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お茶会(本編)

 


「レイチェル。言うようになったな。この男の影響か?」

「知らないわ。それと、彼の名前はアキラさんよ。この男なんて名前ではないわ」

「ふん。アキラのことは好きか?」

「……。ええと、その。今は大切なお友達です」


 ちょっと間が空いたのは、グローリアに対しての正解を探っていたからではない。質問に動揺したからだ。


「アキラ。卿の交友関係を調べさせてもらったが、とても褒められたものではないよなあ?」

「おっしゃる通りです」

「サフィーリアはまだいい。分別のついた大人だ。騎士団の同僚女性に手を出すのも良しとしよう。分別の付いた大人だ。だが年端もいかないレイチェルに手を出すのはどうなのかな?」

「疑う気持ちは分かります。レイチェルが女性として魅力的なのも認めます。その上で、私は彼女を大切な友達だと思っています」


 顔色も変えず、晶は即答した。

 恋愛事、特に男女の痴情のもつれからくるいざこざに不慣れなサフィーリアがどぎまぎしている。

 沙夜香と綾香が、涼しい顔で茶菓子を食べ始めた。

 レイチェルは緊張した面持ちで晶を見ている。


「二年後や三年後。卿はこの世界に居つづけるのか? それとも元いた世界に戻るのか? どちらにせよ、我が国のなりかたちをかき回されるのは困る。子供だと思っていた女はすぐに成長する。今は友達だと取り繕えもするだろう。今は手を出していないという話も信頼するとして。これから先もそうであるという保証はない。卿を信頼せよというのには、あまりにも行動がそれを裏切っている」

「おっしゃる通りです」

「かといって。無理やりに引き離すのも逆効果になるだろう。男は下半身で考えるが、女は全身で燃え上がる。色恋沙汰には女側の納得が不可欠だ。ボクはレイチェルに恨まれたくない。だが、何か致命的なことが起こってからでは遅い。さて、どうすればいい?」

「まず、私にレイチェルの気持ちを操作しろという申し出ならお断りします。彼女の気持ちは彼女のものであって、私がどうこうできる話ではない」

「それは、恋愛経験の未熟な妹が傷物にされるまで黙ってみていろということかな?」

「違います」

「グローリア姉様。さっきから失礼じゃないのかしら」

「メイドと衛兵。会話が聞こえない距離まで下がれ」

「はっ」


 たしなめるレイチェルを無視し、グローリアが給仕と護衛のために控えている部下に命じた。

 人が遠ざかる。

 十分に離れたところで、王女は続けた。


「今から……もう六年前になるか。異世界から今と同じように男が来た。一見して爽やかな男だったよ。話術も巧みで、すぐに宮廷に出入りするようになった。ところが。そのうちに隣国から金と女で懐柔されてな。王宮内の人間関係をぐちゃぐちゃのどろどろにかき回した挙句に処刑された。ボクの乳母はそいつの子供を腹に宿していてね。悲嘆にくれて身投げしたよ。死ぬ前日に見せた顔が今も忘れられない。顔は妙にすっきりしているのに、目は虚ろだった」

「アキラはそんな人じゃないわ」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。だがボクは信用しない。異世界から来た男はみんなクソだ。早々に元いた世界へ戻ってもらいたい。それがボクに譲歩できるぎりぎりの話だ」

「……」

「何だ?」


 眉を跳ね上げ、グローリアが晶に詰問した。


「何だ、とは?」

「何で泣いているんだ」

「え?」


 晶は聞き返すとともに、自分の頬を熱い雫が伝っていることに気づいた。


「すみません。貴女のことを誤解していました」

「何で泣いているのかを聞いている」

「分かりません。……たぶん、羨ましいからだと思います」

「は?」

「失礼」


 テーブルに置かれたナプキンをとり、晶は涙をふき、盛大に鼻をかんだ。


「僕は地獄に落ちるべきクズです。もとにいた世界では、色んな人を陥れてきました。おそらく、ユリウス様が見た男よりも何倍もひどいことをしてきました。口にはとてもだせないようなおぞましいことを日課にしていました。そうしなければとても生きていけなかった。僕の置かれた環境はそういうところでした」

「それで? 同情するとでも?」

「貴女は、家族の為に怒っているのでしょう? かつては乳母を失った、助けられなかったことを嘆き、今になって同じことが起こらないようにと心配している。ユリウス様は、温かい人だ。姉弟を食い物にしてきた僕とは違う。だから、貴女が羨ましい」

「……」

「あの」


 小さく、沙夜香が手を上げた。


「何だ?」

「元いた世界に戻ったら、私たちは殺されます。十歳以上になってから逃亡を企てた子や経歴に傷がついた商品は臓器を抜かれるのが規則なので」

「なんだそれは」

「私たちの世界では、身体の悪くなった部分を、別の人から奪って取り換える技術が存在するのです。心臓は特に高値で取引されています」

「だから、何なのだそれは。サヤカだったか? 卿は、いや、卿たちはどんな地獄にいたのだ」

「私と妹はまだ、その、特別な商品なので身綺麗なまま大切に育てられました。ただ、兄がされてきたことは、ここでは――」


 ちらりと、沙夜香はレイチェルに視線を送った。

 子供なりにも察しているのだろう。レイチェルの顔がこわばっていた。


「なるほど。そうだな」


 グローリアが手を上げた。

 給仕と衛兵への合図だ。話が終わったので戻ってこいという。


「場を改めよう。ボクはもう下がる。次はサシで話をしようじゃないか」


作品の生存確認がてら投下。今年が終わるまでに完結させたい

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