いたみどめ(いたくならないわけではない)
(とんとん)
「おはよー。テトラさん、起きてる?」
「スミシーちゃん、待ってたよーっ!」
(ぎゅっ)
「むー。」
「あんなによく眠れたの、呪われてから初めてだったわ。
ほんっとうにありがとう。
この指輪があればこれからも生きていけそうな気がしてきたよっ。」
「つぶれそう、わたしはいきていけそーなきがしない。」
「あっ、ごめん、力入りすぎてたね。
痛かった?ほんとごめんなさい。」
「力入ってるとかいう以前に、だきしめる前にひとことほしかった。
あんまり痛くはなかったから大丈夫だけど、とりあえず失敗作のポーションは飲んでおくね。」
(ごくごく)
「えっ、ポーション使うほどだったの?
それって、どこか骨とか痛めたの?本当に大丈夫?」
「ポーションって言っても、店で買取してくれないくらいの品質のポーションだから気軽に使ってるだけ。だから大丈夫だよ。
これは他人に渡すわけにもいかないし。」
「店で買取してもらえないポーションなんてものもあるの?
成功してればなんでも買い取ってくれるんだと思ってた。」
「むー。
これは、わたしはポーションっていう名前で呼んでるけど、ポーションの作り方から外れてるから、実際は変な液体、ってかんじ。
じぶんでつかうぶんには、ポーションの作り方をなぞる必要もないし。
まあこれはどーでもいいとして、指輪の効き目はどうだったかな?
さっきの言葉からすると、わるくはなかったみたいだけど。」
「えっとね。
寝る前の痛みはほとんどなくなったよ。全身筋肉痛くらいの痛みになったかな?
眠ってるときは、なんて表現したらいいのかな。やっぱりすごく痛かったんだけど、指輪付ける前とは全然違うの。
全身バラバラになりそうなくらい痛いけど、ちゃんと眠れるくらいの痛み?」
「あるていどはききめがあった、ってことだね。」
「うん、ばっちり効果あり。
お礼の本渡しておくわね。
はい、これが約束の本4冊よ。
スミシーちゃんの役に立つこと書いてあればいいけど。」
「み?
まだ治ってないと思うよ?」
「呪いを解くか弱めるかできれば成功だって言ってたわよね。
痛みはすごく軽くなってたわけだし、成功でいいんじゃないかな。」
「それじゃ、かりるね。ありがとー。
むー。まず本しまう前にポーチを空にしないとだめだね。」
(ごそごそ)
「あった。割れてなかったみたいだね。
このポーションを、だいたい3刻ごとくらいに飲んでね。
これ飲んでおけば、いたみがもうちょっと弱まるはず。
飲み忘れたぶんはあとでまとめて飲んでも大丈夫。
1日4本として、5日分の20本渡しておくね。」
「ありがとう。痛み止めってことかな?」
「一応、解呪のポーション。でも今回は痛み止めが目的だから、だいたいあってる。
呪いを完全に解くにはこのぽーしょんでは全然力が足りないけど、一時的に痛みを少し軽減することだけならできるはず。
れんしゅ―で作ったものの残りだけど、たぶんまだいくらか効果は残ってるはず。」
「えっと、なんだか、ビンだけで呪いが解けちゃいそうな雰囲気を感じるんだけど。
よく見るとビンが光ってるようにも見えるくらい。」
「ふんいきだけだねー。
封印が半端にしかできてないから、解呪の力が少しもれてる。
そのぶん、あんまり長持ちはしないと思うし、冒険者協会とかでは買い取り拒否されるくらいの感じ。
まず、根本的に需要が無いしね。このぽーしょん。」
「そうなんだ。呪いを弱めることができるなら役に立ちそうだけど。」
「このぽーしょんは1本で呪いを解けるほど強くはないし、今回みたいに弱いポーションでも多少の効果がある呪いってのは意外に少ない。
あと、このレベルのポーションの効き目をきゃっかんてきにに調べることができるくらいの人なら、似たような物は作れると思う。
だから、わざわざ買おうとする人は、たぶんあんまりいない。」
「見るからに強そうな感じがするけど、それでも力不足なの?」
「らー。そうなるね。
呪いっていうのは、精神に攻撃するものと肉体に攻撃するものと物質に攻撃するもの、あと幸運不運とか、ものすごく種類がある。
解呪ポーション、って言われてるものは、それ全体にある程度の効果があるように作られる。
そのぶん、ききめはたいしたことない。「万能薬」があんまり効き目がないのと同じ理由?
対症療法でポーション使って、そのあいだに呪いの弱点見つけて解呪するのが無難な方法かな。」
「んーと、つまり、身体に攻撃してくる呪いをなんとかするポーション、みたいに制限かけて作らないとあんまり効き目がないってこと?」
「らー。そんなかんじ。
体のどこを攻撃してくるのか、宗教的な概念を利用した呪いならその宗教の情報、あと呪具はどんなの使ってるのか。
そんな感じの情報をたくさん持ってるほど、ぴんぽいんとで狙って解けるから、コストが少なく効果が高くなるよ。
あと、呪いにはだいたい極端な弱点が設定されてるから、それも見切れれば一番楽だね。
そーいうのなしで弱体化させるなら毒とかのほうが効率いいから、弱点が無い呪いならそれはそれでらく。」
「んーっと、弱点が無い呪いはそのぶん弱い。
弱点がある呪いは、その弱点をつかれなければすごく強い?」
「らー。そういうことになる。
同じように薬も、なんにでも効く薬は、その分効き目が弱い。
こんかいのばあいは、『注入型の呪い』『体全体に広がる』っていう感じだと思うから、内服薬型のが多少相性良いはず。針状のものでもいいんだけどそれだと本人が受け入れる感じにならないし。
体の一部に集中する呪いだったら場所によって目薬とか軟膏とかそーいうのが効き目があった感じ。」
「それなりに『弱点をついてる』ともいえる、ってことね?今回は。」
「にゃー。そんな感じ。
でも、まだまだ情報が足りないから、この薬で時間稼ぎしながら、もっと情報集めして改良したポーションに変えていかないといけない。
今わたしたポーションとさっきの指輪の組み合わせだと、たぶん何年かは治療にかかる。
だから、もっと細かいレベルまで解析して、もっと弱点をつける薬にする。
とりあえず次は、『呪毒物の解呪』に専門化したポーションを作ってみる。すこしむずかしいから完成までたぶん3日か4日かかる、無理そうなら今の薬と同じ物を補充しにくるね。それじゃ、作業しなくちゃいけないからかえるー。」
「え、わざわざ私にかかった呪いのためにポーション作ってくれるの?余った物とかじゃなくて。」
「らー。つくるよー。
在庫で治らないなら、ある程度改良するくらいはする。
今のポーションだとものすごくたくさん必要になるから、つくるのも持ってくるのも大変だし。
それなら、改良して簡単に終わらせた方がらく。
眠くなる前に帰るー。それじゃね。」
「ありがとう・・・。」