おてつだいと、まねかれざるきゃくじん。
「しつもんうけつけかいしー。」
図書館でのお手伝いを始めたようだ。
認識阻害を突破して本人を見つけるか、職員が困ったときに偶然手伝いに来てくれるかでしか頼めないようになったので、出会えたらかなり運が良いらしい。
「み?
とくしゅな波長を感じるから、普通の方法では変換できないかな。
試すとしたら、たくさんの呪いを重ねてかけて、性別変換後の身体のイメージを刷り込む感じになると思う。
身体が細いほうがいいとか背が高いほうがいいとかある程度目標とする形の指定を受け付けられるけど、呪いを解くのがすこし難しい。
呪いを解くとき身体能力がものすごく下がるとか、部品がいくつか足りなくなるとかそういうくらいのリスクがあるかも。
だから、一度変換したら二度と戻らない、っていう程度の覚悟が必要だと思う。
一回帰って、よく考えてから決めたほうがいいと思うよ。
らー。そのほうがいいと思う。
依頼料は返すね。」
「らー。あなたの場合は、性別変換の呪いを普通にかけられる。
説明は読んできた?
それなら説明の繰り返しはいらないね。
準備がよければかけるよ。
それじゃ、力を抜いてね。
『狩衣剥いでその口塞ぎ
旅立つ時に目覚めぬ躰
絆千切りて結ばず眠る
還らぬ影は誰彼知らず
朧となりて虚空に惑う
片羽抱いて憂う素形を
歪み屈みで写し捕えよ』
<陰陽反転呪>
にゃー。完成。あとはだんだん形が変わっていくはず。どんな見た目になるかは知らないけどね。」
「解読依頼?開いてみていい?
中位古代語の本だね。
らー。このくらいなら解読はできる。
どのくらいの解読が良いのかな?のんびりか急ぐかすごく急ぐか、あとはあらすじ程度かそのまま直訳か慣用句とかもこっちの言葉に書き換えるか。
のんびりだと2か月待ちくらい?急ぐならたぶん3週間くらい、すごく急ぐなら早ければ2小刻、遅くても明日にはできる。
すごく急ぎで一番いい解読だと?解読難易度かんたん、ページ数72、本文直訳と解説追加、仲介なしで、72かける3たす5、割増しと割引きで差し引き0、だから銀貨221枚だね。
・・・
むー。驚かれても困るかな。図書館の業務と同じ行動だから料金表の最低ラインより下にはできない。
難易度評価を一番下にしてこの値段。解読ってけっこう高いものなんだよ。
み?そっちで驚いたんじゃない?221枚でいいの?
らー。それならいそいで解読するね。
解読開始……解説文考える…
たしかこのへんに白紙の本があったはず、これでよさそうかな。
『簡易執筆』……完成。
この本がきょーつーごに訳した本。わかりにくそうな単語には解説も足してあるよ。」
「むー。
あの小麦粉は全部使いきったし、偶然できただけだから同じ物は作れない。
信仰に近道無しっていう言葉もこっちではあるらしいし、ひつようならほかの方法で入手してみたらいいんじゃないかな?」
「み?迷宮の情報?
それなら追加で甘いクッキー3枚くれたらなにか情報一つ出す、情報が役立つかどうかは知らない。
聞くのね。クッキーありがとー。
情報はなにがいいかな。むー。
迷宮に出るネズミのモンスターは強さのわりにおいしいの多いらしい。
肉食のモンスターをおびき寄せる寄せ餌にも使えるし、普通の料理の材料としてもけっこういい性能。
でもリーダー格は食用に向かないものが出ることもあるかも。おわり。」
「み?もう服使い終わったの?
らー。洗濯とかはしなくてもだいじょーぶ。
今持ってきてるなら受け取るね。ありがとう。
お菓子のお店を始めるときは教えてね。
み?どんなお菓子が良いと思うか?
むー。さいしょはぶなんにハーブクッキーとかいいかも。おいしいし。
ハーブクッキーは強化効果とか回復効果とかつけやすいし、薬草とかハーブは品質高めのも入手しやすい。
スキル上げにいっぱい作って安く売る人もいるし、すごく強いのを高く売る人もいる。だからどっちでも商売になる。
でも、あんまり強いの作ってしまうとおいしさじゃなくて薬みたいな使い道で買う人が増えるから、普通のお菓子屋じゃなくなってしまうかも。
だから、いろいろ考えてからのほうが良いかもしれないね。
薬屋さんみたいに効果のほうが目的で来る店でいいのか、おいしいのを食べるのが目的なのか。
それとも店のデザインとかかわいいものを見るとかも目的に入るのかとか。いろいろ選択肢はありそう。」
「しつもんうけつけおわり、おへやできゅーけいするね。」
・・・・・・
眠りの刻の少しあと、仮眠室。
一足早く仕事を終えて寝床で丸まって眠ろうとしているところに、遅れて仕事を終えた二人が帰ってきた。
「みーたん、はーたん、おかぁいー。
今日もたくさんひと来てたね。図書館。」
「白ちゃんおまたせー。もう寝る準備は万端って感じだね。
今日はあたしのところにハンコ押しに来る人は少なかったからちょっとラクだったかな。」
「ただいま。
今日は白ちゃんを探している人が昨日までよりも増えていたわね。
白ちゃんが一番忙しかったんじゃないかしら。」
「み?そうなのかな?
今日はじょそうしたいっていうひといっぱいきたから、ほかのひとにまかせるわけにもいかないし、しかたないかも。
呪いをかけるほうがいい場合と呪いを解いたほうがいい場合があって少し難しい。
種族とか体質によって浄化でダメージになったり呪いが変な結果になったりすることもありそうだから、見てからじゃないとやりにくい。
あとは地下迷宮の案内してほしいひととか小麦粉を寄進しろとかいう神官見習いみたいなのも来たけどそっちはいつも通り断った。
迷宮探索は誰かに案内されていくものじゃないと思うし、あの時の小麦粉は残ってないから。」
「あれ、小麦粉って使い切ったんだっけ?
あのあと、袋詰めしてない予備はけっこうあるって言ってたような気がするけど。」
「むー。あの時売った小麦粉はほとんど残ってない。
いちばん加工しやすい種類を出したから、ほかの種類ならまだある。
でもそれぞれ料理しやすさとか味とか違うから、同じものはあるか、って言われればないって答えることになる。
ほしいのは普通の小麦粉じゃないって言ってたし。」
「同じじゃない物ならある、ってことね。なるほど。いつもの引っかけ問題か。」
「らー。そういうこと。」
そんな話をしていると、仮眠室の扉をノックする音が聞こえた…。
「あれ?こんな時間に誰か来た?
しょちょーかな?」
「むー。違う。
二人とも、急いで強いそーびに着替えて。戦闘用制服がいいかな。そのあとふつうの上着で隠す。
『施錠』『施錠』『施錠』
鍵は追加でかけておくけどたぶんすぐ解除される。
ほんとは開けようとすると反撃するとかにしたほうが良かったんだろうけど、結果がおかしいだけで行動自体は問題ないから問答無用で攻撃っていうのもどうかと思うし、むずかしい。
『盲目のテロリスト問題』に似た問題だね。」
「なに、なんか変な人が入ってくるってこと?鍵かけてるんだよね!?」
「まずは急ぎましょう。
白ちゃんも着替えるのよね?だったら急がないと!」
「私はもともと強めな装備にしてるからだいじょーぶ。多少良い装備にしても戦いになったらあんまり変わらないし。
もうちょっとで全部解かれる、着替え急いでね。」
「あ、うん、もうちょっとで着替え終わる。
みやっちももうちょっとで終わりそう、だよね。」
「もうちょっとで着替え終わるわ、でも、戦いになったらって、どういう、」
「鍵なくなった、開く。
なるべく話はしないほうがいい相手だから気を付けて。」
だれも手を触れていないのに、ゆっくりと扉が開いた。
わずかに風の音がした。
司祭のローブに似た服装の女性が立っていた。
だが、司祭ならば必ず目につくところに着けているはずの聖印はどこにも見当たらない。
『聖職者に近い服装だが、自分の宗教、宗派を示すものは身に着けていない』……。
「むー。やっぱりか。予想はしてたけど。」