すけっとしょーかんと、ぞんびのはなし。
店の敷地の奥の空き部屋。
魔力で描かれた召喚魔法陣に、二人の男が現れる。
「お手伝いしてくれそーなひとしょーかんの魔法陣、召喚成功ー。やっぱり念入りに解呪したあとだと魔法陣の調子もいい感じがする。」
「あれ、もしかして、この人たち、焼き鳥の時の人?ミスリルっぽい装備持ってるみたいだし。」
「らー。そうだね。グリフォンと戦ってたひとだよ。けがも治ってるみたいだね。でも召喚酔いみたいな状態になってるみたい。」
「ちょっと様子見てみましょうか。」
「らー。そうだね。」
「あいたたた、ちょっとまってな。頭くらくらするから落ち着くまで待ってくれ。」
「らー。まってるー。おたがいぼーけんしゃだから、冒険者としての礼儀で会話するのが良いと思う。らくだし。」
「ようやく落ち着いてきたぜ。普段通りでいいなら助かる。まずは自己紹介がわりに冒険者カードを見てくれ。」
「らー。わたしも子供ぼーけんしゃカードでよければ見せるよー。」
「2級ってことは、グリフォン討伐分の評価点は受け取ってないのか?まあ俺たちが口出すところじゃなかったな、すまん。ところで、エルフだったんだな。まあ人間って言われるよりは納得するけどよ。姿見せなかったのも納得だぜ。あれを倒した時の魔法もエルフの魔法だったからあんなに威力があったのか。」
「らー。えるふだよー。えるふびーむは当たると熱いらしい。でも緊急脱出にあわせたから効いただけで、ふつうだったらすごくまぶしいかすごく熱いだけ、かも。たぶん。ほかのエルフ知らないからどのくらいがエルフの普通なのかは知らない。本には情報あるけど、たぶん別のものをあらわす隠語として使われてることのほうが多いかも。だからたぶん、話で言われてるほどすごい強いってこともない、かも。」
「ああ、悪いな、なんかいろいろ事情があったんだな。あれを一撃で沈めるって時点で話以上に強いと思うぜ。」
「らー。いろいろあるからお店をやることにしたんだよ。」
「ところで、呼び出しの魔法陣っていうのは便利なもんだな。ちょっと頭がくらくらするが、村から街への移動を一瞬で済ませるのは「六つ足」でもできないだろう。」
「らー。魔法陣は便利だね。歩くと時間かかるしほかの方法も不便なの多い。でも、魔法陣も相手のところとのつながりが途切れるときもあるしそういう時は使えなくなるから、いつも便利ってわけでもないかも。使えるときはすごく便利。」
「なるほど、便利なだけというわけでもないんだな。ところで、俺たちを呼んだ目的を聞いてもいいか?」
「まず、ふたりとおはなし、じょーほーあつめ、したい。ぼーけんしゃのポーションの使い方とか値段とか?その情報で、お店でなにを売るかとか値段とか決める。」
・・・・・・
「なるほど、やっぱりグリフォンって強いんだねー。白ちゃんといるとなんか強さの基準がわかんなくなるけど。」
「話に聞いてたよりも実際戦ってみたほうが恐ろしいぜあれは。HPが底なしにあるみたいだったからな、俺らのもともとの武器では時間稼ぎ、って言っても周辺でうろちょろして邪魔なのがいるなくらいに思わせるくらいが限界だっただろうな。余波だけでHP削られるし少しでもミスれば装備や体が削られていく。そのうえ相手は雑食だからそのへんのガレキでも食ってれば回復するみたいだし。どうしようもねえな。」
「むー。グリフォンはHPが極端に高いのと回復量が高いのが特徴、そのぶん空腹になるのも早い、から、食事の邪魔を長時間続けると撃退できる場合がある、だったかな。普通に倒すなら、判定回数が多い技とかが良い感じ。ブレス系と乱打系が良い感じかも。クリティカル耐性は高いから暗器系とか暗殺系とか細剣系とかはあんまり向いてない、と思う。だから、あの時の武器はある程度効果があったのかもしれないと思うけど、あれから普通の仕事でのつかいごこちはどうかな?」
「調子は最高だぜ。研ぎなおしはできないみたいだけど自然修復でなんとかなってるし、武器が壊される心配がないのが良いな。闇属性に強いみたいだからスケルトンやゾンビ討伐の依頼で稼がせてもらってるぜ。」
「弓のほうも文句なしだ。普通の矢でも破魔属性が付くし威力も段違いだからな。」
「銀色だし強そうだし、たしかにゾンビには効きそうだね。でもゾンビとかスケルトンって、きついわりに報酬すごい安いので有名なんじゃなかった?あたしでも聞いたことあるくらいだよ。」
「安くてもゾンビやスケルトンは始末していかないとどんどん増えるという話だし、誰かは貧乏くじを引く必要がある。安くてもそのうち誰かがなんとかするしかないんだから仕方ないが。」
「たしかに報酬が安い依頼だと思ってたが、この斧を使ってからは簡単なわりに儲けが大きい依頼って感じだな。強い武器があると簡単だから安いのかもな。」
「らー。たぶんそうだね。つけくわえるなら、アンデッドは多くの場合もとの生き物より強い、アンデッド化しにくいように処理するのは比較的簡単、だから、アンデッドの討伐が割に合わない仕事だっていうことになってれば、アンデッド化しないように死体の処理とか瘴気の浄化をするようになりやすい。アンデッドからとった素材はある種の用途に使うことを忌避されるとかそんなかんじの理由もある。需要と供給な理由と、需要を増やしちゃいけない理由?あと、その武器は壊れにくいとは思うけど、壊れないってわけではないよ。限界超えれば普通に壊れる。」
「まあ普通に考えればゾンビ化したモンスターを倒すよりも普通のモンスターを倒したほうがいいもの取れるよね。獣系だったら肉が取れるだろうし、毛皮とかだって普通のモンスターのほうがきれいなの取れるだろうし。」
「銀の武器や祝福がかかった武器などが効果的、というのは常識だけど、それでも「割りに合わない仕事」なのよね。」
「まあしぶとい、群れる、グロい、臭い、そのうえぱっと見で強さがわかりにくいから返り討ちに合うことも多いとくれば、おいしい獲物ではないよな。この斧があれば一度攻撃当てればその部分は破壊できるみたいだからラクなもんだけど、ふつうの武器では相手にしたくはねえな。」
「らー。おいしそうではなさそうだね。」
「スケルトンとかは骨だから強いかどうかとか見た目ではわかんなそうだよね。アンデッドにするときの魔法の強さとかいろんなのがあるんだろうから、もとが強い生物だから強いとそのまま決まるわけじゃないんだろうけど。
ところで、モンスターの話もいいけど、そろそろ仕事の話したほうがいいんじゃないかな?」
「み?そういえばそうだね。
説明。薬屋さんしようと思った。なんかあったら呼んでくれって言ってくれてたひとに順番に声かけてた。一番先に返事してくれた二人を呼んだ。そんなかんじ。じょーほーあつめ、近くに冒険者のひと多いみたいだから、ぼーけんしゃの立場でポーションとかどのくらいの価値があるのかなーって聞きたいと思った。あと、店員も足りないからそっちもぼしゅーちゅー。」
「ヒマだって言っちまった手前断れねえな。もともと断るつもりもないから引き受けるよ。お前も当然引き受けるんだろ?」
「もちろん俺たちで役に立つなら引き受けるが、話するだけならともかくこいつが店員として役に立つかどうかは疑問だ。金勘定はどんぶり勘定しかできないし、客より詳しい説明もできないだろうし。力仕事でもあればいいんだが薬屋ならそれほど重いものを扱うこともなさそうだしな。」
「お前だって似たようなもんだろ、俺よりは頭いいけど。」
「俺にはこの弓があるから、いざとなればこいつの力を借りれば詳しくなれる。」
「あ、お前だけ使う気かよ、まあこの斧持って接客ってのもおかしいけど、弓だって薬屋の店員が使うのは変だろ。」
「詳しくなれるって、そんなスキルついてるんだ、その弓って。そっちのお兄さんの斧も同じってこと?」
「ああ。モンスターの弱点を予想してくれたりアイテムの簡易鑑定してくれたりしていろいろと便利だぜ。手に持ってる時しか効果がないから店とかでは使いにくいけどな。」
「鑑定まで?便利な機能が付いてるのね。」
「むー。ちょっとびっくりだね。」
「あれ、狙って付けたわけじゃないんだ?そういえばランダムの巻物って言ってたから偶然当たっただけかな。」
「らー。たぶん、装備改造のスクロールを使った時の材料にスクロール自体が使われたあつかいになったってことかも。合成系のスキルで作った装備は時々材料のスキルを引きついだりするらしいし、スクロールにつけてた解説機能が引き継がれたのかもしれない。でも、そんなに便利に使えるような機能じゃなかったと思うから、よくわからない。便利なんだったら問題はないと思うけど。」
「ふむふむ。だいたいわからないけど、予定よりなんか強いのができました、ってことかな。」
「らー。そんなかんじ。もともとランダム性が強い魔法だし、そんなことも普通にあるんじゃないかな。」
「当たり引いたってことか!運が良いな俺ら。」
「アレが相手で生き残ってる時点で運は悪くはないだろう。普通なら助けを期待できる状態ではなかったしな。」
「焼き鳥の情報が送られてきたおかげ、それと依頼のしかたが良かった感じかな。さいしょに撃退、って言ってたら撃退成功と判断して目つぶしの魔法はしなかっただろうし。足止め、だったから失敗しそうだと思って声かけた。」
「エルフの情報網ってやつなのか?グリフォンを焼き鳥あつかいってのはどうかと思うが、圧倒的な能力を持っていればそのくらいなのかもしれないな。撃退じゃなくて足止めって言ってたのは、もともと撃退成功するとは思っていなかったからだな。時間稼ぎ1刻するっていう目標だってかなり欲張って言っていたくらいだ。普通に戦っていれば四半刻もたたずに完敗していただろうから1刻でも高望みだろう。もちろん1刻かからずに撃退できたなら、「足止め以上の成果」だから問題はなかった。結果はまさかの完勝だったが。」
「み?エルフじょーほーじゃないけど、エルフのまほーのじょーほー、かもしれない、よくわからない。ポーションが少ないんじゃないかなとは思ってたけど、そんなにおいつめられてたの?」
「攻撃避けててもどんどんHP削られていくくらいには追いつめられていたな。ポーションの連用していたから効き目がなくなってきていたのもある。手持ちが残り少なかったのもあるが。」
「そういえばポーションはあんまり飲みすぎるとあんまり効果なくなるんだよね。のんびり回復するヒマもないときは飲むしかないんだろうけどさ。」
「そうなんだよ。俺たちが普段買えるのはB級くらいが限界だし、痛覚軽減のスキルを使えば少しは動ける程度だったな。」
「み?それなら、普段買いにくいA級ポーションをお礼にしたほうがいいかな。今日のおはなしのぶんの。いくつほしい?もっとほかのが良いならほかのなにか出すよ。」
「いやいや、話しただけでA級ポーションとかお礼にしちゃ大げさすぎだろ。買える値段なら買いたいとは思うけど、タダでよこせとは言わねえよ。」
「むー。それじゃ、お店の売値より安く買えるようにするのがお礼ってことにすればいいのかな?」
「おう、それなら助かる……A級も売るのか?」
「らー。とりあえず初日はA級まで売る予定。B級までならいろんな店で売ってるみたいだから、A級も売るほうがいいと思った。たぶん、ふつーの薬屋のひとが作れるようになるのもそう遠いことじゃないはず。あとで値段決めてから注文取るね。」
「そうか、楽しみにしてる。」
「そういえば、A級ポーションも『普段買えない』くらいなんですね。普段じゃなければ買える、時々掘り出し物として買うことはできる、くらいということですか?」
「ごくたまに掘り出し物として売ってる、あとは他の冒険者協会から取り寄せてもらうこともできる。取り寄せだともともと高いのがもっと高くなるけどな。」
「み?やっぱり、すごく高い?」
「ああ。前回買ったときとはほかのものの値段も違うから単純には比べられないが、B級を協会価格の冒険者割引後で銀貨20枚で買えた時掘り出し物で500枚だった。B級10本分より安くなることはないと言い切ってもいいはずだ。今だったらB級が200枚だったかそのくらいだったはずだから、何千枚って出さないと買えないだろうな。効き目を考えれば値段相応の効果はあるんだが。」
「Bが10倍になってるからAも10倍、と単純計算できるとすれば5千枚相当ということかしら。数えるだけで一日かかりそうね。」
「そーいうときのために商人スキルで早く数えるわざとか天秤ではかるわざとかある。でもそれをごまかして自分に有利にする方法もあるから、信用できる相手と取引しないといけない感じ。わたしは新しくてあやしげな店をやるから、そのぶん安くする必要がある。安いってことはさらに怪しいってことだから、あんまり売れないとは思うけど。」
「安いことはいいことだー、ってわけじゃないんだね。」
「らー。いいことなんだけど、安いってことはなんか変な材料使ってるんじゃないかーとか疑いがあっても普通。じっさいへんな材料で作ってるのはたしかだし。」
「まあ白ちゃんの場合は作り方も簡単にしてるから、たしかに普通ではないだろうね。」
「らー。だから安くしてみる。」
「なるほどー。冒険者のお二人はいくらくらいで売るのがいいと思う?」
「俺たちの立場では安いほうが買いやすいだろうなとしか言えないな。具体的に言っていい立場ではない。」
「み?それじゃ、みーたんとはーたんはどのくらいで売るのがいいと思う?」
「うーん、白ちゃんの感覚だとかなり安すぎになる予感がするから、ちょっと高すぎるんじゃない?って思うくらいでいいんじゃない?」
「高めにするなら、A級が買えない人もたくさんいるでしょうから、そういう人のために安くて効果それなりのものもあると良さそうだと思うわ。お店に行ってひとつも買える物がないというのもさみしいでしょうし。」
「らー。ぼーけんしゃ協会より安い、でもちょっと高すぎるかなって思う値段で、安いのも売る、だね。あとは、接客用に丸太イスを置いておいて、私はイスの上にたつ、みんなはすわればどっちも同じカウンターで接客できるかも。」
「ああ、まあそのくらいかな、白ちゃんは身長小さいもんね。」
「らー。丸太は壊れにくいから、イスの代わりに使いやすい。そんなわけで、イスとかカウンターてーぶるの準備してくるね。」
「力仕事か?手伝うぜ。」
「にゃー。それじゃいろいろおねがいするー。」
「おう、まかしとけー。」