魔法学校1
唐突に場面が変わる。まあいつも通りともいう。
皇立魔法学校、儀式練習場。
召喚術練習用の魔法布を前にして、学生たちが召喚術の練習をしている。
ほとんどの生徒は古代語の単語を理解できないため、適当に組み合わせて使ってみることで単語の意味、効果を推測していくのである。
「今日はこの組み合わせで行ってみるか。
『弾ける』『赤い』『青い』!」
少年は慣れない古代言語で呼びかける。
魔力の集中はすぐに乱れてしまい、乱された魔力によってゼライムが現れる。
「ちっ、またゼライムか。
うまくいきそうな手ごたえはあったんだけどなぁ。
お、青薔薇さん、今日も練習か?お疲れー。
ここ使うんだったら急いでゼライム潰しとくからちょっと待っててな。」
「お疲れさま。
ゆっくりでもかまいませんわよ、別に急いではいませんから。」
「ゆっくりやって他に流れても困るしな、とっとと倒しとくぜ。
よし、これで全部潰したな。それじゃなー。」
「はい、ごきげんよう。
さて、今日こそは成功させないといけませんわね。」
つぶやくと、陰から黒いマントを着た少女が現れて小声でささやく。
「そんなときは、購買部で売ってるゾンビパウダー、おすすめです・・。
ゾンビは耐久性に欠けますがそのぶん召喚しやすいですし、ネクロマンサーを目指すなら避けられない道です・・。」
「何度も言っているけど、わたくしはネクロマンサーになるつもりはありませんわよ。
ゾンビなんか召喚するくらいだったら、留年するほうがいくらかましですわ。」
「そうですね、やっぱりゾンビよりもスケルトンやゴーストのほうが人気ですよね・・。
ゾンビは召喚のしやすさはいいんですけど、外見があんまり流行りに乗ってないですから・・。」
「あのね!ゾンビもゴーストもスケルトンも、アンデッド系は全部お断りって言ってるんですわよ。
もう、あなたがゾンビ好きなのはわかってるから、集中させてくれませんこと?」
「りょーかいです・・。
草葉の陰から応援してます・・。」
「ありがとう。少し複雑な気持ちだけど、行ってきますわ。」
「いってらっしゃい、と、普通の人のように見送ることにします・・。」
・・・・
「今までのわたくしの召喚魔法は毎回失敗している。
いえ、正確に言うなら「失敗すらもできていない」ですわね。
失敗ならゼライムや虫などが誤召喚されているはずなのですから。
成功者、失敗者の発言と、わたくしの感覚を照らし合わせて得られた相違点は「手ごたえ」
手ごたえを感じたという発言が多く、わたくしは手ごたえというものを感じたことがない。
手ごたえを感じない、召喚儀式に対する反応がない、ということから考えると、「わたくしの召喚術はそもそも術が起動すらしていない」または、「召喚術の効果が少なく、負担も少ない状態」という理由が考えられる。
前者だとするなら、「根本的に間違っている」ことになるから、古代語の発音から勉強しなおす必要がある。
後者だと仮定するなら、「術の強度、難易度をあえて上げていくことによって、なんらかの変化が望めるかもしれない」。
・・・覚悟は決めたわ。」
教官を探し、声をかける。
「教官殿、召喚学科初等生「ロッサ・ブラオローゼ」、実技試験第一段階、「召」を始めます!
魔力結晶は、3個を三角形の形に設置。
魔法布は、「無差別召喚」の魔法陣を選択。
触媒は「赤いハンカチ」
そして古代語詠唱、『白いもの』『無双なるもの』『暗い』『美味しい』『大きい』『来る』『小さい』『曲がる』『新しい』『珍しい』『ありふれた』『忌まわしい』『清浄なる』!」
(なんでもいいから出てきてくださいなっ!)
「中位古代語を13個重ねる、ですか・・。
初等生ではほかにできる人はいないかもしれませんね・・。
お見事です・・。」
「いえ、言葉をいくら重ねても、肝心の召喚ができていないようでは、ただの道化でしかありません。
明日から夏、今日で第一段階試験は最終日でしたわね。
最後の挑戦も失敗、あきらめることにしますわ。」
「召喚も成功しているみたいですよ・・。
魔法陣から、小さな手が出てきています・・。」
「えっ!?
それなら、成功、でいいんですわよねっ!
それも人間型、やりましたわっ!」
呼び出されたなにかは、全身を魔法陣から出した後、左右を見回し、一言声を上げた。
「み?」
※召喚に使っている単語は、学生たちは意味がほとんどわかっていません。教師も基本的には教えません。