故意のポーション
帝国中央図書館の地下にある仮眠室。
金銭的に厳しい環境にある新人職員のため、という建前で整備されているが、それ以外の目的で使われている部屋もある。
その仮眠室の中の一つ、2人の職員と一人のエルフが貸し切り状態で使っている。
部屋に寝具が2人分、そして丸めた毛布のようなもの。
そのほか、大量の薬ビン、厚紙の束、大きなぬいぐるみなど、仮眠という言葉とは関係なさそうなものがいろいろ置かれている。
3人は部屋の中央に小さな敷物を敷いて、朝食をとっているようだ・・・。
「にゃー。この揚げ物おいしいね。」
「そうだねー。
適当に買ったから変な味のも多かったけど、これは当たりだったね。
ちょっとにおいが強いけど、味は文句なしにおいしい。
まあにおいはしばらくたてば落ちるし大丈夫だよね。」
「敷物の裏に消臭の魔法陣つけてみたから、あるていどまでのにおいならすぐおちるよー。」
「それなら安心ね。ありがとう。」
「敷物の裏に魔法陣書いてあったんだ?
なんかびみょーに魔法の気配するなぁとは思ってたけど、そういうことだったんだね。」
「らー。
あんまり違和感感じない程度の弱い魔法陣にしてたから、見えないような場所にあれば気になりにくい、かも?」
「でも、普通に食べ物のにおいはするよね。
臭いが残りにくくなるってことなの?」
「らー。そんなかんじ。
臭いが出てからしばらくたつと弱くなっていくようになってるよ。
だから、臭いのもとになるものがある間は、普通ににおいはする。」
「なるほどー。
食べる時に臭いしないってこともないわけだ。便利だねー。おいしそうなにおいの時は消えないほうが嬉しいしね。食べてるときは。」
「にゃー。べんりだねー。
ごちそうさま。おなかいっぱい。」
「ごちそうさま。ゴミ片づけてくるわね。
ついでに本も返してくるから少し戻るまで時間かかると思うわ。」
「ごちそうさまー。いってらっしゃーい。
そーいえば、白ちゃんに一つ頼みたいことあるんだけど、良いかな?」
「はーたんがたのみごと、めずらしいね。
できることならだいたいだいじょぶだよ。」
「ありがとー。
えっとね。難しいなら無理しなくていいんだけどさ。
ポーションで簡単に作れるよーなのってある?
職場で戦闘訓練の時に使うぶんが少し足りなくなってきたから、気軽に使えるやつが欲しいなーって思ったんだ。
この前くれたのはかなり強い感じなんだよね。」
「み?
つくりかたをれんしゅうしたいのか、わたしが作ったのでいいのか、どっち?」
「白ちゃんが作ってくれるならそっちのほうが嬉しいな。」
「らー。それなら、簡単なの在庫出すね。
あいてむぼっくすー。」
「ありがとー。
材料集めするときはいつでも手伝うからね~。」
「ざいりょーはいまのところだいじょぶかな。
ちょっとまえに草取りに行ってすこしとったし。
たりなくなったらおねがいー。
よいしょ、このくらいかな。」
空中に開いた空間のゆがみに手を入れ、ひもで何本かずつ縛ってまとめてあるビンを引っ張り出す。
その後も何度かビンを出していき、敷物の上に十数種類のビンを並べたところで手を止める。
「おおー、ずいぶんいっぱいあるんだね。」
「簡単に作れて使うのも簡単、っていう条件だと、このくらいになる。
魔力感知つかえば、だいたいどんな感じのポーションかはわかるよね。
あぶないのもすこしまざってたとおもうけど。」
「あ、そうなんだ?
えーっと。魔力魔力・・・。
お、なんとなくわかってきたよ。」
「にゃー。魔力感知は鍛えておいて損はない感じだね。
あと魔力制御もかなり重要ー。」
「制御は練習してないなぁ。
んーと、これは毒消し、でいいのかな?」
「らー。どくけしだね。」
「やった、正解。
そんで、これは・・・毒!?」
「らー。毒のポーションだよ。
普通のビンで作れるくらいのだからあんまりつよくはないけどね。
それより酸のポーションとかのほうが簡単に作れるから実用性はあんまりない感じ。」
「えーっと。
ポーション、なの?毒薬とかじゃなく?」
「毒のポーションだよ。回復薬なんだけど、副作用で毒が付く。
毒のほうが回復効果より強いから、毒薬に近い。でもぽーしょん。」
「えーっと。回復より毒が強いポーション、って、毒薬、だよねぇ。」
「むー。
分類上は、ぽーしょん。それでも。
似たようなのに、酸とか痛みとか呪いとか即死とかあるけど、それもぽーしょん。」
「そーなんだ・・・。
って、ほんとに強酸と激痛がある・・・。
簡単に、つくれちゃうんだねぇ。
えーっとね。回復のポーションに限定すると、どれになる?
ふつーの人が使うと回復のほうが強いって条件で。」
「それなら、ここからここまでが体力と傷回復のポーションで、このへんが状態異常の治療薬いろいろ。
魔力とか気力回復は、ちょっと作るの難しいから今回は出してないけど、必要なら出すよ。」
「それじゃ、体力回復のポーション、3本くらいもらっていい?」
「らー。どうぞー。」
「軽いけがでも使っちゃっていい?」
「らー。もちろんいいよー。」
「ありがとー。
けっこー訓練の時の軽いけがって多いのよねー。」
「ぴ!?
戦闘用の装備を作っておいたほうがいいね。
基本はミスリル糸で良いとして、アクセサリーに使う宝石が良いのが無い。
とりあえず魔導結晶でいいか。多少は使えるかもしれないし。
それと身代わりの指輪の完成を急ぐ必要がある。
あとは上級魔力付与の魔導書の解読ももうちょっと急がないと」
「あのー、白ちゃん?
ひょっとして、軽いけが、っていう言葉の意味がエルフと人間で違うとか、なのかな?」
「たぶんおなじとおもうー。
軽いけが、は、死ぬ一歩手前。」
「いや、そこまでひどいことじゃないからねっ!?」