おーくのひみつ。
「白ちゃんおはよー。」
「はーたんおあよー。
今日もれべるあっぷのためにたくさん寝たからおなかすいたー。
あさごはん、なんにしよーか?」
「あ、そーいえばレベルあげるって言ってたっけ。
うーん、でもまだあたしはおなかすいてないなぁ。
まだ夜明け前でしょ。」
「らー。狩衣の刻くらいだから、夜明けまでまだ1刻あるよ。」
「狩衣の刻?
囀りの刻の1刻前のことをそう言うってこと?」
「らー。昔のにんげんのひとはそういってたらしいよ。
狩衣、囀り、旅立ち、目覚め、絆、結び、帰還、眠り、誰彼、知らず。
今では囀り、旅立ち、目覚め、絆、結び、帰還、眠り。ただし結びの代わりにほかの言葉を使う人も多いらしいね。」
「ああ、絆の次は職業とかによって違うんだよね。
なんか良さそーな言葉を適当に入れる場合があるんだっけ。」
「そーみたいだね。
おなかすいた、アイテムボックスから何か出して食べるね。」
「あ、うん。
まだ買い足す必要はない感じ?」
「まだいろいろのこってるからだいじょーぶだよ。
むー。
きょうはくしやきにしてみるー。
アイテムボックスを使うと、温かいまま保存できるから便利だね。」
「あれ、普通に冷めるって言ってなかったっけ?アイテムボックスの中も。」
「み?
そーいわれてみればそうかも。
かいりょーしたんだったかな?
おなかがすいてるから、あんまりおもいだせない、かも。
とりあえず、おいしければいいんじゃないかな。便利だし。」
「うん、まああったかいままにできるんだったら便利で良いよね。
白ちゃんの魔法ならそのくらいできてもおかしくもないか。なんかいろいろ魔法増えてるみたいだし。」
「らー。もんだいなしー。
くしやき、おいしい。」
「それはよかった。
そーいえばさ、今日は何しようか?
みやっちが起きたらどこか出かける?」
「むー。
いまは、けーじばんで、オークにさらわれた人とはなししてる。
でもふたりがでかけるなら、けーじばんよりこっちをゆーせん。ついていくー。」
「オークにさらわれた人、って、それ大変なんじゃないの!?
あれ?さらわれてるのに話はできるの?」
「おーくだけど、はいいろじゃなくてみどりだからたぶんだいじょーぶ。
はなしは、けーじばんのまほうだといろんなところからおはなしできる。」
「あ、オークは灰色が強いの?
エルフの灰エルフみたいに名前だけってことじゃなくてほんとに灰色?」
「み?
はいいろがつよい、じゃなくて、みどりがよわい。
本来肉食、みどりは雑食、あんまり胃腸強くない、ちからを取り入れるのすくない。そのぶんよわい。
にんげんのひととくらべると強いと思うけどね。」
「灰色が普通のオークで、緑が弱いオークなんだね。
でも、雑食ってことは、やっぱりさらわれた人危ないんじゃない?」
「緑オークは、オーガと間違えられないように、姿を変えた。
緑オークは、色を変える儀式のふくさよーで、『自分たちで食べるために殺した動物』は食べられなくなってる。あと、人数がすごく増えにくい。
動物食べられないから、野菜とか果物が主食。
お客が来てるときは、お客のために動物を捕まえて、お客が食べ終わった後の残り物なら肉を食べれる。
肉を食べると、オークの本来の力が少し戻る。
お客がごはん食べれる状態じゃないと、残り物にならない。だから、お客の立場なら、殺されるとかいう心配は、ほとんどない。
お客が『人間の料理が食べたい』とか言わない限りは、大丈夫。」
「あ、その言い方だと、『鳥の料理が食べたい』みたいな意味でとられると危ない、ってことね。
人間が作る料理じゃなくて、人間が材料の料理、っていう意味にとられかねないってことか。」
「らー。そんなかんじ。
ふつうに、食べたいものを言って、食べきれないときは残す、っていうことをしてれば、あぶなくなることはない。
あとは、オーク族に戦いをしかけちゃった場合は返り討ちにあうかもしれないっていうくらいかな?」
「うん、まあ草食のモンスターだってこっちが攻撃すれば反撃はしてくるし、あたしら人間だって襲われたら相手が食べられないモンスターだとしても倒そうとはするだろうしねぇ。」
「らー。そんなかんじー。」
「で、その『けーじばん』でそういうことを教えたってこと?」
「み?
おしえてないー。
逃げるならいつがいいか、くらいしか教えてないよ。
オークが全滅とかしても困るだろうし、オークが草食モンスターに近い、とかいうことはひみつ。きかれればこたえるけど。」
「オークが全滅すると困るの?」
「らー。
オークは、強さのわりに、生息域広がるの遅い。人間の集落を狙うこともほとんどない。
だから、オークが近くにいる街は、モンスターの襲撃がおこりにくいことになってる。
ほかのモンスターがオークの縄張りを越えるのには時間かかるからね。」
「そうなんだ、オークって言ったら、人喰いで狂暴で強い、っていうものだと思ってたけど。
いたほうが安全なの?」
「むー。
たぶん、そのイメージは『オーガ』のほうのイメージかな。
灰色オークを大きくしたようなモンスター。オーガは人も襲うし食べる。
それか、『人間の料理を食べたい』って言っちゃった人がいたかどっちかだと思う。」
「食べたいって言っちゃったら準備されちゃうってのも怖いよね。」
「むー。
知らない種族と話をするときには、どういう意味で伝わってるのかを確認しながら話したほうがいいかもね。
変な伝わり方してたとしても、へんだよー、っておしえてくれるあいてばかりなわけでもないし。」
「変な伝わり方だってわかってない可能性もある、ってことだね。
さっきの話だと、人間のほうがオークに『人食い』って思われてることになっちゃうし。」
「らー。
人間はへんなものたべるんだなーって思われてると思うよ。」
「へんなもの、って、そーいう程度の話じゃないと思うけどなぁ。
同族を食べるとか、普通は考えもしないでしょ。」
「らー。だから、変な生き物なんだなって、思われてると思う。
よっぽどの事情がないと、かかわりたくない感じ?
だから、旅人が狙われることはあっても、村とか町は狙われにくい。」
「ああ、そっか。
人間が『人食いのモンスターがたくさんいる場所』に近づきたくない、ってのと同じことを相手も思ってるわけだ。
それなら、村とかまでどうにか逃げれば安全、だね。」
「らー。そうなるー。
そろそろおなかいっぱい、きゅーけいしてるね。」
「あ、そーだね。
ごめんね、食べてる途中に長話しちゃって。」
「み?
たべながらおはなしできたからだいじょーぶ。
それじゃ、しばらくすみっこのほうでころがってるね。」
「うん、おやすみー。」