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へんなそうびとドラゴンのはなし。

 「ねえ、白ちゃん。

 昨日の神官っぽい人みたいなのって、また来ることもあるのかな。

 ちょっと危ない相手なわけでしょ。鍵とか新しくしたほうがいいってこと?」


 「み?

 べつに行動を変える必要はない、かな。

 鍵もそのままでいいと思う。」

 

 「そうなの?」


 「らー。

 今、この部屋を含めて帝国中央図書館の仮眠室はだいたいおなじような鍵がかかってる。

 ひとが中にはいっている状態で扉を閉めて鍵をかけると、ある程度の時間だけ外からは開けにくくなる。

 でも、中からは簡単に開くから、ノックで開けさせるとかそういう方法に対しては無力。

 だから簡単に開けられたっていうこと。この部屋は長期契約で確保してるから他よりちょっと鍵の強度と制限時間が長いだけでしくみは同じで弱点も同じだからしかたない。

 ほかの方法の扉にかえることもできるけど、どの方法もそのぶん短所がある。

 たとえば『小精霊のノック(トリックノック)』を防ぐんだったら、扉をノックの音が通らないくらいの防音扉にするか、精霊や迷霊も入れないくらいの『聖域』、この場合は空間魔力密度が極端に低い空間のこと、それにしておくなどがある。

 ノックの音が通らないっていうことは侵入を試みられていること自体に気づかない恐れが出てくる。ある程度音を立てていいなら扉を破壊する方法も使えるし。音を防ぐってことはそういうのにも気づきにくくなる。

 聖域を展開するならなかでごはんとかふつうに食べられなくなる、食べるときに儀式とかの知識がないと聖域を崩すことになるから。だから、聖域は長くは維持できないことになる。

 そのふたつよりすこしいいかなと思う方法に結界とか隠蔽とか防壁があるけど、ちょっと知識があれば簡単に開けられる程度のしかかけられないから、ちょっとした時間稼ぎにしかならないのは同じ。

 隔離図書館のほうに住むっていう方法もあるけど、まわりの情報が少ないからこっちも少し不安がある。

 実際だれかに攻撃されたときはどれかを使うしかないんだけど、すごくいいって感じの方法はない。

 だから、いまはあんまりやることない。」


 「つまり、なんかいろいろ方法はあるけど破られるときは破られるってことね。鍵を閉めれば安全と言い切れるわけじゃない、でも、いまのところは対策取りようがない、鍵を付け替えてもあんまり意味はないってことか。」


 「らー。そういうこと。

 防衛側は、相手がわかりやすく敵対行動をとってくれればいろいろと反撃できるけど、そうでない場合は自分から動いても有利にならない場合が多そうなかんじ。

 防御方法は、想定する敵の攻撃を詳しく予想して集中的に固めればそれに対しては強くなるけど、ほかの攻撃に対しては強くならない。

 だから、比較的簡単で目立たない感じの鍵をかけておいて、その鍵が破られるまでのあいだに対策をたてるっていう行動は今までと同じになる。

 前回の襲撃で経験した情報で少し対応は早くなるかも、っていうくらいの違いはあるけど、だいたい同じ。

 だから今までと同じ程度の安全性だからいつもどおりでいい感じかな。」


 「なるほどね。部屋の中はある程度安全だけど完璧なわけでもない、って思っておけばいいんだね。

 それじゃ、部屋の外はどんな感じ?今日はもともとの予定だと戦い方とかの訓練する予定だったんだけど、予定かえたほうがいいと思う?

 変なのがいるんだったら、部屋でじっとしてたほうがいいのかな。

 時間稼ぎしかできない扉でも、逆に言えば時間稼ぎはできるわけでしょ。」


 「スキルきたえるのは重要、だから、訓練はしておいたほうがいいと思う。

 訓練、見てみたい。魔法の訓練所は見たことあるけど、物理のほうは見たことないと思う。」


 「あ、そういえば訓練って見に行ったことなかったっけ?

 それなら、今日は訓練場いっしょに見に行ってみる?」


 「らー。いってみるー。」


 地下7階、格闘訓練場。

 硬く固められた土で作られた坂や小さな壁などがまばらに設置されている大きな訓練所と、訓練を眺めながら休憩できるカフェのような休憩用設備が隣接している。

 いちばん大きなテーブルには小さな紙袋のようなものがいくつか置かれている。


 「あ、今日の補給物資はパイだね。飲み物も残ってた、ラッキー。

 白ちゃんも食べる?ここに食料が置いてあったらてきとーに食べていいことになってるんだけど、なんか最近置いてある量増えてる感じなんだよね。予算増えたのかな。」

 

 「らー。たべる、ありがとー。

 予算が増えたか、必要だから仕方なく増やしたか、っていう感じなのかも。

 けっこう休憩してるひと多いね。戦ってる人も多いけど。」


 「そうだね、訓練ってけっこう疲れるの早いし、スキルとか使えばもっと疲れるの早くなるからね。

 スキルレベルとか本人のレベルが高ければ疲れにくくはなるらしいけど、それでもやっぱり疲れたら休憩したほうがいいよね。

 ソロ専門の冒険者とか探索者だと休憩なしでいつまでも戦えるように鍛える人もいるらしいけど、普通は無理だしそんなの。」


 「むー。たしかに、長時間耐久っていう条件を付けると、戦っても減らないような圧倒的な量のリソースがあるスキルを使うか、途中で補給しながら戦うとかを考えないといけなくなるのかな。

 捕食系のスキルを利用するという方法もあるけど、そういうのは強力なぶんリスクが高いの多いはずだし。

 あとは宗教の力、おまじないとかで一時的にそれっぽい能力をつけるとかもあるかもしれないけど、そっちもコストが高いか前提条件が厳しいかが多そう。

 だから、いろいろ難しいかもね。」


 「うん、まあ強くて簡単で安いとかいう方法があるんだったらみんな使うよね、っていう話だよね。

 だから、どれかをあきらめるか妥協するかするわけだ。

 うん、おいしいな今回も。」


 「らー。そうだね。ぜんぶを強くしようとすると、すごく目立つ材料になったりする。

 モンスターの襲撃とかを考えると、みんなが目立つ装備になればいいんじゃないかとは思うけど。

 みんなが目立つ装備なら、結果的にみんなへいぼんになる。

 にゃー。これおいしいね。飲み物はたんじぇのエードだった。」


 「なるほど、まあモンスターの襲撃なんか起きたら、見た目なんか関係ないよね。

 どんなかっこ悪い装備だって、活躍すればかっこいいってことになるだろうし。

 活躍できなかったらすごいかっこ悪いだろうけどね。

 ランク高い探索者だと、見た目面白いっていうかすごい似合ってないけどめちゃくちゃ強い、っていう人たちけっこういるみたいだよ」


 「み?

 強いんだったら、お金いっぱいで似合う装備買えるんじゃないのかな?

 わたしみたいにふつうの装備が使いにくい体質とかだったら少し難しいかもしれないけど。」


 「いや、それがね。

 迷宮って、たまにものすごく強い装備が落ちてることがあるんだって。

 でもよくわからないのも多くて、例えば、女の子用の魔法練習用のステッキみたいな見た目なのにメイスとしてめちゃくちゃ性能が良いとか、どう見ても呪われてる短剣にしか見えないのに神聖属性付いてたりするとか、ミニスカートなのに重装鎧以上の防御力とか、見た目とか形と性能が全然あってない感じのがけっこうあるらしいんだよね。

 それで、そういう変なのですごい強力なの掘り当てちゃうと、買い替えると性能下がっちゃうし、同じくらいの装備と交換してくれる人とか探すのも難しいしで、けっきょくそのまま使うことがあるんだそうだよ。」


 「むー。そういうことか。

 装備を解体して作り直すのは、普通の素材で作るのより難しいことも多いはず。

 だから、強い装備を作り直すのは難しい。

 ランダムに作り直すような魔法ならすこし簡単になるけど、貴重な装備ならランダム魔法の実験に使うのも賭けになるだろうし、それはそれで大変だろうね。」


 「白ちゃんの着せ替え魔法みたいなのが何回でも使えるんだったら簡単なんだろうけどね。変なの出ちゃったらまた材料として使えるみたいだったし。」


 「らー。そうだね。わたしの魔法は強い装備を作るのにはむいてないけど、安い材料でも作れるしいらない装備を材料に使うこともできるみたい。

 でも、やっぱり鍛冶のハンマーを使ってそれに魔法を乗せるほうが強い装備を作るのには向いてると思う。

 魔力なら設備である程度までなら外付けできるはずだし、聖剣とか魔剣のたぐいは特定の儀式をしながらじゃないとダメだったりして、わたしには手が出せないものが多い。簡単な魔法なら付けられるけど。

 だから、聖剣とか魔剣とか龍殺剣とかの強いの作るんだったらふつうに鍛冶をできる人を雇って作ってもらうほうがたぶん早く終わる。

 早いって言っても準備段階で鍛冶の技術はすごく鍛えなくちゃいけないだろうから、すごくかかるとは思うけど。

 だから、どこかで完成品がどうにか手に入らないか探すのが一番早いかも。」


 「その龍殺剣ってたまに聞くけど、ドラゴン倒せる剣って作れるもんなのかな?

 なんか最近入った新人職員たちがドラゴンキラーの伝説とか気にしてるみたいで、なんかドラゴンを倒すには何が必要かとかしゃべってたりするんだよね。

 子供のころならそういう話で盛り上がることもあったけど、大人がそういう話するのは珍しいかな、って思った。」


 「むー。よくわからない、かな。

 ワイバーンとかヒドラとかみたいな亜竜種だったらふつうに強いだけだから、倒せるかどうかは別問題だけどふつうの剣でも当てれば当たる。それぞれ体力が高いとか回復能力が高いとか攻撃回数が多いとか特徴はあるけど、無敵っていうわけではないから、攻撃をよけて回復を封じて戦い続けられるなら、ある程度強ければたぶん倒せるはず。上位種、レベルが高い個体だと固有領域のスキルとか持ってたりすることもあるけど、攻撃そのものを無効化するレベルまで達することはほとんどないはず、と思う。

 ドラゴンの場合だと、ドラゴンと戦闘状態になった時点で竜の支配する空間の中で戦うみたいな感じ?すごく不利な状態に世界のルールを捻じ曲げられてる感じ、っていうのかな。領域のすごい強いのみたいな、そんなところで戦う感じになるはず。相手にすごく有利なルールになってるから、自分にすごく有利な特性を持つとか、不利なルールを無視できる、龍と戦えるっていう特性を持った装備か体質かそういうのがないと、武器の攻撃は通らないはず。属性なしの物理で非実体タイプのモンスターと戦うようなもので、戦う前にほとんど負けなかんじ?祝福とか加護とかも特定のもの以外はたぶん通用しないはずだしそれ以前にたぶん圏外で届かないかも。弱めな魔剣とか聖剣とかもたぶん効かないんだろうね。そのくらいで通用するなら龍特効武器とかいらないだろうし。

 そういう龍と戦える、龍に攻撃したら攻撃判定が最低限起きる剣を龍殺剣っていうことが多いらしい。勝てる剣っていう意味じゃない。

 でも、うまく当てればダメージが狙えるってことだから、たぶん勝つ可能性もあるってこともあるかも。」


 「戦えるだけってことは、ふつうの剣だとぜんぜん勝ち目無いってこと?」


 「むー。

 難しいけど、たぶん不可能ではないとは思う。

 たぶん、ふつうの龍殺剣をにんげんのひとにたとえると、ショートソードくらいかもしれないし、ごはんのときのフォークとかナイフとかくらいかもしれないし、ふつうの木の枝くらいかもしれない。

 刺さるとか切られるとかしたら痛いだろうな、っていう感じで、効果的かどうかは別問題とすれば少なくともダメージを入れる方法にはなりそう、っていう感じ。

 龍殺剣じゃないふつうの剣だと、たぶん攻撃に使うことは想像もしにくいようななにかになる感じ、だけど「そんなので攻撃できるの?」っていうようなので戦うひともいるかもしれない。」


 「なるほどー。普通は無理だろうけど、なにがあっても絶対無理とまでは言い切れないくらいなのかな。

 まあドラゴンに『刺されば痛いだろうな』程度の剣があったって普通は勝てないだろうから、龍殺剣だけあったって仕方ないんだろうし、龍殺剣があれば戦える人はたぶんいる、龍殺剣じゃない普通の武器で戦える人もどこかにいるのかもしれない、って感じなのかもしれないね。」


 「らー。たぶんそんな感じ。

 わたしの魔法だと『極光のドラゴンブレス(えるふびーむ)』くらいの火力だと普通に当てるだけなら効かないのは間違いなさそうなかんじ。グリフォンには効いたけどあれは緊急回避行動に重ねたから避けられなかっただけみたいだし、たぶん普通に当てただけならまぶしくて一時的に目が見えなくなる程度だったんじゃないかなって思う。だから、たぶんドラゴンと普通の武器で戦うひとはすごく弱点なところに当てるとか、防御力を下げるようななにか準備をするか、圧倒的な出力で叩き潰すとかになるのかな。」


 「あの魔法もたぶん圧倒的な威力なんじゃないかな、って思うんだけど、それよりもっと「圧倒的」に強くなくちゃいけないってことだよね。

 そんなのできる人いるのかな。」


 「むー。どうなんだろうね。

 すごく強い人もいるんだろうし、どこかにはそういうひともいるのかも。

 たべおわった。おいしかった。」


 「二人分残っててよかったね。

 せっかく来たし、軽く訓練していく?

 魔法の訓練にはならないと思うけど、物理系のだったら手伝えるよ。

 スキルつけて損することはないだろうし、どう?」


 「むー。わたしは物理戦闘は全然できないと思う。スキル使えるのほとんどないし。」

 

 「スキルとか無くても大丈夫だよ。軽いスパーリングならお互いケガしない程度にはダメージ抑えられるし、白ちゃんの装備もかなりのダメージ軽減はできるんでしょ?強い装備なんだし。」


 「らー。少しはダメージは防げる、かな。」


 「それなら、あたしがミット持って白ちゃんが打ち込む感じならけがはしないんじゃないかな、って思うんだけど、どうかな?

 攻撃魔法とかだったら防げないとは思うけど。」


 「にゃー。たぶんそれなら大丈夫、だとおもう。

 それじゃ、おねがいしていい?」


 「うん、それじゃ準備するね。

 ……よし、準備おっけー。いつでもどうぞ。」


 「それじゃいくよー。

 『反動軽減の心得』『出力精密制御』ぱーんち。」


 「うん、いい感じ。ちょっとゆっくりだけど、最初はゆっくりやるのも良いものだろうし。

 その調子でいけそうだったら続けてみようか。」


 「いまので腕の限界に近いからきゅーけいにしよう。

 計算通り、一撃ならなんとか無傷で打てるくらいのちからを出せたから実験成功。」


 「…もしかして、さっきのが一発限りの必殺技とかそういう感じなの?」


 「らー。そんな感じ。筋力低いから。」

 

 「白ちゃんって、本当に肉弾戦には向いてないんだねー。知ってたけど。」


 「らー。そうだね。」


 「うん、ごめんね無理させて。あとは見学してようか、いろいろ訓練してる人はいるから面白いと思うし。」


 「らー。いすにすわってきゅーけい。」

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