ようせいのいたずら。
「オークにさらわれてた人、近くの村までついたってれんらくきた。
これできょうのばんごはんはとりにくー。」
「無事に帰れたのね。良かったわ。」
「脱出できたんだねー。よかった。
まあ白ちゃんの送った道具が強かったんだろーけど。」
「むー。どーぐは、鳥との戦いのときに送った武器よりはすこし性能良い感じかな?
ぼーがいと移動に特化した装備だからどっちが強いとは言えないけど。
森の中で道に迷わせたり、草をしばってころばせたり、いろいろいたずらできる。
あと、ふつうに走っても枝とか木のほうが避けてくれるようにしたり、足を速くしたりできる。
とりにくのために、すこしがんばってみた。」
「あのね、送る前にも言ったけど、もともとあの鳥は夕食のおかずに出すつもりだったのよ・・・?」
「手出しをするための理由付けがひつよーだっただけだから、きにしなくてもだいじょーぶ。
みーたんかはーたんの言葉だったら、ほーしゅーとかなくても手伝う準備はある。
そろそろばんごはんのじゅんびしよう。」
「あ、そうね。
お肉を切り分けてくるわね。」
「わたしは、飲み物とパンをよーいするね。
メインがグリフォンのにくなら、あれを出したほうがいいかなー。」
「えっと、それじゃあたしはテーブルの掃除でもしてるね。」
・・・
「にゃー。じゅんびかんりょー。」
「こっちも準備できたわ。
『鷲獅子の肩肉の燻製』。見た感じは普通の鳥肉のように見えるわね。」
「『無発酵パン「アムブロシア」』と『赤ワイン「エルフの血」』。
たぶんグリフォンの肉には合う、と思うよ。」
「毎回思うけど、そのワインの名前すごいねぇ。
『エルフの血』なんて名前なんで付けたんだろう?」
「むー。
これの場合、ただ普通の赤ワインに魔力を少し入れただけのものなんだけど、作り方を秘密にするために『エルフの血』っていう名前にしたんじゃないかな?
呪術とかだと、人間の人が魔力たりないとき、自分の血を流して魔力の浸透率を上げる手法を取る場合がある。
血で魔法陣を書いて、その魔法陣の中のことを自分の体内と同じように操るとかそーいう感じに定義するわけだね。ドラゴンが強いのも、おおざっぱには同じ原理。
だから、魔力を含んだ液体のことを、隠語で『血』っていう場合があったりそんな感じ。
とりあえず、ただ魔力がちょっと入った赤ワインっていうだけだから、にんげんのひとが飲んでも問題はないよ。
アムブロシアと同じで、少しだけ体質改善で能力値が増える、あとは、酔ってる間妖精が見えたとかいう言い伝えもあるけど、このへんにはいないみたいだから今回は関係ないね。」
「妖精が見えた、っていうのは夢があっていいわね。」
「文字通り夢を見てただけかもだけどね。お酒だし。
ときどき、お酒で悪酔いして変なことになる人もいるらしいし。」
「おなかすいた、そろそろたべよー。」
「そうね、食べましょうか。」
「それではー。
鷲獅子の肉と、なんかすごそうなパンとワインがそろったところで。
いただきまーす。」
「にゃー。いただきます。」
「いただきます。」
・・・
(もぐもぐ)
「この肉、おいしいねぇ。
普通燻製肉って言ったらものすごくしょっぱいか硬いかその両方って感じだと思ってたけど、やっぱり肉の質がいいと違うんだね。
歯ごたえがあるのに柔らかい、塩味はついてるけど濃すぎるわけではない。
このワインもなんかこう、おいしい。名前は正直どうかと思うけど。」
「らー。そうだね。
くんせい肉、やわらかくておいしい。」
「白ちゃんが作ってくれた燻製機のおかげでなんとか料理することができたけど、本当に最低限の加熱ができた、っていう程度の加工しかまだできていないみたい。
それでこの味が出るんだから、本来の味はもっともっとおいしくなるはず、だと思うわ。」
「燻製機には例のがっかり金属使ったんだよね。」
「らー。動かさないものなら、おもくなってもだいじょうぶだからつかってみた。
まだまだたくさんあるし、すこしはつかわないともったいないし。
半端に材料節約して、すぐ壊れちゃってもあとが面倒だからね。」
「白ちゃんだったら、鳥肉用燻製機と豚肉用燻製機を別に作る、くらいはやりそうだなって思っちゃってたけど。」
「み?
鳥とオークは特徴が違うから、もしオークの料理をするんだったら別の調理道具を作るよ?」
「え、豚肉、じゃなくてオーク?」
「ポータブルなオーク、略してpork。
オークをブロック状に切ったもののことだね。」
「オークを、食べるの?」
「昔は食べるひともたくさんいたらしいね。
今は小さいほうの豚がいるからわざわざオークを食べることはあんまりないだろうけど。」
「小さいほうの豚っていうのが、イラストとかに書いてある足が短くて丸い感じの生き物のこと?
豚肉って言ったらそーいう絵を想像するけど。」
「らー。それのこと、だと思う。」
「オークが最初で、それに似た味が豚だったんだ…。」
「らー。こっちではそうらしいよ。
いまはオーク肉はふつうには出回ってないだろうけどね。
オークは臭い、オークは汚い、っていうイメージを持たれるようになってるし、オークは強いから豚の代用品として出回ることもないだろうから。」
「そーいえばそうだね。
なんか不潔なイメージある。」
「そーいうイメージがなかったら、絶滅してたかもしれないね。」
「おいしいならそうかもね。
まあとりあえず、残り食べようか。冷めちゃうよ。」
「らー。たべるー。」
・・・
「燻製肉の薄切りをパンにはさんでサンドイッチみたいな食べ方をするとひと味違ってまたいい感じになるわね。
白ちゃんもやってみる?」
「らー。サンドイッチは妖精のいたずらにやられるとがっかりだけど、今回はいないからだいじょーぶだね。つくってみるー。」
「あれ、白ちゃんって妖精見えるの?妖精族じゃなくて見えないほうの妖精。」
「み?
遠くでだったら見たことがあるよ。天眼術で。
エルフの近くには寄ってこないから、近くで見たことはない。
魔力認識と、あとは発見とか看破のスキルを上げていけば見えるようになるのかも。」
「『妖精のいたずら』。どんな名人でも、ときどき大失敗をしてしまうことよね。
失敗した人をなぐさめる言葉だと思っていたけど、本当に妖精のしわざなの?」
「らー。
偶然うっかり大失敗のこともあるけど、妖精がいろいろやった結果大失敗になることもあるらしいって言われてる。
だから、どんなにスキルを上げたとしても、確実に成功する状態にはならない、っていうことらしいね。」
「それなら、エルフに近寄ってこないんだったら、妖精はエルフにはいたずらできないってこと?」
「できない、か、しないかはわからないけど、されることはないみたいだね。
だから、サンドイッチも安全に作れる。」
「それならあたしも試してみるね。近くにいないってことはたぶん大丈夫なはずだし。
こうやって、はさんでっと。
・・・うん、たしかにおいしい。ばらばらで食べるのとはやっぱり違うんだね。」
「にゃー。そうだね。
ほかにももっと組み合わせられそうな食材が見つかるといいね。」
「そうだねー。
でも、普通の材料では肉とかパンに負けちゃいそうだし、なんかこう強そうな素材が必要なのかもしれないね。
サンドイッチだったら、葉物野菜とかチーズとかがあると良いのかな。」
「むー。はっぱは農業とか錬金術でなんとかなるかも。
でも、チーズの材料のミルクはある程度以上いいものを求めるとどうしてもモンスター素材になっちゃうから難しそうだね。
おとなしくミルクを絞らせてくれるモンスターも少ないだろうし。
洗脳とか調教とかのスキルが高ければある程度までならなんとかなるとは思うけど、まだ初歩的な知識しかないし。」
「ミルクはモンスターから取れるのね。
知らなかったわ。」
「錬金術で合成することもできるよー。
安いミルクはだいたいが合成のだろうね。
気にしない人なら大丈夫だろうけど、錬金術とかそーいうの苦手な人はあんまり好まないかも。」
「まああたしは『謎肉』を食べてるくらいだから、ミルクがなんかのスキルでできてたとしても気にはならないなぁ。」
「うん、私も気にはしないわ。」
「にゃー。それならだいじょーぶだね。
まやかしのものは使わない、とか言って使わないようにするひともいるらしい、って本で読んだけど、今までの食事でも気にしてる様子はなかったから大丈夫かなとは思ってた。」
「あたしは、安くて量があって見た目もよくて味もいいならほかのことはあんまり気にはならないから大丈夫かな。」
「にゃー。
わたしも、おいしいものなら出どころは気にしないー。
おなかいっぱい、ねる。おやすー。」
「おやすみー。」
「おやすみなさい。」