魔法学校3
「それでは、ロッサさんが召喚したお客さん、暫定名『来訪者』さんへの対応に関する話し合いを始めます・・。」
「よろしくお願いしますわ。」
「らー!」
「それでは、まずロッサさん、状況の分析と問題点の洗い出しをお願いします・・。」
「まず、わたくしが置いた召喚の魔法陣に、仮に来訪者と呼ばせていただきますわね、来訪者が現れました。
名約の呪文を唱えましたが、成立しませんでした。
このまま成立しなかった場合、誤召喚ということになりますから、送還の魔法陣を使って本来の故郷に送り届けなくてはならないのですが、その魔法陣までの移動の間守る方法がわたくしたちにはない、ということが問題になりますわね。」
「少し解説を追加します・・。
今回ロッサさんが使った召喚魔法陣の場合、領域を区切り狭い空間を作ることを重視しているそうです・・。
召喚された存在がこちらの環境に耐えられないような特性を持っていた場合や、そこまでいかなくてもこちらの環境で消耗が大きくなるような場合も、その狭い空間の中では存在を保つのが簡単になるという話です・・。
また、召喚対象が危険なものであった場合でも術者の安全を守るため、『召喚対象が魔法陣から出ようとしたとき』や『中から外へ攻撃をしようとしたとき』には、具体的に何が起こるのかはわかりませんがなんらかの妨害効果があるらしいといわれています・・。」
「み?」
≪壺に嵌れば 誤りたるか
蛸の思いは 知らざるや
己が不知を 知らずして
嗤う自身を 見るべけれ≫
≪蒼空埋める 魔力在れど
我を殺める 刃を持たず
故に我が身 空を恐れず
陣を渡るに ためらわぬ≫
「私とロッサさんが話していることが見当外れだ、という感じでしょうか・・。
私にも言葉は聞き取れていないので想像でしかありませんが・・。」
「らー。」
「あの、ひょっとして、こちらの言葉も聞き取れるんですの?」
「らー。すこし。」
≪還る時待つ つかの間に
学びし言語 多々あれど
正しき音の 響きは不知
故に多くは 知りはせず≫
「失礼な質問かもしれませんが、こちらの言語に言い換えてもらうことはできますか・・?
今までのあなたの発言は、私の無知ゆえにほとんど聞き取れていませんので・・。」
「むー。おもいだしてみる。」
「旧き言の葉 受け取りて
旧き事がら 幽かに想う
然れど此岸 此身は不知
然るに語る 彼は誰れそ」
「渡季の硲の ひとときに
備うる策の ひとかけら
聞きし詞の よすが追い
門を創りて われ来たる」
「仮名用いて 吾身縛れど
既に捧げた 主があらば
細糸一つの 意味も無し
真名一片に 千切れ飛ぶ」
「囁くものの たはむれに
人は惑いて 多は群れに
囁くものか まどい子か
汝の素形は 如何なりや」
「長き眠りの まどろみの
覚めし一時 うたかたの
峡の出会の 果敢なさを
惜しむ心も 無くはなし」
「一つ其身が 完全なれば
二つ重ねて 其を超えよ
即ち魔技の 精神なれば
止める詞の あるものか」
「壺に嵌れば 誤りたるか
蛸の思いは 知らざるや
己が不知を 知らずして
嗤う自身を 見るべけれ」
「蒼空埋める 魔力在れど
我を殺める 刃を持たず
故に我が身 空を恐れず
陣を渡るに ためらわぬ」
「還る時待つ つかの間に
学びし言語 多々あれど
正しき音の 響きは不知
故に多くは 知りはせず」
「これで全部、かな?」
「ありがとうございます・・。
メモに書き留めました・・。」
「これならある程度は理解できますわね。感謝いたしますわ。
たびたび申し訳ないのですけれど、この内容について質問してもよろしいでしょうか?」
「らー。いいよー。」
「少し質問内容を考えますので、その間、よければこれを召し上がってお待ちください。
召喚に失敗はしていたようですが、贄をささげるのは召喚を試みたものの義務ですから。
ほかに必要なものがあればできる範囲で準備しますわ。」
「お弁当だね。ありがとー。たべるー。」
・・・
「にゃー。ごちそうさまー。おいしかった。
お弁当箱からグラタンが出てきたのにはびっくり。
喚起の代償としての贄がささげられたことを認める、と宣言するよ。」
「お気に召したようでよかったですわ。」
「いろいろ聞いたおかげで、ようやくだいたいの意味はつかめましたね・・。
中位古代語はこちらの言葉に翻訳しても難しいんですね・・。」
「むー。中位古代語ってよばれている言葉は、文字数をそろえてしゃべるのが慣習化されてた言語。
だから、文字数そろえるために少し変わった表現すること多い。
たとえば、ひとつめの文章は『誰だそれ』っていう一言で言いかえてもあんまり意味は変わらない。ことばはながくなってるけど、たいしたこといってるわけではないことのほうが多いかも。」
「簡単な意味を言ってるだけとすると、2つめの『門を創りて』という表現は、わたくしの召喚魔法ではなくあなた自身の魔法でこちらに来た、という意味。3つめは『先約があるから契約を結ぶのは不可能』という意味でよろしいのかしら。」
「らー。だいたいあってる。
でも、契約を結ぶのは無理、じゃなくて、契約を結んでもこっちのつごーで一方的に解除できるんだけどいいのかな、っていうかんじになるね。具体的に言うと眠くなったら解除する。」
「それなら、5つめは、『短い時間になる今日の出会いを残念に思わないこともない』ですね・・。」
「らー。だいたいそんなかんじ。
6つめは相談してもいいよ、っていう感じだね。7は2とだいたいおなじで、自分でこっちに来たんだよ、っていう意味。8は安全にまほーじんから出ることは簡単にできるっていう意味、9番は自己流で覚えた言葉だから違いもあるかもね、っていう意味になるよー。」
「4つめはこちらの間違いを指摘されているらしいというのは想像できるんですが、実際はどういう意味だったのでしょうか?」
「ひとことでいうと『おなかすいた』っていう意味?
詳しく言うと、『魔法陣に望みの物を与えるよーなこと書いてあったのに、なにもくれないのはなんでかな?魔法陣の意味を知らないで間違って使ったのか、それとも知らないふりをしてるのか?後者なら少し怒る。』っていう感じだね。グラタンおいしかったし今は気にしなくてだいじょーぶだよ。」
「望みの物を与える、という内容が書いてあったんですのね。知りませんでしたわ。」
「それなら望みの物を与える前に契約を求めるのは失礼な話ですね・・。納得しました・・。」
「むー。
自分が使うまほーじんに書いてある内容くらいは理解してから使ったほうがいいと思う。そんなに難しい表現は使ってないはずだから。中位古代語と下位古代語の読み書きがある程度できれば充分読めるはず。」
「あの、どこに文字があるのかすらわたくしにはわからないのですけど・・・。」
「ここからここまで、魔法陣の模様に見せかけて文字。文字だとわかれば簡単なひょーげんばかりだから簡単。模様に見せかけるために文字の形をかなり変えてるから、文字を交換するタイプの暗号だと思って読んだほうがいいかもしれないけど。」
「文字の種類は勉強したはずなのですが、それでも読めませんね・・。
原形を保っていないように思えます。」
「むー。わかりにくいときはマグスの文字を探してから近くの文字を探していくのがらくかも。マグスはほかの文字よりも歪みが許容される範囲が少ないから、ある程度変えててもわかりやすい。これのばあいだとこことこことここだね。」
「これのことですか・・。
これで『歪みが少ない』というなら、ほかの文字を全く解読できないのも納得です・・。
文字だといわれても変わった模様にしか見えませんから・・。」
「むー。そんなにむずかしいのかなぁ。」
「あの文章を即興で作れる能力があるなら『簡単』と言えるのかもしれませんけど、普通の人間からすると『難しい』と思いますわ。」
「そうなんだ。ふしぎ。」