プリンづくりとまほうのはなし
―実験、プリン作り(プリンができるとは限らない)―
「『空間隔離』。
続いて、『仮装・プリンの国の姫の衣装』。」
空間隔離で通常世界に近い位相の空間に自らを移動させる。
服を魔力で分解し、装飾過多な服に変える。
動くには不便そうな服であり、防御力も皆無に近い。
魔法を実行するための雰囲気作り、イメージ強化のための服装である。
「服の変更は成功、続いてプリン作る魔法を使う、」
服が変わったのを確認した後、小さな魔石が取り付けられた軽く小さな杖を出し、踊るように動きながら呪文を唱える。
「ひだりにまわる、みぎにまわる、杖で魔法陣を表現して、的に変える…。」
杖の先の魔石が砕け、空中に輝く螺旋を描く。
螺旋は大きさと色をさまざまに変え、やがて虹色に変化する。
「的の色が決まったら、つぎに的を撃って何が出るか決めればいいだけだね。」
「何か出てくる素敵な魔法
みんなよろこぶおいしい魔法
嬉しいこととざんねんなこと
どちらもあるよどちらがでるの
輝く石と求める意志が
黄色い輝き見上げているよ
出てこいプリン待ってるプリン」
「『プリンルーレット☆』」
歌い踊りながら手で弓を引くような動きを取り、魔力を込める。
魔力で描かれた矢が、魔力で描かれた虹色の螺旋に向かい、それを撃ち抜く。
大量のソーセージが空中から現れて、あらかじめ置いておいた大きな皿の上に落ちる。
「むー。失敗。プリンじゃなかった。
やっぱり元ネタみたいに一回で成功するようにはならないか。もう一回。」
・・・・
「み?
やっと黄色に当たってプリンができた、当たり。
仮装解除、はずれのソーセージとフィギュアをアイテムボックスにしまって、プリンを持って、空間隔離解除、たらいー。
プリンできたー。」
「白ちゃんおかえり、お疲れ様ー。
白ちゃんの魔法だと食べ物と生き物とモンスター以外はだいたい出せるみたいな感じだと思ってたけど、プリンは見た感じ普通っぽいね。
プリンは作りやすい感じなの?」
「むー。どっちかというと作りにくいほうかな。
なぽたんよりはかなりかんたん。武器とか鎧よりは難しいくらい?ポーションよりは難しい。
なぽたんはわたしの認識とせけんいっぱんのにんしきにおおきなそごがあるから作りにくい、なかんじ。」
「武器を作れるなら武器を売って食べ物を買うことも簡単だと思うけど、そういう問題ではないのかしら。」
「らー。自分で作ったほうがたのしい。実用性で言うとアイテムボックスがなにかの理由で使えなくなる場合もあるかもしれないから、作れるものを増やしておくのはいいかもしれない、くらいな感じ。
着替えてから作らないといけないし、できるプリンの種類がランダムだから変なものができることもあるけど。」
「変なプリンができるってこと?固いとか甘くないとかかな、よく聞く失敗パターン。」
「らー。変なプリン、だいたいあってる。
おっぱいプリン、形がへん。たぶん失敗。
プリンアラモード、大成功。大きいけどおいしい。
プリンパフェ、いろいろ食べたい人なら当たり、プリンだけ食べたい人ならちょっとがっかりかな。
樽パフェ、すごく大きい。
そんなかんじ、他にもいろいろある。
ゼリーはができるときもある。いろんな味で出てくるけど、大きさは普通のが多いかな。
かわったものだとブラッドソーセージとか。おやつじゃなくておかずなかんじ?
あとはハズレのプリンちゃんメタルフィギュア、プリンちゃんぬいぐるみ、プリンちゃん人形など。食べ物じゃないから食べるのは難しい。」
「意外といろいろなものが出てくるんだね。ゼリーはプリンに似てるといえば似てるかもだけど、ソーセージは謎すぎる。」
「材料をどれだけ使うかわからないなら困るわね。予想ができないなら。
作るものが決まってからそれに対応する材料を消費して完成するのかしら。その場合足りない場合はどうなるのかどうか、気になるわね。
鎧や剣を作った時には作ったものが決まってから相応の素材を消費する感じだったといっていたわね。」
「さっき使った魔法なら、結果に関係なく魔法が成立した時点でプリンの材料を消費する。最低限の場合だとイエローゲルとゼライムゼラチンとゼライムパウダーがあれば大丈夫。プリンを作る道具、ボウルとかプリン型とかは持ってれば成功率が上がる。プリンを作れる準備ができていれば魔法結果を少しずらすことができる、みたいな感じ。プリンという言葉から連想するもの、ある程度近いものが出ることが多いけど、時々すごく変なものになる。
人形はハズレだからコストは変わらない。なんでこんなのだけ本気で作るんだ、みたいなガッカリ要素も含まれているのかも。」
「なるほど、その3つならあんまり高くはならなそうだね。
ゼライムゼラチンもゼライムパウダーもゼライム系の素材だし。イエローゲルはモンスターレベルはやや高いけどハズレ素材なはずだし。」
「そうね、道具は使用回数には制限があるものが多いはずだけど、魔石などを使うものでないなら使用制限回数は多いでしょうし。よほど特別な素材を使っていなければ材料代だけを考えていればよさそうね。」
「らー。安くて便利。ただし味は落ちる。
今回は普通のプリンができたから当たり、かな。この材料で普通に作るよりはいいものだし。」
「ふむふむ、普通の食べたくて作り始めたのに大きいのができたりしたら食べるの大変そうだし、少しだけ不便かもね、その魔法。まあ材料より大きいのができるなら当たりなんだろうけど、あたしみたいに残すのもったいないから全部食べようとかやるならけっこう大変そう。」
「小さい物ができてしまった場合には、もう一度作ってみることができるなら問題はない、のかしら。」
「らー。事前に着替えるのが一番手間かかるから、着替えたあとの作る部分は2回やっても大丈夫、あんまりかわらない。材料もたくさんあるから問題ないし。
金属とかぬいぐるみとか、普通は食べられないものができることもあるから、何回か試すつもりでいたほうがいいかも。」
「なるほど、それなら大丈夫だね。
そんで、今日の朝にしていた話題、魔法と錬金術の違いについての話、にこのプリンが関係あるの?おいしいのはわかるけど他の意味があってもわからないから説明ほしいな。」
「魔法と錬金術の違いは、再現性の違い、かな。
魔法は自分の立ち位置からの位置関係をもとに公式を組んでる物が多い、または自分が出来ることできないことをもとに普通じゃない結果を引き出すために魔法という異物を混入させる、そんな感じ。道を外れるのが前提って感じ。
今回みたいな料理の道具をそろえて、本来あるべき、普通に進んだらこうなるっていう結果、それを前提として魔法という追加要素を加えることで道を外れる、っていう感じだね。
それに対して錬金術は、充分な材料と正しい方法で加工して、当然あるべき結果へ導く。
最後まで道から外れないから、同じ道を進めば誰でも同じ結果へと進める、はず。そんな感じ。
正しい方法って言うのが拡張現実、つまり通常では通用しない方法だったりもするから、魔法とあまり変わらなかったりもする。
でも、だいたい普通の料理とかと同じくこうやったらこうなるって決まりきった結果を出すのが錬金術って感じ。その方法が普通はやらないような変な行動が入ってたりするだけで。」
「うん、なるほど。料理もレベル低い人だとわけわかんない結果になることもあるけど、だいたいは材料と方法がまったく同じなら同じような物ができるはずだから、錬金術はそんな感じってことかな。」
「らー。錬金術はだいたいそんなかんじ。ちょっと料理に似てるかも。
魔法だと絶対座標で定義してある魔法と相対座標で定義してある魔法で違ってくる。
例えば誰かに手助けを頼む場合を考えると、
絶対座標で『帝国中央図書館にいる職員にお金を払って仕事を依頼します』、って言う魔法があったとしたら、ほかの人がやってもだいたい同じ結果になる。触媒と魔力と呪文が間違ってなければ。」
「ふむふむ、つまり帝国中央図書館にお金をいっぱい持っていけば仕事を受けてくれる人はいるってことだね。職員の中で誰を指定するかとか持っていく金額とかで結果は違うかもだけど、職員に手伝わせるっていうところまでは実現できるし再現できると。」
「らー。そんなかんじ。
それに対して、相対座標の魔法だと、例えば『私の姉に依頼する』、みたいな呪文になる。私の姉、という定義で示す物がそれぞれ術者によって違うから、他の人が唱えれば結果は当然違ってくる。」
「あー、その人にお姉ちゃんがいるかもわかんないし、いたとしても、そのお姉ちゃんに頼めることかもわかんないから、結果は違うわけだ。術者が最初の人と兄弟じゃない限り、普通に別の人だもんね。」
「らー。そんなかんじ。
騎士団魔法とか、宗教魔法とか、団体で共有する相対魔法の場合は自分達の立ち位置、立場をある程度の範囲におさめてあるという前提でそこからの相対位置で定義してある魔法が多い。だから、組織の中では丸暗記で術者を増やせるけど部外者は使えない魔法、みたいな便利なことになる。
調べたら身内扱いになるみたいな罠を仕掛けることもできるから、設定するがわは立場が強いね。
だから、物理が王道、魔法が邪道、錬金術は獣道、みたいな言葉もある。
物理法則も計算に入れた魔法とか、逆に錬金術や魔法の技術を取り入れた剣術とかもあるからあんまり意味はないかもしれないけど。」
「なるほどー、ってあんまり意味ないのね。
それならとりあえずプリン食べようか。いただきまーす。
むっ、これはかなりおいしい。魔法で作る物って最低限の性能なんじゃなかったっけ、今回は錬金術だから違うの?」
「らー。最低限の性能なのはまちがってない。
プリンはいろんな種類があって、今回の魔法はランダム要因を種類を決定する要因として作るようにして、そのかわりに品質自体は標準レベルに収まるように、っていう感じになってる。
だから、上質なものよりは下だけど低品質なものよりは美味しい、はず。ゼライム素材はいろいろ省略できたりする便利な素材だけど、その分品質はかなりおちるから、ゼライム素材のマイナス修正がかからないだけでも普通に作るよりいい結果になるかも。」
「つまり簡単に言うと、作るのも簡単でおいしいものが作れるすごい魔法、ということで合ってる?」
「らー。あってる。おいしい。
乱数を試すついでに作った副産物だけど、プリンはおいしいから食べる。
メタルフィギュアは食べられないから余る。」
「ああ、これか、金属製の人形だね。
おもちゃにしてはすごい重いし、飾っておくものなのかな。」
「むー。そうかも。」
「あ、でもこの人形の服装は前回見せてくれた白ちゃんの服に似てるんだね。この前プリン作った時にも着ていたやつ。色がついてないからピンとこなかったけど。
スカート部分とかはほとんど同じ形だ。」
「らー。体形が違うからデザインも多少ちがうことになるのかも。モデルはたぶん同じ。」
「ふむふむ、これはこれで面白いかもね、ハズレを狙うのも良いのかも。狙って当てられるくらいの確率なのかは知らないけど。」
「むー。ハズレの中ではかなり出にくいけど、ハズレの確率は高めだから、人形とかが出るのも想定内なら簡単。フィギュアだけ狙いならプリンがたくさん副産物でできるから難しいかな。」
「食べ物を無駄に作るのはもったいないしねー、確率低いなら狙うのは難しいか。」
「らー。そうだね。
さっき失敗でできたブラッドソーセージはどうしようか、食べればたぶんおいしいとは思うけど、夕食は買ってあったはず。」
「うーん、今回はお弁当が大きいから要らないんじゃないかなー。あたしは今回はパス。みやっちも例によっておすすめメニューを断れなくて大盛りを買ったみたいだし、おかず追加するほどじゃないよね。」
「ええ。充分おなかいっぱいになりそうな大きさだったわ。」
「むー。わたしもサンドイッチが大きいから充分すぎる。
だれかに差し入れもらった時にお返しで渡してみる、かな。食べるかどうか知らないけど。」
ブラッドソーセージはマリアさんに渡されたけどあんまり好評ではなかった様子。でもそこそこ回復源にはなったらしい。