくださいね。本当に」
「はは、うん。気を付ける」
実際は、何度か死ぬ目にも合っているのだが。それをおくびにも出さずに晶は言った。
妹たちを心配させたくない。
「さ、そろそろあがろうか」
「えー」
「もう?」
「のぼせるぞ。あと、お腹がすいた」
「あ、はいっ。すぐにごはん作りますね♪」
「さやちゃん、本当に家事できるの?」
「ふっふっふ。見るがよい姉の真の実力を」
わいわい言いながら双子の妹たちは風呂をあがり。
三人で美味しいご飯を食べ。
あっという間に夜がふけてゆく。
その夜。
双子の姉妹の胸が左右から押し付けられて、晶はひどく寝るのに苦労した。
次の話の投下は今週末を目標にしています。