交渉準備
壁に貼られた紙。
その紙に描かれた魔法陣が紙の大きさを超えて壁に広がり、扉へと変わる。
その扉をゆっくりと開き、小さなエルフが姿を現した。
「にゃー。やっぱり入り口と出口の向きが同じだと入りやすくて便利。
こびっとさん、こんにちはー。」
「こんにちは。お久しぶりです。
来てくれてありがとうございます。
これは今回のぶんの本と、銀貨です。」
「ありがとー。前回の本返しておくね。」
「そういえば、少し気になったことがあるんですが。」
「み?
どんなこと?」
「シロちゃんは名前に『さん』とか付けて呼ばれるの嫌いなんですよね。」
「らー。そーだね。」
「そのわりには、私とかマリアさんには『さん』付けて呼んでるのはどうしてなんでしょうか?」
「み?ついてた?
私の言ってる『コビットさん』っていうことばは、うしろにつけてるんじゃなくて、ぜんたいをへんけいさせてる、って認識してるけど。
自動翻訳の時にへんなほんやくのされかたされてるのかもね。
変な感じに聞こえてるなら呼びかた変えるから、言ってね。」
「あ、ちょっと疑問に感じただけで不快に感じたりは全然ないので大丈夫です。」
「にゃー。それならこのまま『コビットさん』ってよぶね。
そこに立てかけてある棒が、この前言ってた『長さの基準になる物』かな?」
「あ、はい。長さの基準になるような物を探してみたんですが、同じ1メートルと言っている物でも、かなりのばらつきがあるようでした。
とりあえずたくさん買ってみてその中で真ん中くらいの長さの物を用意してみました。」
「ながさのばらつきは、薬品調合用の計量道具の形が歪んでるくらいの技術レベルだし、仕方ない。
こっちが正しいの使ってても、地図とか伝記とかに残ってる情報のほうが間違ってる可能性高いし。かなりの誤差があることを前提として動く必要があると思う。
とりあえず、コビットさんとの会話の間は、その棒を1メートルとして話する。
そして、この棒の長さの1000倍を1きろめーとると考える。
ところで、どんなものを調べるのかな?
前回みたいに居た場所の位置関係を調べる、じゃ無意味だよね、だいたいはわかってるわけだから。
聞かれる前に言っておくけど、この能力を前提として場所と場所の距離を聞かれた場合、結果には幅を持たせて答えさせてもらう。だから、あんまり細かいのを期待されても困るよ。
私の飼い主の場所を基準に方向と距離を測定する能力だから、実際は飼い主に近ければ近いほど正確に調べられるんだけど、わかった数字をそのまま出しちゃうと飼い主までの距離が近いかどうかわかっちゃうし、そこまでの情報を出すつもりはない。
とりあえず、難しい話の前にごはん食べに行こう。おなかすいた。」
「では食事にしましょう。
場所は前回と同じ酒場でいいですか?」
「らー。そこでだいじょうぶー。
なにを質問するか考えておいてねー。」
さて、コビットさんは何を質問するのか?
白ちゃんが眠気に負ける前に、有力な情報を聞き出せるのか?
今回も制限時間(眠くなるまでの時間)はたぶん短いぞ!




