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獣人クォーター、ローズマリーとの一夜

晶 十六歳(主人公)

綾香、沙夜香 十四歳(晶の妹、双子)

サフィーリア 二十四歳(騎士団長)

グローリア 二十一歳(第一王女)

レイチェル 十二歳(第二王女)

ローズマリー 十八歳(外見年齢、獣人クォーター、騎士団隊長)

オリヴィア 二十七歳(外見年齢、魔術師、騎士団隊長)

ジェシカ 二十四歳(修道士、騎士団隊長)


 その日――。

 騎士団のNo.3にして獣人クォーターの美女、ローズマリーは極楽の中にいた。


 柔らかな毛布の上に仰向けに寝そべっている彼女の身体。スレンダーながらも十八歳の女としての丸みを帯びているその身体を、愛しいご主人様の手がまさぐると……。


「あ、あは……」


 熱い吐息が、薄いルージュをひかれただけの唇から漏れる。


「このへんかな?」


 晶が問いかけて、彼女の身体に手を這わせる。すると。

 びくんっ、とマリーの身体が一瞬すくみ、跳ね。


「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあう」


 首を振って、マリーは幼子のようにいやいやする。継続的に襲う痛みと、快楽への期待と、恐怖とで、その目尻には涙が浮かんでいた。


「はははは」


 晶は笑い、彼女を見下ろしながら手に込める力を少し強めた。


「ご主人様、いたい、ちょっといたい、ダメ、そこだめ。いたいの」

「我慢して。あとちょっとだから」

「ううううう」


 恨めしげに晶を見上げるも、すぐにその声は苦悶にかき消されてしまう。マリーの頭の上にある、獣人特有の副耳が激しくぴょこぴょこと揺れていた。


「うううううううううううう」


 びくん、びくん、びくん――。


 マリーの身体が何度も跳ね、うめき声が何度も発せられ、しかしそれはやがて熱い吐息の混じった快楽のそれになっていき――。


 施術が終わった。


「よし、終わり。よく我慢したね」


 ご褒美とでもいうかのように、晶は優しくマリーの筋肉がつきながらもすらりとした脚を撫でた。


「はふぅ……痛かった……」

「目と脳が疲れてるね。睡眠はきちんととれてる?」

「最近、寝つきが悪いです」

「だろうね。すごいきてたから」

 くっくと悪人のような笑いを浮かべながら、晶。この男の性根はSだ。人を痛めつけるのが楽しくてたまらない。


 足つぼマッサージである。


 二人とも、休日(オフ)である。

 ここ数日、団長サフィーリアは期末調整とか税務署への申告作業等々の作業で忙しいらしい。頭脳労働役のオリヴィエ、それにジェシカと共に書類と格闘しているために、肉体労働役の晶とローズマリーは必然的に暇ができる。


 というわけで――。


『マリー、明後日、部屋に遊びに行っていい?』

『……』


 晃から提案された瞬間に、ローズマリーは俯き、さっと顔を赤らめた。

 その首には、晶がプレゼントした獣用の首輪。彼女の熱烈な希望により買い与えた物だ。獣人の女は特に気に入ったパートナーを見つけた際に、首輪をつけてもらう古い風習があるのだという。


『マリー?』

『は、はい、ご主人様。むさくるしい部屋ですが……その……優しくしてください……ね』


 普段から無口で、言葉の代わりに人目を忍んでは晶に身を摺り寄せてくる年頃の女は、絞り出すように彼に言う。

 頭の上にある銀色の副耳が、せわしなく動いていた。


 そんな彼女に、晶はくすりと笑い。


(面白いからこのままにしておこう)


 そう思って、妹にするように年上のこの女性の頭を優しく撫でてやった。

 まだ、彼女をいただくつもりはない晶である。オリヴィエには既に手を出しているのだが、それはそれ。


 と、いうわけで――。


 晶は、ローズマリーの部屋にお邪魔することにした。そこは騎士団長のサフィーリアからあてがわれた、部隊長用の専用の宿舎。案内されたところ、古今東西の刀剣類が鎮座ましましている倉庫部屋と、ごくごく一般的な客間、それに大小多くのぬいぐるみが飾られたマリーの私室であった。


『私室は、団長も通したことはありません』


 ひどく恥ずかしながら、マリーは私室に晶を招き入れた。可愛い。


『意外だな。殺風景なのを想像してた』


 もふもふとした白い毛並みのぬいぐるみを手に取る晶。


『良かったら今度、こういうのをプレゼントしようか?』


 過分な給料を頂いている晶であった。サフィーリアによると、働きぶりに相当した額にはまだまだ足りないそうだが。そこは税務署とのやりとりが色々とあるらしい。


『そんな、申し訳ないです』


 恐縮するマリー。


 飲み物が出された。

 炭酸の入った砂糖水。それをちびりちびりと飲みつつも、彼女は何も喋ろうとしない。


 晶が彼女の部屋に遊びに行ったのは、単純に彼女とおしゃべりをしたかったからだ。


 が、ローズマリーは明らかにその、発情してしまっていて、期待に満ちつつも自分は晶の所有物(どれい)なのだから切り出せないという葛藤がみてとれて、どうにもこうにも収まりがつきそうにないし雰囲気に流されてしまいそうになる。晶とて性欲が絶頂期の青年である。この空気は非常にまずい。


 晶は少し息を吐くと、切り出した。


『マリー。ちょっとそのベッドに寝そべってみて』

『は、はいっ、すぐにっ……!』


 びくん、と身体をすくませて、彼女は言い。

 冒頭のシーンに戻る。


「ご主人様は、特殊な性癖の持ち主なのですか?」

「どうして?」

「だって、私に――うう……」

「マリーは魅力的だよ。とても」

「だったら何で……」

「抱かないのかって?」

「はい」

「だってマリー、僕の事を怖がってるから」

「……え?」

「怯える女の子を抱く趣味はないよ。萎えちまう」


 言い切る晶に、ローズマリーは訝しむような視線を送った。


「私が、ご主人様の事を怖がっている……?」


 それはないはずだ。だって自分は、


(こんなに、ご主人様の事を好きなのに――)


 晶の事を考えるだけで、胸が締め付けられるように熱くなる。晶に身を寄せるだけで、心がじんわりと満たされてしまう。晶に与えられた首輪に指を添えるだけで、蕩けるような服従の悦楽に浸ることができる。もっと触れてほしい。もっと虐めてほしい。乱暴に、犯してほしい。そう思っている自分がいる。


「僕に嫌われるのが怖い」

「……!」


 晶の言葉に、マリーは思わず身体を震わせた。

 図星だった。


「ほらね。合ってるだろう。マリーが“そこ”を乗り越えない限り、抱く気はない」

「私はそれでも構いませんが、そういう話ではないのですか」

「ああ。ついでに言うと、自分を殺して他人に合わようとする奴が僕は大嫌いだ。一緒にいると虫唾が走る」

「……」


 がっくりと、ローズマリーは頭を下げた。


「あのね、重ねて言うけどマリーは魅力的だよ」

「そう、です、か……?」

「ダンジョンで僕を襲ったあたりはかなりいい線をいってた。もう一ひねりあったらやってたかもしれない」

「つ、つまり、ご主人様は、強引な方が好み、と」

「そういう話でもないんだな……。なんというか、微妙な男女の駆け引き? ジェシカさんあたりが一番詳しいんじゃないかなこういうの」

「難しいです……」

「ま、時間はあるんだから色々と試してみるといいんじゃないかな。ただ、ご主人様として言わせてもらうと、僕に気に入られんがために自分を殺すのは許さない」

「分かりました。いえ、分かっていないかもしれませんが」

「ん。そういう素直なところ、すごく好きだ」


 頭を撫でる晶。


「あう……」

「ま、とりあえずは」


 晶は彼女の横に座り、肩に手をかけて。


「マリーの事をもっと知りたい」

「は、はいっ。私もご主人様の事を知りたいですっ」


 頭の上にある銀色の副耳をぴょこぴょこと動かして、ローズマリーは返事をした。


 その日――。

 二人は、たわいない話をして健全な夜を過ごした。



今回の話より、改行ルールをなろう向けに見やすく変更。次回更新は6/10までに行う予定。

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