なつまつりのひ、あそんでみる。
夕方、春から夏に切り替わるまで残り1刻程度、という時間。市場の屋台が並んでいる場所。
数日前までは恐れていた「その時」を目前にして、しかし少女の足取りは軽かった。早いわけではないが。かなり遅いが。
「てつだいしてるあいだ、たくさんお菓子もらったから、こんど、出かけたくないとき食べてみよーと思う。」
「ああ、なんかいっぱい貰ってたねー。
あたしらはチップでけっこう稼げたけど、白ちゃんは現物でもらってたみたいだね。」
「らー。食べたことないものも多かったから、たのしみ。
今日は出店で食べる予定だから、食べなかったけど。」
「白ちゃんはすぐおなかいっぱいになっちゃうものね。
お菓子を食べてからだったら出店の物を見ても楽しくないかもしれないわね。」
「らー。おなかがすくように、なにかで遊ぶのもいいかも。」
「あ、それもいいかもね。
今日は夏祭りの日だから、いろいろと出店が増えてるしさ。」
「むー。
きょうから、なつなんだね。」
「うん、そうだねー。
暑いの苦手?」
「らー。あついのもさむいのもにがてだし、いたいのもにがて。」
「痛いのが得意な人はあんまりいないんじゃないかなー。」
「そうね、冒険者で戦いを仕事にしている人なら得意とまではいかなくてもがまんしなくちゃいけないこともあるでしょうけど。」
「にゃー。わたしがたたかうとしたら、たたかうまえにやっつけるくらいじゃないと、かちめはなさそーだし、そのてんはしんぱいはいらないかな。」
「戦うとしたら、なのに戦う前になんだね。」
「戦う前に勝ちを決めておけ、というのは聞いたことがあるわね。
どうやっても負けないくらいに準備をするのが理想だ、ということかしら。
実際は時間や道具などの条件があるし難しいでしょうけど。」
「らー。そんなかんじ、かも。」
「いろいろあるねー。白ちゃん、なんかやってみたいのある?
射的とかくじ引きとか、あと輪投げとかあるみたいだけど。
子供用の迷路とかもあるみたいだね。でも、子供にぶつかったり踏まれたりしたら危ないか。」
「み?
あれ、すこしきになる、かも。」
「あれは、なんだろ、的があるから射的みたいなものなんだろうけど、道具が弓じゃなくて変な武器だね。ずいぶん小さいなぁ。
あんなので的まで飛ぶのかな?
あのお店だけ、お客さんぜんぜんいないね。さっき通った弓矢で狙うほうの射的はずいぶん並んでたのに。」
「魔法がかかった武器、というわけでもなさそう、よね。
そんな珍しいものなら、出店で客に使わせるのは難しいでしょうし。」
「むー。場合によっては、実験台が必要っていうこともあるかも。だから、わからないね。
ちょっと試してみる。あぶなそーだったら撃たなければいいだけだから。
ひとりぶんおねがいしまーす。」
・・・・・・
「むー。
簡易鑑定の結果、しくみは普通の拳銃だね。
でも、材料があんまりよくないから、そのぶん耐久性には劣るかんじ。命中精度も低めみたいだね。
仮名称「でりんじゃー・さたでーないとすぺしゃる・かすたむ・こぴー」としておくことにする。
でも、この武器をレンタルじゃなくて販売しているっていうのにはびっくり。安いし。
買ったものだから、かいぞうとかしても良いっていうことになるはずだから、やってみる。
『魔改造・パターン・テセウス』『魔力付与・反動無効化』。
にゃー。これでよし。」
「普通のけんじゅう、と言われても、けんじゅうっていうのがどんなものなのかがわからないからよくわからないわね。
外見も見覚えがないけれど、的当てに使えるというなら、本来は武器の一種、弓矢みたいなものなのかしら。」
「み?
こっちでは、やっぱりめずらしいものなのかな?
これは、こーやって、弾丸、弓矢でいうと矢のぶぶんにあたるものをこうやってつめて、こんなかんじで撃つと、弾が飛んでく。あたるとたぶんいたい。」
「あら、1回で的中ね。」
「おお、ど真ん中だ!白ちゃん上手だねぇ。
って、このにおい、チョコレートかな?」
「チョコレートのようね。子供でも使えるものみたいだから、矢を柔らかいものにして威力を調整しているのかしら。
でも、弓矢のようなものだとするなら、金属や毒などを飛ばすこともその気になればできるんでしょうね。」
「らー。たぶんできる。
当たるとすごく痛いはず。
でも、弾のほうを金属にするなら、本体のほうの耐久性とかいろいろ考えなくちゃいけなくなるから、その手間を考えたら弓矢のほうが強い、かな。
この本体で弾だけ金属にしたら、たぶん1回もまともにうてないでおわる。
だから、普通のにんげんのひとがつかうなら、弓矢のほうがかなり強いと思う。
耐久度の回復にもかなり高いスキルが必要そうだしね、こっちは。」
「ああ、そーいうことか。
まあたしかに、こんなの調子悪くなったとしたらどう直せばいいかなんてわかんないよね。普通。」
「続きやってみるね。
こうやってかまえて、弾道計算をして、撃つ、撃つ、撃つ。
本体こわれたからしゅーりょー。」
「あれ、4回だけで壊れちゃうんだね。
6回命中の景品はどうやっても取れないってこと?」
「むー。おもちゃだし、かなり無理な改造してるから、しかたないかんじ、かな。
改造しないでふつーのひとがうてば20回くらいは壊れないはずだよ。
でも4回当たったから、景品もらってくるー。」
「いってらっしゃーい。」
「ねえ、みやっち。射的で武器改造、って、アリなのかなぁ。ビミョーな気がするけど。
店員さん気にしてないようだから、良いのかな?」
「こういう出店のゲームはルール違反だったら自動的に失敗になるはずだから、大丈夫なんじゃないかしら。」
「もらってきたー。」
「おかえりー。
いろいろあったみたいだけど、なに選んできたの?」
「チョコペイント弾の弾頭、たくさん。
武器とかアクセサリとかもらってもしかたないから、たべものにしたー。」
「それって、さっき使ってたやつだよね?
食べ物あつかいで、良いの?」
「らー。おいしいらしいよ?」