許可証をもらいに行きます。
帝国中央都市は、外周に建てられている高い壁で守られている。
その壁は都市内の牢獄の壁よりも堅牢にできていて、どんな魔物が来ても大丈夫だと信じる住民も多い。
壁の内側には、いくつかの大きなテントが設置されていて、冒険者や商人などがそれぞれテントに入っていく。
「にゃー。このまちの壁って、こーいう感じなんだねー。」
「すげぇ壁だよな。
小さい町にはこーいう壁無いらしいぜ。どーやって守ってるんだろうな。モンスター来たとき。やっぱ住民で全部追い払うのか?」
「むー。
こことあんまり変わらないと思うよ。
きほん、たたかいがおこらないようにする。
たたかいがおきちゃったら、はやくおわらせる、ってかんじだとおもう。
かべは、まもるためにあるんじゃなくてまもらないためにある。」
「守らないため?
えっと、戦いが起きないようにすれば、守る、っていう行動も必要なくなる、ってことかな。」
「らー。そんなかんじ。
ふつうの壁は逃げたり攻撃したりできないわけだから、頑丈な壁でもずっと攻撃してればそのうちこわれる。
だから、こーげきする気も起きないようななにか、もしくはこーげきを続ける気が無くなるようななにかがひつよう。
まあこの壁が普通かどうかはべつのはなしだけど、ね。」
「例えば、壁をたたきに来たやつを派手に攻撃して追い払う、とかもアリだよな。そーいう考え方なら。」
「にゃー。そうだねー。
モンスターの知能、だけじゃなく、状況に応じた行動の変化の幅がどの程度かによって違ってくるけど、そういう方法も対策になると思うよ。」
「まあ今回はゼライムだけしか出ないところに行くんだから関係ないってことでいいんだよな。」
「らー、そうだね。
とりあえず、テントで町を出るための書類もらわないといけないから、並んで待とうか。」
「うん、そうしよう。あの列が短くて楽そうかな。」
「テントに入ったら、話はわたしにまかせてね。
書類上はわたしがリーダーになるから、わたしがしゃべったほうが外出許可取りやすいはず。
ふたりは、わたしの横で、話を聞いててね。聞き逃さないように注意だよ。」
「わかった。よろしく頼むぜ。」
「うん、僕たちはしゃべらないほうがいいんだね。」
「らー。よろしくー。」
・・・
少し待っていると、順番が来たので3人はテントに入った。
大きなテーブルがあり、向かいには事務員が座っている。
「お待たせいたしました。
あら、子供3人?街の外に出る人の受付よ、ここ。」
「らー。知ってます。街出ます。
4級ぼうけんしゃ『スミシー・ホワイト』、同行者7級ぼうけんしゃ『ペンタ』、同じく7級『オクト』。3人で採取にでかけます。
わたしは1か月ぶん、あとのふたりには1回ぶんの外出許可をおねがいします。」
「そういえば子供でも4級がリーダーだと外出できるんだったわね。
それじゃ念のため、注意事項を確認してもいいかしら?」
「らー。だいじょうぶです。
3人全員が無事に帰って来た場合だけ成功として扱われる。
無事でなかった場合はいろんな形での『代償』を支払うことになる。
ただし特定のモンスターに出会った時には、人数が足りなくても成功あつかいになる場合もある、ですね。」
「特例項目まで覚えてるのね。
それなら大丈夫そうだから許可は出すけど、わざわざ『特定のモンスター』を探すとかはしないようにね。
初めて採取に出かける人が出会ってしまうこと多いらしいから。」
「らー。出会わないように気をつけます。
でも出会いそうなときは倒してしまってもかまわないんですよね。」
「もし出会ってしまったら、倒すか逃げるかするしかないわね。
倒せはしないでしょうけど。」
「それなら、出会ってしまった場合はその場で考えることにします。
あとは何か確認することありますか?」
「あとは帰ってくるのがいつの予定か、どのくらい遅れたら事故と判断することにするか、帰還しなかった場合の捜索や遺言や伝言などを依頼しておくか、くらいね。」
「帰還予定はわたしがこのテントを出た時から1刻以内、もし3刻で戻らなかったら遭難したと判断してください。遺言は必要ありません。探索依頼も必要ありません。」
「目的地は近くみたいね。
町の近くでも油断はしないようにね。
大きなモンスターがいないときでも、誰かが蹴ったゼライムで怪我したりする人も多いから、気を付けてね。」
「むー。それは怖いですね。
気をつけます。」
「それでは4級冒険者『スミシー・ホワイト』に1か月分の外出許可、同行者7級冒険者『ペンタ』、同じく7級冒険者『オクト』に1回分の外出許可を発行します。
ただし、出発から3刻以内に街に戻らなかった場合は遭難として扱います。
『書類作成』。はい、この紙が許可証明になるわ。気を付けてね。」
「にゃー。ありがとうございます。」
事務員にお辞儀をして、テントの外に出る。
「これで一回だけ街から出れるよ。
二人のは同行者としての許可書だから、わたしと一緒じゃないと出れないけどね。」
「本当にありがとう。これで浄化のハーブを探しに行けるよ。」
「チャンスは1回だけ、か。
この1回でなにがなんでも浄化のハーブを手に入れてやるぜ。
挑戦できるのもスミシーのおかげだな、ありがとな。」
「ところで、出発した後はどうする?
バラバラに行動することにするの?」
「え、ばらばらで行動しても大丈夫なのか?」
「らー。
はぐれたときはわたしの評価が下がるだけだから、問題ないよ。」
「いや、それは問題あるよね。」
「み?
ひょーかが下がって困るようなこともないし、別に気にしなくても大丈夫だよ。
わたしと一緒に行く場合は、探索活動できる時間がものすごく短くなるし。
あるくのおそいし眠くなったら帰らなくちゃいけないから。
具体的に言うと、あるきならたぶん目的地まで4小刻くらいかかるから、眠くなるまでの時間を計算すると探索や採取に使えるのは四半刻くらいしかない。
帰る方法を変えればもうちょっと時間確保できるけどね。」
「えっと、やっぱり一緒に行動してもいいですか?」
「むー。そのしゃべりかた、きらい。
いっしょに行くのはだいじょうぶだよ。」
「あ、ていねいな言葉は嫌い、なんだったね。」
「にゃー。そんな感じが良い。
それじゃ、このままいってみよー。」
「おう!」
「うん、行ってみよう!」