魔法学校8
試験が終わった後、3人は教師「エリカ」に連れられて、研究室にやってきた。
人形のようなもの、巻物、石、キーホルダーのようなものなど、いろんなものが大量に置かれている。
呪符などの魔術の触媒らしきものもあれば、安産祈願のお守りやボードゲームの駒のようなものがあったりもして、統一性は感じられない。
テーブルとイスとその周辺だけはかろうじて床が見えるところもある、という状態であり、気を抜いたらなにかにつまずいてけがをしてしまいそうに思える。
「ごめんなさいね、ちょっと散らかってるけど、適当にそのへんのよけて椅子までたどり着いてちょうだいね。」
「はい、こっちから歩けば大丈夫そうですね。
召喚術に使う触媒でしょうか?ずいぶんとたくさんありますわね。」
「これは「ちょっと」散らかってるとはいいがたい状態ですね・・。
わたしはこっちの椅子に座ることにします・・。
物があふれているところのほうが、ネクロマンサーとしては居心地がいいのです・・。」
「むー。
ころんだらあぶなそうだし、空中歩行でイスまで行ったほうがいいかも。」
・・・・
「それじゃ改めまして。『エリカ・マスターマン』の研究室へようこそ~。
3人とも飲み物は蒼茶でよかったかな?ほかのが良ければそのへんの山から探すけど。」
「らー。だいじょーぶ。いただきます。」
「おきになさらず・・。と言いながらいただきます・・。」
「いただきますわ。」
「にゃー。この味、けっこう好みかも。意外に甘い。」
「スミシーさんは左利きの骨格はしていない感じに見えますが、左でカップを持つんですね・・。」
「槍を投げた時は右手でしたわよね…。
あの、右手に力がまったく入っていないように見えますけど、大丈夫なんですの!?」
「み?
これはさっきの魔法の副作用だから、しかたないかな。
体力とか筋力の消耗は判定回数ぶんだけ発生するから、さっきの槍を何回か投げたくらいの消耗になってる。
すごく軽いけど、回数重ねれば、それなりにつかれる。だから、しばらくは右腕は使いものにはならない。
でも今は筋肉痛になるほど筋肉ないし。感覚がなくてぶらぶらしてるだけ。ほっとけばすぐ治る。
今日はある程度疲れる行動をとる必要があったから、予定通り。」
「疲れているだけなら大丈夫、なんですわよね。」
「らー。だいじょーぶだからきにしなくてだいじょーぶ。」
「ああ、必中っていうわけではないのね?
威力強化の魔法だったのかな。」
「らー。失敗した攻撃を魔力と体力が続く限り繰り返せる、だんだん強く鋭くなっていくっていう技。
ある程度回数を重ねれば威力は高くなるけど、ほかの行動がとれなくなるから、実戦で使える性能ではないと思うよ。
自分が動いたら効果が切れるし、普通に考えたら、武器を持って切りかかったほうが2回目の攻撃は早い。
さっきみたいにぜんぜん違う方向に投げて、油断させたところを当てる、っていう方法が現実的かなとも思うかもしれないけど、普通の武器のイメージではああいう極端な軌道変更はしにくい。そういうのするためには、空間隔離とか降魔結界とか大がかりな技を前提条件として使う必要があるし、そーいうの使ってる状態で相手が油断するわけがない。
だから、相手が動かない、壁とか壊すためとかに使うのが限度かも。でもそういう目的なら、ほかにもっと簡単な方法はいくらでもある。
結局、意味がない感じ?」
「警備もする立場として言わせてもらうと、そういう技持ってるだけで怖いわねー。
攻撃って、攻撃するぞ、っていう意思があるものはある程度防御しやすいのよね。攻撃しようとしてる者に反撃しろ、っていう感じの魔法罠もあるし。
本人の手から離れてから連続攻撃してくる武器、なんてものを想定する必要も普通はないし、実際想定してても防ぐのは難しいわ。
空間隔離された時点で、地脈も切れてるだろうからそっちの防衛も使えないことになるでしょうし。
この学校にある扉や罠であの魔法を防ぐのはどう考えても不可能ね。
そんなわけで、使いたい施設とか資料とかあれば、私にひとこと言ってくれれば開けるから、できれば壊さないようにしてくれると嬉しいわ。」
「らー。かぎは壊すと閉めなおすのむずかしいだろうから、開ける必要があるときはちゃんと証拠が残らないように開けるー。」
「そうしてもらえると助かるわ。」
「らー。そうするー。
そーいえば、試験の結果はどうだったのかな?
それ聞くのに呼ばれたはずだよね。」
「ああ、そういえばそうだったわね。
試験は満点、スミシーさんは導師級までの資料なら私の権限で使えるようにできるわ。導師は初等部、中等部、高等部、研究生、道士と上がったもう一つ上ね。この学校の施設や情報はほとんど公開される、くらいに考えていいわよ。ごく一部例外はあるけど。
留学生みたいなあつかいでよければ学生証も作れるし、学生証を使えば私にわざわざ言わなくても導師級までの扉は開けられるようになるわ。
その上は私の権限と能力を超えてるから、もっと強い職員に聞かないと無理だけどね。
ロッサさんは初等部からの昇格審査で満点だから、中等部か高等部か研究生か道士のどれかに昇格できるわね。
あとで昇格希望の届け出しておいてね。道士までなら届け出だけで昇格できるようにしておくから。」
「えっと、もう少し悩んでから届け出を出したいと思いますわ。
4つ昇格できる、ということに驚けばいいのか、あの魔法だったらそのくらいはあり得ると思えばいいのか、少し混乱しています…。」
「み?
4つも昇格できるんだね。
試験の合格ラインが5等級の成功だったのに、あのくらいで4つも上がるの?」
「10等級まで測定できるはずの計測器を準備段階で振りきるような魔法を見せられたら、このくらいの評価はしないといけないわね。槍の魔法も相当高い魔力がないと使えないことは間違いないでしょうし。
本当はロッサさんにも導師階級までの許可出していいくらいすごい魔法なんだけど、召喚術は試験の満点が決められてるから、それ以上の評価は出せないのよ。」
「むー。
空間隔離が5級、槍の作成も5級、隔離から槍作成と維持まで全部含めてやっと6等級に入るくらい、だと思ってたけど。
等級の基準が違うのかもね。」
「あ、そうか。そういうこともあるのかもしれないわね。
今はだいたいの学校や研究施設で階級の基準が統一されてるはずだけど、昔はばらばらだったらしいから。」
「そーいうことだったんだね。
ずいぶん厳しい試験なんだなって思ってた。普通の攻撃魔法で『5級』の魔法使ったら、ちょっと失敗したら自分か会場が吹っ飛ぶだろうし。私だったら失敗しなくても吹っ飛ぶけど、たぶん。」
肉体的能力はゼライムと死闘を繰り広げたときから倍増はしているはずだが、「子供のおもちゃ扱いされているモンスター」より弱かった能力が『倍増』した程度で役に立つかどうかと聞かれれば『役には立たない』と答えるしかないかもしれない。
「なるほどー、危ないところだったわけね。
私の説明不足が原因か、ごめんねー。」
「み?
わたしに都合のいい条件だったから手伝ってただけだし、私の目的はさっきまで充分達成してたから問題はないよ。
そういえば、人形壊しちゃったけど、大丈夫かな?
本当は5級では壊れないような人形なんだよね?」
「うん、しかたないかな。あれは。
私のミスが原因だから気にしないでね。」
「らー。それならきにしないー。」
「うん、それでよろしい。
それで、スミシーさんはこれからどうする予定かな?
帰るんだったら帰還の魔法陣に案内するし、滞在するなら寮の空いてる部屋を確保するけど。」
「さっき、飼い主のところから、手伝い要求来た。
お客いっぱい、いそがしいらしい。
だから、手伝いのために帰る。
すこし勘違いはあったけど、結果的にお菓子のぶんは手伝ったことになると思うし。
それじゃ、ロッサさん、ジェーンさん、エリカさん、さよならー。なにか用事あったらまた同じような魔法陣で呼んでもらえればヒマでおなかすいてる時だったら来るかも。」
「あの、お話と魔法のこと、感謝いたしますわ。
昇格希望の届け出を済ませたら、一度故郷に帰ってみようと思います。
『わが名はロッサ・ブラオローゼ。
この真名を、『魔人』スミシー・ホワイトに捧げる。』
なにか困ったことがあったら、いつでも呼んでくださいね。」
「らー。手助け必要になったら、よぶかも。」
「私も、ロッサさんについていこうと思います・・。
ネクロマンサーのすばらしさをいろんな人に布教したくなってきましたし・・。」
「ネクロマンサーは、素材を集めるのが難しいかもね。でもそのぶん強力だったりもするのかな、よくわからないけど。」
「さようなら。
私も困ったらスミシーさんのことを呼んでいいかな?」
「らー。来るかどうかはわからないけど、いいよー。それじゃーね。」
『転移門・独歩』
空間に現れた扉をくぐり、姿を消した。
扉も消えていった…。
「さてと、備品補充の発注書を出させてもらえるように、交渉の準備でも始めようかな、と。
あの人形、けっこう貴重なのよねー。」
「わたくしは寮に戻っていろいろと考えようと思いますわ。
失礼いたします。」
「同じく帰ります・・。」
「はい、おつかれさま。夜更かししないで早めに眠りなさいね。」