魔法使いD
時計の針が鳥の絵から人の絵へと動いていく。
旅立ちの時(8時)、宿のチェックアウトの時間が近づいているころ。
「この時計にも慣れないといけないんですねぇ・・・。
さて、とりあえずの準備もできましたし、行きましょうか、っと。」
「おはようございます。」
「よう、おはよう!
悪魔に飛ばされて来たんだってな。
でもこの村もいいところだから、慣れれば快適だぜ。」
「ありがとうございます。
今日は慣れるためにお買い物でも行こうかなと思ってます。」
「おう、ここは小さな村だが、料理人で副業で出店やってるやつが多いから、屋台の飯はかなりうまいぜ。
せっかくだから食べ歩きでもしてみる、ってのも気分転換にはいいんじゃねぇか。」
「それもいいですね。」
「1階の受付にうちのかみさんいるから、お金両替してもらっとくといいぞ。
あんたみたいな嬢ちゃんが銀貨ばっかり使ってると、どっかのお貴族の娘さんが抜け出して出歩いてる、とか思われて、ぼったくられるのがおちだ。」
「それは困りますね。
ありがとうございます。」
・・・
「なんだい、両替?
かまわないよ、銅貨ならたくさんあるから。
銅貨持ってこられて銀貨に変えてくれ、とか言われたら少し困っちゃうけどね。」
「銀貨、ってあまり使われないんですか?」
「このへんではめったに使わないねぇ。
稼ぎの時点で一日大銅貨何枚って感じだから、銀貨になる前に使っちまうって感じだね。みんな。
あ、冒険者は使ってるらしいね。一人前なら。
依頼内容によっては途中でかなり高いもの買わなくちゃいけなかったりするけど重いと仕事にならん、とかで。」
「アイテムボックスって、あんまり持ってる人いないんですか?
冒険者ならもってそうな気がしてましたが。」
「ああ、あんなのは物語の中だけだよ。
でっかい剣で戦わせたいけど、旅してるときに武器背負ってひーこら言ってるところは書きたくない、とかで考えたんだろうね。」
「なるほど・・・。
物語は少し読みましたが、やっぱり実際とは違うんですね。」
「まあ本当の超一流になると物語みたいなことになってる、って噂もあるし、本当かもしれないけどね。」
「そうかもしれませんね。
では、そろそろ行ってきます。ありがとうございました。」
「ああ。いってらっしゃい。
いつでも部屋は空いてるから、今度また泊まりにおいで。」
「・・・薬屋、かな?」
市場で、青や緑の液体が入った瓶が並んでいる出店を見つけ、足を止めてみました。
「やぁ、いらっしゃい。
ポーションが珍しいかな?」
「ええ。初めてみました。」
「ポーションが初めてかい。
お嬢様、って感じするねぇ。」
「そ、そうですか?」
「いや、そうだったとしても別に他言する気はないから安心していいよ。
それより、せっかくだから見て行ってよ。
いろいろあるから」
「はい。」
「それはジャンクポーション。ポーション職人からすると失敗作らしいけど、軽いけがなら一発で治るし、大きいけがでも少しは良くなるよ。
もっと良いポーションだとかけても効果があるらしいけど、これは飲み薬になるね。」
「それはキュアポイズンポーション。まあこれは安いやつだから効き目はたいしたことないけど、うまくいけば毒が治るかもだよ。」
「うまくいけば、なんですか。」
「まあ毒にもいろいろあるからねぇ。まあこのへんの小型モンスターの毒なら、これ1本で治ると思うよ。
『毒大蛇』の毒とかだとこれじゃ無理だろうけどね。」
「えっと、それじゃ、そのジャンクポーションを3本、キュアポイズンポーションを1本ください。」
「説明したからってかならず買わなくちゃいけない、ってわけじゃないからね?
そんなに安いものでもないし、必要な時だけでいいんだよ。
必要なら買っていってほしいけど。」
「はい。ちょうど怪我に効く薬を何本か欲しかったところなのでちょうどいいです。」
「うん、それならいいんだ。
ジャンクポーションが1本20チップ、キュアポイズンが30チップ。
合計90といいたいとこだけど85でいいよ。」
「ありがとうございます。
はい、これでお願いしますね」(ちゃりん)
「まいどありがとう。はい、おつり。
ほかの薬も説明しようか?」
「あ、お願いしま
『ポーション99、毒消し99買い』
「す?」
「・・・99も置いてないのはわかるだろ、ポーションは50、毒消しは20しかない。」
『ポーション50、毒消し20買い』
「ポーションは1本250チップ。毒消しは1本375チップだ。
合計20000チップ、200Sだ。」
『200S支払い』
「まいど。」
「さて、邪魔者が居なくなったところで、説明を始めようか。」
「あ、あの、今の人にはなんだかすごく高い値段で売ってたような気がするんですが・・・。
ほんとにこれ、合計85チップで良かったんですか?」
「ああ、ジャンクポーションは、普通の商品とは違うんだ。
薬師の修行中の人のために安く薬の材料を提供して。
失敗作でもちゃんと買い取って。
買い取ったものは初心者冒険者とか普通の村人のために安く提供する。
実際の経費よりかなり安い値段に設定されてるから、1人が買えるのはある程度まで。
いっぱい買う人には経費相応の値段で買ってもらう、って感じだね。
さっきのキュアポイズンポーションも品質低いやつは同じような売り方だね。
うちの場合、5本までは普通に売るけど、6本以上だと5倍になる。」
「5倍、より高かったですよね。」
「気に入った客には値引きしてるからね。
あんな会話もしないようなヤツと同じ値段では売らないよ。」
「やっぱり会話は大切なんですねぇ。」
「そりゃそうさ。
仲良くなるにも会話がないと難しいしね。
あ、さっきの6本買うと高い、とかいうのも、普通に会話通じる相手には教えてるからね。」
「全然会話しなかったですもんね、さっきの人・・・。」
「まああんなのでも売り上げにはなるからなぁ。
あ、臨時収入あったし、ほかのも買うなら安くしちゃうよ?」
「おお、ありがとうございます。
まずどんな薬があるんでしょうか。」
「いろいろあるよ。
ジャンクと毒消しはなくなっちゃったけどね。さっきので。」