かめのぜりーとなまくら。
帝国中央図書館、地下食堂。
みやはゼリーのようなものを一口食べた後、顔をしかめた。
「み?どーしたの?変な味だった?」
「これ、なんだか、なんと言ったらいいのかしら。生臭いというか苦いというか、なんとも言えない味がするわ」
「それ、おすすめメニューのランチだったはずだけどそんな変な味するの?」
「ええ。失敗だったわね。おすすめメニューはこういう変わったものに当たるのもよくあることだから。それでもすごくおいしいものに当たることもあるからやめられないのよね」
「それは残念だったねー、おいしいものを食べるために食堂に入ってるのにおいしくないものだったらがっかりだよね。そういえば、みやっちはおすすめメニューから選ぶこと多いよね、そんでけっこうハズレも引いてる。でも生臭いゼリーっていうのは初めてかもね。ところで、そのゼリーって、結局そのすごく変な味のが普通の味ってことなのかな?料理のスキルが低いとか材料が悪かったとかで失敗したのかな?」
「もしこれが普通の味なんだとしたら、味以外の理由でおすすめなのかもしれないわね」
「むー。鑑定スキルで調べてみた。亀ゼリー。亀ゼリーなら、いろいろふしぎな材料を使うしへんな味でもしかたないかも。こっちではたべたことないから、じっさいどうかは知らないけど。亀系モンスターの素材と非実体系モンスターの素材とゼライムの素材、ほかにもいろいろ混ぜてゲル状にしたものを組み合わせて作るから、ゼリーっていう形態だから定義上の分類がお菓子なだけで、おいしくなりそうな材料は使われてない、だから、ふつうにかんがえればへんな味になりそう。味を気にしなければたぶん問題はないんだろうとは思う。たぶん普通につくったばあいだと眠気に耐えられる限度が一時的に増える、あとは気力の消耗が少しやわらげられることもあるかも。たぶん、亀と戦う人がいっぱいいるから、亀素材が余りぎみ、そのぶん安くなる、だからねだんのわりには強化効果がいい感じ、だからおすすめ、じゃないかな。亀と戦う人がいっぱいいる理由がなぞだけど。亀は体力がものすごく多いから時間かかるし、倒しやすいモンスターではないはず。だれかが素材集めを依頼しているとか、そういうことがあるのかもしれないけど。たぶん、甘くすることもできるんだろうし、おいしくなるように作る方法はあるんだろうけど、まだそーいうものがひょうかされる段階まで行ってない、いかないのかも」
「なるほど、味はともかく食べるメリットはあるわけだ。でも、デザートが「味を気にしなければ」って注釈がつく時点で許されないと思うのはあたしだけじゃないはず」
「そういわれてみれば、たとえばカルフェは何を入れるかで味が全然違うものになるわね。ミルクやシロップをたくさん入れれば甘い飲み物になるでしょうし、カルフェだけで飲むなら苦いものになるでしょうし。作り方によってそのくらい違いが出るんだったら、どれかは好みの味になるのかもしれない、でもまだそういう違いが出てきてないんだとしたら…。それならもとの味が好きな人にとってはおいしいけど、それ以外の人にとってはおいしいものではないということになるわね」
「らー。そして、まだもともとの味を知らない人がいっぱいいるし、味の変更、改良をする意味があんまりない、と思う。もしかしたら、じぶんでおいしいのを食べたいから改良をする、っていうひとがいるかもしれないけど、あんまり期待はできないと思う」
「うーん、まあ眠気を一時的に飛ばすくらいの効果だったらガムとかで充分だし、好みの味のものを探すことだってできそうだもんね。わざわざおいしくないってわかってるものを食べなくてもよさそう。毒消しとか体力回復とかだったら多少味がおかしくても効果が高いもののほうがいいだろうけど。クッキーやパンみたいなものなら片手でさっと出してかじるということもできるだろうけど、ゼリーはそういうこともしにくいから、急いでいるとき、非常時には逆に使いにくくなる。だから、あんまり実用性はないってことになるか」
「むー。がんじょうな袋みたいなものに入れておいて吸うとかいう方法はあるかも?でも、そこまでする必要はないっていうところはたぶん変わらない」
「うん、やっぱりガムでいいんだったらガム噛んでたほうが楽だよね。噛んでる間はほかのもの食べれないところが困るかもしれないけど。しばらくはおすすめのデザートは選ばないほうがいいかもしれないね、なにが出るのか指定できない場合は」
「らー。そうだね。亀がたくさん狩られているあいだは亀ゼリーが出そう。亀肉は料理のしかたが良ければたぶんおいしいかもしれないけどよくわからない。食べたことないし、本の情報でも効能の話はあるけど味の話は出てこない感じ」
「うん、たぶん普通の料理方法ではおいしくならないんだろうね。簡単においしい料理になるんだったらしょちょーか誰かが狩りに行ってそうだし。普通の人が鍛えればなんとかなるくらいのモンスターだったら簡単にやっつけちゃいそうだから、倒しに行ってないってことは地下ではおいしいものが取れないか普通に買いに行ったほうが早いくらいの難しさかってとこじゃないかなー」
「所長はお酒をがまんするために地下に保存しているって言っていたのに、地下に降りて行ったら本末転倒じゃないかしら」
「あ、そっか。言われてみれば、普段しょちょーは飲んでないもんね。まずドワーフが図書館を管理してるってのが意外って言われるけど、そっちも意外っていえば意外かな」
「ふつうのどわーふのひとにはお酒はみずみたいなもの、またはゴーレムにとっての魔力とかそんな感じ?ふつうはあるていど補給しないといけない、すききらいの問題じゃない、そんな感じかも。ふつうのお酒でにんげんのひとみたいによっぱらうことは、ふつうはないはず。のんある属性のお酒だと酔っぱらう」
「うーん、つまり、お酒が好きだから飲んでるわけじゃなくて、必要だから飲んでるってことなのかな?」
「らー。たぶんそうだと思う。でもお酒が苦手で飲んだほうが体力減る体質の場合もあるらしい。わたしも普通のエルフならたぶんふつうのお酒では酔わないはずなのに酔ってたことあるから、たぶんドワーフのひとにも個人差はあるとは思う」
「ああ、勇者の話でお酒苦手なドワーフがいたっていう話だったよね」
「らー。あの話に出るドワーフのひとの場合、たぶん錬金用語の火気、火のエレメント、色つきの魔力みたいなものが過剰にたまる体質?人間のひとにたとえると、たぶん普段がよっぱらいみたいな状態で、それ以上にお酒を追加すると調子悪くなる感じじゃないかなと思う。双魔剣ナマクラは過剰なエレメントを使うための道具という意味もあるんじゃないかなと思う。たぶんものすごく魔力効率が悪い素材が使われているはず。逆にいえば過剰な力を放出するにはべんり。ドラゴンブレスと同じようなもの、かも。廃品利用な感じ?」
「ドワーフなのに魔力がたまりすぎるっていうのも意外な気がするね。ドワーフって言ったら肉弾戦特化ってイメージだし。でもドワーフっていったらいくらお酒を飲んでも平気な顔してそうなイメージあるから、お酒飲むと調子悪くなる、って言われれば普通じゃなさそうだっていうのはわかるけどさ」
「ドワーフのひとは魔法っていう形で魔力を使うのは苦手な場合が多いけど、魔法の武器とか、そういうのは作るのも使うのも得意な場合が多いかも。だから、ある意味ではまほーが得意といえるのかもしれない」
「ああ、言われてみれば、魔法に詳しくないなら魔法の剣とかは作れないだろうから、ドワーフの鍛冶屋さんも魔法には詳しいのか。魔法に詳しくて普通の戦いも強いなら仲間にいれば心強そうだなぁ。冒険者とかやるんだったら」
「らー。なかまに一人いるとたぶんすごく頼りになる、と思う。獣人のひとも独特な感覚や能力を持っている場合が多いから、獣人のひととドワーフのひととにんげんのひとがそろうとバランスはいいかも」
「なるほど、それぞれ弱点とか特技とかバラバラなほうが、一撃で全滅、とかは防ぎやすそうだよね。だれか一人が上手だったら充分、っていうこともいろいろありそうだし。まあ逆にバランス悪いほうがいい場合もあるんだろうけどさ」
「らー。そうだね。ときとばあいによる、かも。だから、あんまり気にする必要もないかもしれないね。合わなければ別の人と組んでもいいんだろうから」
「新しい仲間を探すのもいろいろと難しそうな気もするけど、必要なら探すしかないんだろうね。っと、しゃべってて食べるの止まってた、とりあえず食べてから話そうか」
「らー。そうだね。みーたん、そのゼリー残すなら食べてみていい?」
「え?ええ、私はもう食べたくないから構わないけど、本当に変な味だったわよ?本当に食べるの?」
「らー。たべるー。食べてみると、どのくらいすごいあじなのかわかる。……ふしぎな味だね。甘くはない、けど、どう表現していいのかよくわからない。ざらざら、どろどろ、ぱさぱさ、かちかち?」
「白ちゃんがおいしいって言わない、ってことは相当すごい味なんだろうなー。試す気にはならないけど。普通のお菓子の感想では出てこないような表現だし」
「私は口直しになにか買ってくるけど、なにかほしいものはあるかしら?」
「あ、それならあたしにも口直しなんか買ってきてー。あたしは別にまずいもの食べてないけど」
「にゃー。それならあまいものおねがいー」
「それじゃ、3人分買ってくるわね」
「よろしくー」
「にゃー。よろしくー。……むー。やっぱりへんな味」
「白ちゃん、それ全部食べ切らなくてもいいんじゃない?味はわかったんだし、おいしいわけじゃなさそうだし」
「み?食事、捕食は自分の領域に獲物を入れる、捕食者の支配する空間、圧倒的に有利な状態。それを困難にする、味が悪いというのは、ある意味では長所として成り立つ、かも。味覚があるタイプのモンスターなら、撃退のための道具として役に立つ、かもしれない。だから、じっけんのためにたべてみてる、そんなかんじ。へんな味だけど、これはこれである意味おもしろいかもしれない」
「うーん、なんだろう、食べた相手を困らせる、狩人が使う毒エサみたいな感じってこと?まあ白ちゃんがおいしいって言わないお菓子っていう時点で充分普通じゃないから問題はないのかな」
「らー。たぶん、特定のモンスターに対してはすごく効果があるかも。甘いもの食べたい」
「うん、みやっちを待とうか」
「らー。待ってるー」
次回はパソコン修理と回線引き直しが終わってからなので当分あとになると思います。