ぶどうをめざして。
「それじゃ、ブドウの木のところまで歩きましょうか。」
「らー!」
「そーいえばさ、さっきの話のことで白ちゃんに聞きたいことがあったんだけど、歩きながら聞いていい?」
「らー。どうぞー。」
「あたしとみやっちって、人間以外だったのかな?
さっきの「マリアさん」から見ると人間以外だと確信するような感じだったってことなわけでしょ。」
「み?
人間の人だと思うよ?
服を体の延長と位置付けるのは魔力付与の基本。魔力循環を体と服の両方を通すのは少し難しいけど、できないわけじゃない。
服と体を合わせたものをもう一つの体と位置づけ、それに、本来の体が持たない特徴を持たせることも可能。
今は、『ボス体質』を不完全だけどつけてるし、『その服を着た状態では人間ではない』という言い方もできる、かも。」
「えっと。
それって、たとえば『呪いの仮面を装備した人間』がモンスターとして扱われることもある、みたいな意味?
もとは人間でも、装備しだいで変わる場合もあるってことだよね。」
「らー。だいたいそんな解釈でいいと思うよ。
その装備には、『識別』系列のスキルをある程度ごまかせるスキルはついてるけど、視覚以外の感覚を中心にしたスキルはごまかせない。
だから、スキルによっては必要以上に大物と認識されることもある、かも。」
「なるほど。
つまりは、この服にすごいスキルが付いてるから、着てるあたしたち自体が強いって認識されちゃう場合もある、そして今回はそういう認識されちゃったってことね。」
「らー。そんなかんじ。
だから、たぶん人間の人だね。」
「なるほど、白ちゃんがそういうならとりあえず安心だね。説明ありがと~。
そんなこと言ってる間に、ブドウの木まで来たわけですが。
ブドウって、こんなに一つの木にたくさん実がなるもんだったっけ?
葉っぱの色より実の色のほーが多く見えるとか相当だよこれ。」
「ひょうほんすうをふやすことにより、しんじつからとおざける?
そんなかんじー。
たぶん、たくさんあるっていうことのえいぞうてきひょうげんなだけだと思うから、きにしてもしかたないとおもう。
とりあえず、だれでもとれるけど、なんこかとると、しばらくそのひとはとれなくなるみたいだね。」
「ああ、まあワインが名物、っていうくらいのところなら材料もたくさん使うよねー。
・・・だれでも取れるのに無くならないんだねぇ。」
「らー。
取った分もすぐはえてくるみたいだよ。
取った人が見てないところで一つ増える、合計の数は変わらない。
だから、たくさんの人が取ってもなくなることはないはず。」
「えーっと。
あたしの知ってる範囲では、だけど、街の中でだれでも取れるものといえば、雑草とかが主だよね。
果実とか穀物とかは、普通は誰かの所有物になってるはずだけど。
たくさんの人が取ってもなくならないブドウ、なんて作れるものなの?」
「らー。あるよー。
『領域』のスキルと『農業』のスキルを併用すればある程度の品質の物まではつくれるー。
でも、その作り方を考えても、土とか水とかの品質に対してブドウの木の品質が高すぎる感じだね。
少し不自然。
偶然スキルが高い人がいて最低限の活動しかしてない、という可能性もある。
もしくは、この世界の維持のために奇跡が起きてるかも。
現状なにかをしなくちゃいけないわけではないけど、記憶には残しておくべき、かな。」
「奇跡、なんて言葉を白ちゃんが言ってるの聞くのは初めてな気がする。
そんなに難しいものなの?この木を作るのって。」
「むー。
品種特性とかまで見切ってるわけじゃないから、分析内容が全部正しいとは言いきれないけど。
ここの水とか土とか日当たりとか、いろんな条件を考えてみても、ブドウは品質がかなり悪いものが少しだけできる、くらいが妥当な感じ。
こんなに品質が良いものが大量にできるような環境ではない。
なにか木の品質を大幅に上げるような要素があったんじゃないかなと思う。
たとえば木を植える時に領域とか祝福で強化したとか、農業関連のスキルがものすごく高い人が作業してるとか、この木が生えた時点ではものすごく質が高い環境だったのが最近急激に悪化した、とか?」
「もし急激に環境が悪化したとすれば、これからこの木も弱っていくことになりそうね。」
「品質を大幅に上げるような要素・・・。
つまり、白ちゃんみたいな技術を持ってる人がいる可能性もあるってことかな?」
「み?
わたしの農業技術よりは上の人がたくさんいるんじゃないかな?
錬金術とかで多少はごまかしがきくとはいっても、基礎的なことの経験が足りてないし。」
「あ、そっちの意味じゃなくて。
白ちゃんがてきとーに刈ってきた草からポーション作れちゃうみたいに、品質悪い土からでも良い感じに木を育てられるよーな農家の人がいたっておかしくはないかなーって思った。」
「らー。そういういみだったらありそうだね。
そーいう技術がある人が、あえて手加減して木を育てたとすれば、この状況も説明できる、かも。」
「ああ、普通に考えれば、そんな『質が悪い土から良質な木を育てる』なんて面倒なことするよりも、土の品質を上げるほうが簡単だよね、たぶん。
そんな『常識を超えた実力』の農業技術があるなら土壌改良の技術くらいは持ってるだろうし、その実力を使って土壌改良とか品種改良とか全力でやってれば、ものすごいものができそうな気がするよ。」
「らー。そうだねー。
・・・そろそろ、ぶどうとろうか。ねむくなるまえにたべたいし。」
「そうね。もらっていきましょう。
いくつくらい取れるのかしら。」
「どうだろうねー。
多めにとれるといいけど。」
「たくさんとれたら、料理の練習につかってみたいな。
パンとかクッキーに入れたらおいしそう。」
「そうだねぇ。干しブドウが入ったパンとか作れたら、保存食にもできるしいいかもね。
まあ白ちゃんの場合はアイテムボックスがあるから普通の食べ物でも持ち歩けるんだろうけどさ。」
「白ちゃん、クッキーやパンを焼くにはオーブンか窯みたいなものが必要だと思うんだけど、ひょっとしてそういうものを作るところから始めるのかしら?」
「むー。そのへんはまほーでなんとかしようとおもうー。
レンガとかから作ってたら、けっこう時間かかりそうだし。
失敗したら錬金術で材料に戻せばいいだけだから、試しに焼いてみるよ。」
「材料に、戻せちゃうんだねぇ。」
「その技術を使って作るものがおいしいパン・・・なのよね。」
「むー。
おいしいパン、じゃなくて、すごくおいしいパン。もくひょー。」
「あ、そっか。
白ちゃんの場合、辛くなければだいたいのものが『おいしい』って評価になる感じだから、自分で作るなら『すごくおいしい』くらいが最低条件になるわけだ。」
「らー。そんなかんじー。
夜になってみーたんとはーたんが眠ったら、つくってみるね。よるひまだし。
いいのできたら、あさごはんでたべてみよー。」
「りょーかい。楽しみにしてるねー。」




