しりょうまほうのじっけん
黒い封筒を開き、黒い紙に記された手紙を読み始める。
ドクロ型の封蝋が異様な雰囲気を出している気がする。
「むー。黒い紙に黒い文字は、少し読みにくい…。」
「白ちゃんおはよう。
あれ、白ちゃんが手紙読んでる、珍しいね。本を読んでいるのはよく見るけど。」
「み?はーたん、おあよー。
魔法学校から呼び出しの手紙もらった。召喚魔法について相談したいって。
お菓子いろいろ同封されてたから、呼び出しにこたえて行ってくる。」
「ああ、そういえば白ちゃんは行ったことあるんだったね、魔法学校。
今回は時間かかりそうな用件?」
「むー、たぶん眠くなる前には終わると思うけど、長そうなら途中で中断して帰ってくる。遅くても暗くなる前には帰る。」
「そっか、それなら安心だね。行ってらっしゃい、気をつけてね。」
「いってくるー。
皇立魔法学校までげーとの魔法で移動ー。」
・・・・・
「にゃー、ひさしぶり、いろいろ送ってくれてありがとう、受け取った。」
「スミシーさん、お久しぶりです・・
ジェーン、またの名を腐った右腕です・・
魔法学校でお会いして以来ですね・・
ロッサさんはまだ家での交渉が終わっていないので寮に帰ってきていません・・
ところで、手紙は読んでいただけましたか?」
「らー。読んだよ。
手紙で頼まれたじょーほー確認するね。
シミュレータ内でのゾンビ召喚のための瘴気の再現の依頼。
瘴気は闇の魔力とは少し違うんだったね。」
「はい、同じ意味ではありません・・
瘴気、それは地上世界のネクロマンサー用語においては、感情や意思がこもった魔力残滓、その方向性が無秩序、混沌とした状態を指します・・
なので、瘴気を再現するなら、大量の魔力を放出すること、その魔力が整っていない、方向性が乱れていることが必須です・・
自分の魔力なら闇の魔力でいいんですが、場の力を使うなら瘴気のほうが少し都合がいい感じですね・・
あらためて、先ほど送った物とここに用意したものの価値の範囲内で、そういう意味での瘴気の再現を依頼します・・」
「らー。契約の範囲、贈られた代償の価値、ゾンビパウダー7袋とお菓子いろいろ、あとランダムスイーツボックスいろいろとサンドイッチと銀貨百枚分、その範囲内での瘴気の再現を引き受ける、ただしわたしの呼び出しコストぶんはあらかじめ引いておくね。」
「感謝します、さっそくお願いします・・
実験空間の予約は取ってありますので・・」
・・・・・・
魔法学校内の多目的研究室から『実験空間』へと入る。
幸運の町などにあるバトルコロシアムと同じような仕組みだが、より広範囲の仮想空間が作られていた。
同じ空間のどこかにはほかの利用者がいると思われるが、遠いのだろうか、ほかに人の気配は感じられない。
「では、ここでお願いします・・
仮想空間から出た時に身体的な負傷は回復しますが、疲労や精神までは回復しないのでご注意ください・・」
「らー。それは知ってるから大丈夫。
それじゃ始めるね。
闇に近くて闇ではなく混沌としている瘴気か。
こんな感じかな?方向をつけて変えながら少し放出ー。
予定量までは行ってないから、ここから入れかたをかえてみることもできるけど、今のまま続ける?」
「もう少し邪念、雑念がある方が良いです・・
食べたいもの、欲しいもの、憎いもの、羨ましいもの、今手が出ないだろうものなどのことを考えながら放出していただけますか・・」
「むー、それなら、こうかな?」
「素晴らしいです、充分な混沌とした魔力です・・
これだけの瘴気があれば、ケントゥリアくらいまで狙えますね・・
挑戦してみます、視界の通る限り遠くで発生させるので、指示が通らない場合は避難してください・・」
『百を数える軍勢の
ふるう力を見てみたし
隊に加われ腐死の雄
招く姿が見えたなら
来たれ今こそ我が下へ』
『死霊術・遠隔魔法・喚起・百腐隊』
「そして行動指示・行進・・
予定通りのバラバラな行動、見事な成功です・・
多少は移動方向を制御できていますし・・」
「百体まではいってないみたいだね、ほとんどがゾンビとゾンビドッグ、少数がスケルトンかな。
スケルトンだけ指示が通ってるみたいだけど、ゾンビドッグはスケルトンの骨を噛みたくて追いかけているしゾンビは動くものを襲うから結果的に指示通りの方向に進んでる感じ?」
「そうですね、下位のアンデッドに人間とアンデッドの区別をつけさせるのは難しいから仕方ないことです・・
ゾンビだけ、スケルトンだけのように一種だけ召喚するなら自分と似ていないモノを襲え、である程度は同士討ちを避けられますが、今回のような無差別な喚起だけの場合は同士討ちは必然的に起きるものですから・・
あまり実用性はないですが、それをいったら最初から死霊術には実用性はないですから問題はないです・・
たくさんのゾンビが行進している姿をじっくり見ることができる、すばらしいものです・・
同類同士で戦っていたり獲物を探して孤立するところもかわいいものです・・
欲を言えばもう少し近くから見たいものですけど、自分を攻撃対象から外すことはできていないので、これ以上は危険と判断します、噛まれる経験もしてみたいですけれど、今回は断念です、観察に専念します・・」